まだ、その記憶は、鮮明。 覚えている。 アーチャー・英霊エミヤに向けられた、殺意を。 この身を斬り裂いた剣の感触、痛みを。 そして、この手でアーチャーの胸に剣を突き立てた、ことも。 アーチャーに抱かれる。侵される。奪われる。 与え、あう。 「っ、あ、あっ、は、あっ」 揺さぶられて、俺はアーチャーの身体を掻き抱く。 男なのに、男に脚を開いて、貫かれて。 そんなものを、何故、受け入れられたのか。 決まってる。 アーチャーが、俺を欲しがってくれることが、嬉しいからだ。 熱に融けた目で、俺を見てくる。 いつから、そんな目を、俺に向けるようになったのか。 俺の内で欲を吐き出す、その時の顔も、好きだ。 まぁ、大抵俺の方が熱に呑まれていて、その時のアーチャーの顔を見ることは、殆どできないけれど。 「あ…っ、アー、チャー…」 名前を呼べば。 「…士郎…」 俺の名前を呼んで、重ねられる唇。 緩く突き上げながら、俺の唇を吸ってくる。 「んっ、ふ…ぅ、っぁ、ん…んっ」 それを、余さず全て、受け止める。 後孔を貫く熱を意識して、少し締め付けてみれば。 アーチャーは息を呑んで、少し強く、内へ熱を押し込んでくる。 欲しているのは、お前だけじゃないんだと。 ちゃんと、わかってるだろうか。 この身を喰らうのはお前だけれど。 俺もお前を喰らっている気がする。 「なぁ、っ、アーチャー…っ、まだ、たり、ないっ…ぁ、の、か?」 アーチャーに身体を貪られながら、俺は訊く。 「っ、ああ、足りない、な。」 掠れた声で囁いてくるアーチャー。 俺はアーチャーの背中から腕を外して、アーチャーの頬に手のひらを滑らせた。 頬を撫でて、顔を引き寄せ、自ら口付けて。 唇を重ねた至近距離のままに。 「なら、おまえが、満たされるまで。この身体、くれて、やる。」 そう、告げた。 アーチャーは、一瞬だけ、目を見張る。 すぐにその目は細められて、俺の唇を舐めて。 「ならば、私はお前を、抱き殺してしまうかも、しれん。」 そう言うと、唇にうっすらと笑みを、浮かべた。 「それは…困る、な。」 そう言いながら、きっと俺も、笑っている。 俺はアーチャーの後頭部に手を回し、抱き寄せた。 アーチャーは抗わず、そのまま身体を倒してくる。 俺の脚を抱えなおして、腰を入れて。 アーチャーの熱が、一番深く、おさまった状態で、きつく、抱きしめられた。 「っ、ぁ……は……」 溜息のような喘ぎを零す。 内で、アーチャーの熱が脈打つのが、気持ち、いい。 初めのうちは、与えられる痛みと快楽に翻弄されるだけだったのに、 今は随分と、この身体はアーチャーに慣れたと思う。 馴染んだ、とも言うか。 こうしてアーチャーの熱を感じる余裕ができたのだから。 アーチャーの舌が、首筋を辿る。 時々強く、吸い付く。 「ん…っ」 くすぐったくて身じろげば、なかの熱も動いて擦れて、 くちゅ、という音にさえ、煽られる。 まるで、蟻地獄。もがけばもがくほど、囚われる。 「我慢、できないか。」 からかうようにアーチャーが言って、俺の腰を押さえつける。 自分では、そのつもりはなかったのだが、どうやら無意識に腰を揺らしていたらしい。 羞恥に顔が、熱くなる。 「っ、もう、動けよ…っ」 喧嘩腰に、俺が言えば。 「好きに喰らって、構わんのだろう?」 アーチャーが口元を笑みに歪めながら、言ってきた。 俺、早まっただろうか。 一瞬そう、思ったけれど。 後悔はこれっぽっちも無くて。 そんな、自分が可笑しい。 「…確かに、そう、いったけどさ…」 それでも、アーチャーの言い方が気に食わなくて。 俺は内にあるアーチャーの熱を、強く、締め付けてやった。 「っ」 息を呑み、眉を深く寄せて呻くアーチャー。 それを見て、少しだけ、すっとした。 「手加減は、要らぬようだな。」 アーチャーが、その言葉と共に、ぐん、とひとつ、強く突き上げてきた。 「っあ!…っ、は…上等。」 強い快楽に、声を上げながらも、俺はアーチャーをしっかり見据えて、笑みを浮かべて応えた。 そうして、お互いに、喰らい合う。 今も鮮明な、あの日の剣戟。 何よりも鮮明なのは、 この身を斬られた痛みよりも、あいつの悲痛な叫び。 そして、全ての想いを乗せて、あいつの胸を貫いた、その手の感触。 俺は、あの剣戟を越えて。 否定していたアーチャーの存在を、認め。 惹かれ、そして―――堕ちた。 士郎視点。 両想いのえろは、やっぱりいいなぁ。 小話・雑感部屋へ戻る