芽生え 2



 

暑い。
それは季節柄、仕方のないことかもしれない。
いつもよりも早く目が覚めた気がしながら、体を起こそうとして。
ふと正面に、意外な顔を見て、固まった。
見れば自分の体には、隣で横たわる男の腕が回されている。

アーチャーが、眠っていた。

下りた前髪のせいか、寝顔はどこか幼い。
寝起きでまわっていなかった思考が回復してくる。
下肢の疼痛。
昨夜は魔力供給の為に、アーチャーとやった。
俺は行為のあと、すぐに意識を手放して。
そこまではよくあることだ。
いつもと違うのは、朝、隣でアーチャーが俺に無防備な寝顔を晒している、ということ。
まだ俺は寝ていて、夢でも見ているんじゃないかと、そんな風に思ってしまうほど、
目の前の現実が信じられなかった。

サーヴァントは眠らない。眠る必要などないと常々言っていたあのアーチャーが。


聖杯戦争が終わり、この男が俺のサーヴァントになってから数ヶ月。
戦う必要は今のところ無いので、気にせずに実体化していろという俺の言葉に、
眉を寄せながらもアーチャーは従った。
極力、人と変わらぬ生活を送ってきた、そのせいかどうかは解らないが。

とにかく今、アーチャーは俺の隣で眠っている。
規則的な呼吸。閉じた瞳。
睫毛が意外と長い。
いつも刻まれている眉間の皺は跡がついてしまっているが、今は寄せられてはいない。
穏やかな寝顔。
そんなアーチャーを見て、息が詰まった。
鼻の奥がつんとする。
胸が熱くなる。
なんで、と疑問。
ぐるぐると色んな感情が渦巻く中、もう少しだけ見ていたいと思った。
あと、多分アーチャーは俺に寝顔を見られたくはなかっただろうと、そんな理由をつけて。
俺はそっと横になった。
眠るアーチャーの貌を目に焼き付けてから、目を閉じる。
不快だった暑さはすでに無く、今は熱い。
回された腕に僅かに力がこもって引き寄せられたような気がした。
俺がアーチャーに身を寄せたのかもしれないが。
どちらでもかまわない。
次に目を覚ませばきっと、アーチャーは隣にはいないだろう。
起きて、朝食の準備をしていて。
俺は夢だったと思うかもしれない。
それでもいい。
自分のなかの何かが変わってしまうことの方が怖い。

少しずつ、意識が薄れていく。
アーチャー、と小さく名を呼んで。
俺はそのまま眠りに身を委ねた。








きっと弓の寝顔は可愛い。
夢を見ているのは私だ。



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