苺の香り



 

風呂場に満ちる、人工的な苺の匂い。
浴槽に満ちる湯はピンク。
ああ、なんでこんな風呂に俺は入らないといけないのか…


イリヤが昼に、ふらりとやってきて。
『これ、シロウにもつかってほしくて持ってきたの。絶対、感想を聞かせてね!』
そう言って俺にくれたのは、なんてことはない入浴剤。…藤ねぇの仕業か?
イリヤは俺に入浴剤を渡すと、すぐに立ち去った。
その時のイリヤからは、ほんのり甘い香りがしていて。
うん。女の子がそういう香りをまとっているのは可愛いと思う。
ただ、俺はその時に、入浴剤がどんなものか気付くべきだった。

入浴剤のパッケージをみて、開けて、絶句。
物凄い苺の匂い。怯んだ。が、感想を聞かせてくれと言われた以上、入らないわけにはいかない。
意を決して、それを浴槽の湯の中へ………後悔した。湯気と共に風呂場じゅうに漂う苺の匂い。
湯はピンクに染まり、混ぜ終えた後に湯加減をみようと湯の中に差し入れた手は、なんか、ぬるりとする。
……本当に、入るのか、これに。
いやもう、キツい。物凄くキツい。この際、誰でもいいから巻き込んでやりたい。そう思った時。
「何をして…!?」
風呂場を覗き込んできたアーチャー。
脱衣所の扉を開けたままだったので気になって覗いてきたのか。
うん。いいタイミングだ。
「なぁ、アーチャー。風呂、一緒に入ろう。」
俺は有無を言わせないような強い笑顔でアーチャーを誘っていた。
俺がここまで躊躇うのだから、アーチャーだって俺と同じ筈だと、そう思って道連れのつもりで。
俺は相当頭がまわらなかったらしい。こんな場所で、アーチャーと一緒に風呂に入れば、
今の俺達の関係ならば、そういう結果になることは、初めから決まっているのに。

やけにあっさり付き合ったなこいつ。
そんな風に横に立つアーチャーをみて俺は思う。
最後の悪あがき、ではないが、お互いに普通の湯で軽く身体を洗って、洗い終えてしまい、
浴槽の前に立っている。
ふぅと溜息をひとつついたアーチャーは。
「…覚悟を決めろ、衛宮士郎。」
そういうと、先にピンクの湯の中へ身体を沈めていった。
ぐ、と眉間にものすごい皺が刻まれた。
「…イリヤに、何か恨まれるようなことでもしでかしたのかね、衛宮士郎。」
アーチャーが言う。少し考えて。
「…多分、純粋な好意、なんだと思う。」
俺はそう答えた。うん。入浴剤を渡された時、嫌な感じはしなかった。
イリヤはこれを気に入ったのだろう。だから俺にもすすめてきたんだと思う。
俺の答えにアーチャーはむ、と唸ったが、理解したらしい。
「…それよりも、さっさと入れ。」
アーチャーが急かしてきた。うん。そうだな。入らないとな…
俺はようやく覚悟を決めて、湯の中へと身体を入れて。
「…うわ、すごい、ぬるぬるする。」
思わず呟く。浴槽の底も気をつけなければ滑りそうで。慎重に俺は身体を沈めていく。
甘ったるい匂いにむせ返りそうだ。息苦しい。
はぁと上をむいて息をしても、やっぱり苺の匂いにのまれる。
「…想像以上だな、これ。」
俺が言えば、アーチャーも同意するかのように顔をあげ、眉間を手でもみこんでいる。
これ、もしかしなくても、匂いがしばらく身体にうつるんじゃ。
そう思って、はたとイリヤからした香りを思い出す。
…女の子だから、いいんじゃないか。
男からこんな匂いがするなんて、こわすぎる。
一気に頭が痛くなる。だが、これでイリヤにはちゃんと言える。
うん。正直に言おう。キツかったって。

俺とアーチャーは今、向かい合わせに座っている。
アーチャーは俺よりかなり身体がでかいので、どうしたって場所をとり、
俺は必然的に縮こまって座ることになる。
ふと、アーチャーの方を見ると、アーチャーは湯の中で手を遊ばせていた。
湯の感触を確かめるように指をすりあわせている。
その動きに、俺は何か、途轍もなく嫌なものを感じて。
「アーチャー、俺、先にで、うわっ!」
湯船から急いで脱出しようと立ち上がった俺の足を、アーチャーが払ってきやがった。
がくんと身体が倒れかけるのを浴槽の縁をつかむことでなんとかとどめる。
「っアーチャーお前、っっ」
文句を言いかけた俺の声は途中でつまった。
ぬるりと湯の中の俺の脹脛をアーチャーの手が、撫でた。
俺が怯んだ隙にアーチャーは背後から俺を押さえ込む。
「アー、チャー…まさか、こんな所で…」
「こんな所で、何かね。」
「っ冗談、俺は、嫌だ。」
「そうか。」
嫌だと言う俺に頷きながらも、アーチャーは湯に浸かった俺の身体を撫でる。
ぬるり。いつもと感触が全然違う。アーチャーはまだ俺の身体の表面を撫でているだけ。
胸も、尖りの部分は避けるように。腰を撫で、脚を撫で。内股の際どい部分まで撫でながら、
肝心な部分には触れない。アーチャーの息が、後ろから俺の首筋を擽る。
「っ、ん」
「どうした、士郎。」
囁く声は甘い。風呂場の空気だっていまだに甘い。
息苦しくなってくる。
「は……っァ」
ぬる、と何かが俺の後孔へ入ってくる。
「あ…ゃ、だ、あ…つぃ」
アーチャーの指。一緒に風呂の湯も。
いつもより、ぬるぬると蠢く指が気持ち悪い。
少しずつ入ってくる湯が熱い。
「は、はァ、はっ、ゃあ…っ」
「く…士郎、ここはもう、嫌ではなさそうなのだがね。」
「っぁ」
アーチャーが俺の中心に触れる。俺の中心はとっくに熱をもち張りつめていて。
触れられれば、もう、抑えなんて。
「あ、んぅ…んゃ、ゃ、だ…さわ、んなっ」
浴槽の縁にしがみついて必死に耐える。
湯の中で出すわけにはいかない。なのにアーチャーの手は容赦なく俺を高めていって。
「っひ、ぃた…」
突然根元を戒められる。
「出すわけには、いかないだろう。」
耳元でアーチャーの声。俺はくるしくて、ただ弱く頭をふった。
「あ、ちゃぁ…」
名を呼ぶ。どうしたって懇願めいた甘さが滲む。
それをどうとったのか。アーチャーは俺の後孔を弄っていた指を抜き、そこへ別のものをあてがう。
何か、なんて考えるまでもなく、それはアーチャーの。
「っま、てっ、や…湯が、なか、にっ」
「丁度、いいだろう。」
「やだ…っ、ぃ、あ…ぁあ、あ、あっ!」
腰を引き寄せられ、そのまま後ろ向きでアーチャーの上に座る形で、
湯と一緒にアーチャーの凶暴な熱を呑み込まされた。
「あ、ぅあっ、ん、や、あつ、ぃ、あ…はァ、あ」
すぐにアーチャーは腰を動かしてきて。動くたびに、湯もどんどん内へはいってくるようで、
湯もアーチャーも、熱い。融けて爛れそうな感覚。息をすれば甘ったるい苺の匂い。
気が狂いそうになる。俺の中心を戒めたまま、そのアーチャーの指が、ぬるりと蠢く。
身体の奥から熱が湧き上がってくるのに吐き出せない苦痛。
もう片方の手が俺の胸を撫で、胸の尖りをこねる。
「っぃ…ん、んっ、ぅ、ぁ、あ…も…ゃだ」
早く解放されたい。でも湯船の中で出すのは嫌だ。
かたく閉じた目尻から生理的な涙があふれ、それをアーチャーが零れる前に自らの唇で吸い取る。
「っあ…?」
唐突に引き抜かれた。数度瞬いていると、アーチャーが俺の身体をひっくりかえして向き合わせ、
俺を立ち上がらせて壁に押しつける。そのまま両脚を抱えあげてくるから、
とっさに俺は腕をまわして抱きつく。そうして再びあてがわれたアーチャーの熱。
「っあぁっ」
簡単に呑み込んで。端から入り込んでいた湯が少し溢れ出る感触にぞくりと震える。
「ァ…?」
少し放心していた俺の唇に重ねられたアーチャーの唇。
そういえば、まだ一度も口付けは無かった。
口を少し開いて舌をだして、お互い擦り付け合わせる。
至近距離で目をあわせて。
「…俺、いやだって、言ったよな。」
今更だが、不服を口にすれば。
「貴様に付き合って、こんな風呂に入ってやったのだ。褒美ぐらい、よこせ。」
そんなことをアーチャーが言って、ピンクの湯をすくい、俺の身体にかけて、そのまま撫でてくる。
「…なんだよ。アーチャーお前結構気に入ったんじゃないのか」
俺が憎まれ口をたたけば、アーチャーはたわけと笑って。
行為を、再開した。


翌日。俺とアーチャーはしばらく苺の匂いをふりまくことになり
俺はイリヤに、もう苺は勘弁してほしいと言った。








アーチャーは、霊体化すれば匂いからは逃れられたけど、
散々士郎に好き放題やったので、付き合いましたと。
湯がぬるぬるする、というのは、よく温泉とかで成分によって
湯に入ると肌がぬるぬるするやつ、あれをイメージして。
苺の匂いは、男は嫌がるだろうなとか思ってチョイス。





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