煙草



 

――11月11日

切嗣の誕生日。藤ねえに誘われて一緒に墓参りに行ってきた。
昨年までとは違う気持ちで墓前に立てたのは、
やっぱりあいつの存在を知ることが出来たからだろう。
その当の本人、アーチャーは、朝から姿を見せていない。
多分、俺よりも切嗣に対して抱く感情は複雑なんだろうと思う。
あの冬の日の最期を、『呪い』とまで言い切ったのだから。



藤ねえと別れて帰宅する。
ただいま、と声に出しながら玄関をくぐると、庭先からアーチャーの気配を感じて、
そのまま俺は庭の方へと廊下を進んだ。

「……あれ、……?」

ふいに漂ってきた独特の匂い。
煙草の煙、だ。
その匂いを、俺はよく、知っていた。
「――じーさん、」
知らず呟く。足を速めて、庭先が視界に入って――そこには。
アーチャーが、いた。

こちらには背中を向けている。
上下、黒に身を包む、その姿は何時もと変わらない。
違うのは、その手にある―――煙草。
口元に持っていき、ゆっくりと吸い込んで。
煙草を口から離すと共に、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
手慣れた仕草。
だが、初めて見た。アーチャーが煙草を吸う姿を。


「アーチャー…」
呼びかけた声は震えずにすんで、ほっとする。
とっくに気付いていただろうアーチャーは俺の呼びかけに振り返り、
おかえり、と言ってくる。それに、ただいまと返して、
「…煙草、吸うんだな。知らなかった。」
そう続けた俺に、アーチャーは何かを考える素振りを見せた後、
「吸う本数は、年に一箱にもならないがね。」
言って、また煙草に口をつける。
摩耗して記憶も定かではないが、体に染み付いた習慣は抜けないものだなと、
煙と共に小さく吐き出したそれは、俺の耳にも届いた。
それで、俺の予感は確かなものとなる。

アーチャーは、生前、何時頃からかは分からないが、
切嗣を偲ぶ為に、切嗣が好んでいた銘柄の煙草を吸うようになったのだろう。

似てはいない筈だ。
なのに、そこに切嗣がいるかのような錯覚に、眩暈がする。


縁側でただ立ち尽くす俺の傍へと、アーチャーが近付いてきた。
短くなった煙草を吸って、距離が縮まり。
突然、胸倉を掴まれる。
驚く間もなく俺は、アーチャーに口付けられていた。
「!!?」
そして、受け渡される煙草の紫煙。
目の前の男の肩に手を置き、力を込めて自分から引き剥がす。
あっさりとアーチャーは離れて、俺は盛大に咳き込んだ。
「げほっ、なに、す…!!」
むせて涙目になりながらも睨みつけると、
「…く、ハハ…っ、物欲しそうな目で見ているからだ。」
アーチャーは声を上げて笑いながら、そう言ってきた。
どこか幼い笑顔に驚き、毒気が抜かれる。
アーチャーは何事もなかったかのように、俺から数歩離れて、
再び煙草を吸い始めた。


胸が苦しいのも、涙も、吸い込んだ煙のせいだ。
そんな風に俺は自分を無理矢理納得させて、ぐいと腕で目元を拭った。
何故かそのまま立ち去ることが出来ずに、俺はアーチャーが煙草を吸う姿を見ていた。
空へと立ち上っていく紫煙。
アーチャーは何を、想うんだろう。


ぎりぎりまで吸って、そのあとポケットから携帯灰皿らしきものを取り出すと、
火をもみ消して片付けたアーチャーは、家の中へと戻ってくる。
「何を呆けている、衛宮士郎。」
口端を上げながら声をかけてきたアーチャーは、軽く俺を小突いた後、
居間の方へ歩いていった。
「っ……」
何かを言い返そうとして、結局何も言い返すことが出来ず、
俺は一度だけ唇を噛み締めた後、ばたばたとアーチャーの後を追うように居間へと向かった。

すれ違ったアーチャーの服から漂った煙草の匂いの懐かしさに、気付かないふりをして。



その後、それとなく聞いてみると、アーチャーが吸った煙草はたった一本だったらしい。
理由は聞かなかった。
なんとなく、深く触れられたくはないだろうと思ったからだ。
説明できない気持ちがあることを、俺は知ってる。
きっとアーチャーも、そうなんだろうと。






アーチャーが笑う所は、ぜひ、「大丈夫だよ遠坂」の声でお願いします。
…といいながら、自分はどうしてもあの、独白の所のswb声がぐるぐる…
爽やかに、子供っぽい声で、ね!!可愛いと思うんだ!!(と夢をみている)
煙草を吸う姿も様になると思う。







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