寒い日



 

びゅうと冷たい風が強く吹いて、俺は思わず首をすくめて、
身体を猫背にして縮こまる。
しまった、マフラーでもしておくんだったと、少し後悔した直後、
隣から、何か暖かいものに、包まれた。

「…は?」
「…む。」

同時に間抜けな声を出し、二人、立ち止まって固まる。
俺の隣を歩いていたのはアーチャーで、
アーチャーが右手で俺の右肩を掴み、自分の着ているコートの中へ俺を抱きこんでいる。

……なんでさ。

アーチャーも妙な声を出したので、どうも無意識に出た行動らしい。
俺、将来、こんな真似がさらっと出来るような、女誑しになるんだろうか。
嫌だな。

「アーチャー。」
「…何かね。」
「間違った行動だったって自覚はあるんだろ?離せよ。無かったことにしてやるから。」
「………」
「おい、アーチャーっ!」

アーチャーは俺を離すどころか、さらに強く抱きこんできて、身体が密着する。
これじゃ、完全に、どこかの恋人同士みたいな…!?

「こら、アーチャー!離せって、ふざけるのもいい加減にやめ」
嫌な予感がして、俺がそう喚くと。
「ふざけてなどいない。確かに、お前相手にいったい何を、と自身を疑ったが。
 寒かったのだろう?遠慮なぞするな。後で風邪でもひかれる方が面倒だからな。」
しれっとアーチャーはそう言って、俺の肩を抱きながら歩き出す。
足がもつれそうになり、慌てて俺はアーチャーと一緒に歩きながら、
「別の意味で寒い。これぐらいで風邪なんかひくかっ!いいから離せよっ」
アーチャーに必死に噛み付く。
こんなところ、誰かに見られたら……!!

いきなりアーチャーの歩みが止まる。
俺もそれにあわせて立ち止まり、
解放されるものと思っていたら――

「っっ!!」

ばさ、とコートを翻し、俺の唇に、唇を重ねてきたアーチャー。

「こうでもせんと、黙っておれんのか?衛宮士郎。」

アーチャーが間近で、ゆったりと笑う。
一気に顔に熱が上がった。

「そら、行くぞ。」

そうしてアーチャーは、何事も無かったかのように、再び俺の肩を抱き、歩き出す。
勿論、アーチャーのコートに包まれて。

こいつ、恥ずかしすぎる……!!!

色々言いたいことは、山のようにあったが、
それを音にすることは出来ず、
俺はせめて、早く家に帰り着きたいと足早になり。
アーチャーはそんな俺を見て、愉しげに喉奥で笑っていた。


ああ、でも。
この手が暖かくて振り払えない時点で、俺の負けなんだと、ひとつ、溜息をこぼして。
少しだけ開き直って、俺はアーチャーの肩に、猫とかがするように、顔を擦り寄せた。
一瞬アーチャーの身体が、硬直したように感じたが、
俺の気のせいだろう。






士郎が女の子なら、普通な展開ですね。
なんとなくアーチャーは、こういうこと自然にするスキルを持っていそうだなぁとか。
もちろんある程度の好意を抱いている相手に対してのみ。
ちょっと油断して、士郎相手にもそのスキルがでちゃったよと。
で、慌てて突き放すのもあれなので、そのまま抱き込んだと。
最後は士郎が擦り寄ってきたのに、真顔でびっくりしてます






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