溺れる
「っ、あ………ぁ、」
濡れた音を立てて俺のなかに入り込んでくるアーチャーの熱。
痛みは無い。何度も何度も、執拗と言えるぐらいに指と舌で解されたから。
魔力供給を確実に成功させる為、なんてきっと理由としては一番じゃない。
アーチャーは俺が耐えきれずに先を促す瞬間こそを、愉しみにしているように見える。
今だって、俺がアーチャーに……強請った。
毎回毎回、実に不本意だが。
「く……そ……っ」
悔しくて、小さく毒づく俺に、アーチャーは笑う。
笑って身体を揺すってくる。
「ぁ…っ、んっ」
口から零れるのは甘い声。
与えられる快楽に身体は素直に悦んで、俺の喉を通って喘ぎになる。
アーチャーに縋りつけば結合は深くなる。
それでも構うものかとぴったりと身体を寄せれば。
アーチャーも応えるように俺をきつく抱き締めてきて。
緩い突き上げに仰け反らせた俺の首にアーチャーは唇を寄せ、歯を立てる。
「ぅ…っ」
ぬるりと這う舌。甘く歯を立てて。
アーチャーの呼気も感じる。
熱い。アツイ。
「アー、チャー…っ」
掠れた声で名を呼べば。
アーチャーは俺の首筋から顎へと舌で舐めあげて。
「士郎」
低く俺の名を囁いて、俺の唇に唇を重ねてくる
アーチャーはこうして抱き合うと、『士郎』と、よく呼んでくれる。
その声色が、俺は好きだ。
身体の奥まで響く声。
波に揺られるみたいに緩く揺さぶられ続けている。
そんな淡い快楽では、絶頂は遠い。
至近距離で俺を見るアーチャーの目は欲を滲ませていて。
きっと俺も同じ様な目をしているんだろうな、と思う。
「…く。」
アーチャーが笑う。
「なん…だ、よ。」
「なに…随分と、悦さそうな顔をしてくれるものだと、思ってな。」
「っ、…うる、さい…」
「そんなに、私の熱は、心地良いかね……士郎。」
「んっ…、あ…!」
一度だけ、強く突かれて。
押し出されたみたいに俺の喉から高い声が出た。
アーチャーの目が嬉しそうに細められる。
「遊ぶ…なっ」
そう言って俺はアーチャーの肩口に噛み付いてやった。
一瞬だけ息を詰めたアーチャーは、その後同じ様に俺の肩口に歯を立てて、
ぐ、と俺のなかにおさめている熱をさらに奥へ押し込んで。
「あ、ァ……!!」
たまらず声を上げた俺の身体をアーチャーは追い上げ始める。
先程までの緩やかさが嘘みたいに、強く、強く。
「ゃ…あ、あっ、は、ァ…んっぅ」
喘ぐ俺の唇を塞ぐように重ねられるアーチャーの唇。
俺の舌は絡めとられて吸われて。
その間もずっと身体は突き上げられていて。
アーチャーの手が震える俺の中心の熱に触れた。
その手はすぐに、根元を戒めてくる。
「っ…ん、っ、アー、チャー…っ」
「まだ…早いだろう。」
俺がもう達しそうなのを知っていながら、そんな風に言ってきて。
せき止められた快楽に目尻から涙が溢れた。
「っ、く…んっ」
余裕な態度のアーチャーが頭にきて。
俺はなかのアーチャーを強く締めあげながら、目の前にある首筋に、
がりと強く噛み付いた。
アーチャーは眉を寄せて、小さく呻いた後。
「懲りないな、貴様も。」
そう言って嗜虐の色を覗かせる。
「うるさい…っ、馬鹿…!?っあぁっ!」
直後。アーチャーは手加減無しで俺の身体を突き上げてきた。
腰を叩きつけるような激しさ。
ずちゅ、ぐちゅ、と粘音が耳に入ってくる。
「あっ、あぁっ、は、はっ、ゃ、ぁ…っ、んっぅ」
耳を塞ぎたい。
自分の喘ぎ声も濡れた音も、それはさらに俺自身を煽る。
アーチャーの獣じみた息づかいも。
逃げようとする俺の腰を掴み、引き寄せ、奥を侵す。
前立腺を擦られて、強すぎる快楽に、泣き喚きたくなる。
「いっ、っぅ、あ、はっ、あァ、や…っ」
縋るようにアーチャーに手を伸ばす。
アーチャーは俺の手を取って、俺の指を口に含む。
舐り、歯を立て、吸う。
その舌の動きが、自分の中心を嬲られている時を、思い出させて。
「んっ、も、いゃ、だ…っゃ…っ」
もう片方の手でアーチャーを突っぱねようとするが、手に力は入らない。
アーチャーはそんな俺を見て笑う。
愉しそうに。―――――愛しげに?
涙に濡れた俺の頬を撫でて。
「お前が私に溺れている様を見られるのは…こんな時ぐらいだからな。」
そんなことを言ってきて、俺に口付けてくる。
「…馬、鹿!お前、だって…こんな時にしか…みせない、じゃ、ないか…!!」
言い返せば、返ってくるのは淡い笑み。
解放されるのは、どうやらまだまだ先のようで。
お互いに、溺れている。
抱き合う時だけ、世界は狭く閉じる。
だから俺達は、長く、貪りあう。
まるで欠けた自分を、補うみたいに。
らぶらぶ。
お互い、同じ強さで求め合うって対等でいいよなと。
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