なんとなく二人で出かける。
電車を乗り継いで、辿り着いたのは海。
季節柄か、人の姿は無く、吹く風も冷たい。
砂浜を歩く。ゆっくりと。
アーチャーも俺のすぐ隣を歩く。
言葉は無い。

しばらく歩いてから立ち止まり、海を見た。

空と海の『青』。
衛宮士郎の世界には無い色だ。


「…どうした。」
アーチャーも立ち止まって静かに問い掛けてくる。
「うん。俺達の世界には無い色だなって、思ってさ。」
俺はそう答えるとズボンの裾を捲り、靴を脱ぎ捨てて波打ち際に入った。
刺すような海水の冷たさに体が震える。
ふと、思いついて振り返りアーチャーと向かい合う。

眉間に皺を刻み込む男目掛けて、俺は足元の海水を蹴った。

飛沫がアーチャーにかかる。
アーチャーは暫し間の抜けた顔を見せた後。
目を閉じて靴を脱ぐ。
俺は逃げようとしたが、アーチャーが間合いを詰める方が早かった。
足を払われて、そのまま海に、倒れた。

「こ…っの!」
「ふん。貴様が先に仕掛けてきたのだろう。」

唸る俺にアーチャーは口元に笑みさえ浮かべて言ってくる。
全身ずぶ濡れだ。結構キツい。
俯き暫くそのまま座りこんでいると、アーチャーが溜息を吐きつつ俺に近寄ってくる。

「立てぬわけではないだろう。」

僅かな気遣いを滲ませながら差し出されたアーチャーの手を、俺は掴んで。
渾身の力で、自身の体重もかけて、引き寄せた。
バランスを崩したアーチャーがそのまま倒れこんでくる。
支えることは出来ず二人、波打ち際に倒れた。
水飛沫。
俺の体にアーチャーが圧し掛かる格好。

「…ははっ、ずぶ濡れだな。」
「……たわけ。」

笑う俺に心底呆れたアーチャーの声が返される。
自身の体を起こしながらアーチャーは俺の腰に腕を回して、一緒に抱き起こしてくれた。

こいつも丸くなった、というか、俺に対し随分甘くなったと思う。
四六時中、というわけではないが。


「…ああ、日没だな。」

アーチャーの呟きに俺は顔を上げて、空を、海を、見た。

目に映ったのは、一面の橙。
脳裏を過ぎるのは、固有結界。

こうして空と海が、姿はそのままに色を変えるように、
あの世界の色も、変わることはあるだろうか。


「…衛宮士郎。」
名を呼ばれ、腕を引かれた。
そのままもう片方の腕が俺の後頭部に回される。
引き寄せられるままに、俺も腕を伸ばし、男の背に回す。

距離はゼロに――唇を擦り合わせる。
海水の味に喉奥で笑う。

「冷えているな。」
「ああ。正直寒い。」
「ならば温めてやろう。」
「出来るものならやってみろ。」

売り言葉に買い言葉。いつだって俺達はこんな感じだ。
深く唇を重ねて舌を絡めあい、体を重ねる。


日が完全に落ちて、辺りが暗闇に溶けるまで。
二人ただ、唇を重ねた。








しんみり系…?
主従になってそれなりに刻は経ってます。






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