傷つけあう意味 2



  閉じた瞼におとされた唇は、そのまま鼻筋を通り、頬を掠め、唇の端にちゅと音を立てて吸い付く。 アーチャーの胸に手のひらを当てていた俺は、気づけばその広い背中に腕をまわしていた。 物欲しげに、無意識に唇が薄く開き、吐息がもれる。 だがアーチャーは俺の唇だけを避け、顔中に口付けてくる。ちゅ、ちゅ、とひっきりなしに音が降る。 正直、この音をたてる口付けは苦手だ。なんともいえない恥ずかしさがこみ上げてきて。 目を閉じているからなおさら。うっすらと目を開く。至近距離にアーチャーの顔。 その瞳には、ただ熱があった。先ほどの手合わせによる戦闘衝動が、 そのまま性欲への衝動に移ったかのように。きっと俺もそんな目をしていると思う。 下半身がさっきから疼いている。俺は我慢できずにアーチャーの首に腕をまわして、少し背伸びして、 自ら唇を重ねた。舌をアーチャーの唇に這わせると、応えるように薄く開き、俺の舌を誘い込む。 誘われるままにアーチャーの口内に舌をさしこめば。 「っぅん…っ」 強く吸い上げられて、主導権はあっという間に奪われる。 お返しとばかりにアーチャーが、今度は俺の唇をこじあけ、舌を入れ、なかをかき混ぜる。 濡れた音が耳に届いて、息苦しくて無意識に顔を背けようとする俺を許さず、 片腕は俺の腰にまわし、もう片方の手で俺の後頭部を引き寄せ、固定して。 思うが侭に俺の口内を侵す。解放された時には、俺はアーチャーにすがりついて立つのが やっとの状態になっていた。 「っは、はぁっ…は」 息苦しさに喘ぐ俺をそのままに、アーチャーは俺を壁に押し付けて身体を寄せてくる。 首筋を軽く噛んで舌を這わせ、俺の上着の裾から腕をつっこんで、少し硬くなった胸の尖りを摘む。 「ぅっ…ん…」 思わず甘えた声が出る。 「…貴様はここが、弱いな。」 く、と喉の奥で笑ってアーチャーは俺の上着を捲り上げて、そこを露わにし尖りに口付けてくる。 「あ…っ、は ん…っっ」 唇で挟んで軽く引っ張り、吸い付き、甘噛みされて。 じんじんと疼く。そこだけでなく、そこから生まれる快楽は、俺の中心にも熱を集める。 「ぁ…っ、アーチャー……っ」 名を呼び、アーチャーの頭を抱きしめる。自然、胸を押し付けるようになってしまう。 「ふ…んっ ぅ…」 唇を噛み締めて耐える。胸への刺激だけで達してしまいそうなほど感じて、泣きたくなる。 しばらく俺の胸を弄っていたアーチャーは唇をようやく尖りから外しふぅと息を吹きかけた。 びくんとわかりやすいほどに感じて身体が震える。すっかり俺の中心は張り詰めて、 ズボンがかなり窮屈で。早くそこへの刺激が欲しかったが、あからさまに強請ることもできず。 じっと熱のこもった目でアーチャーをみていたら。 おもむろにアーチャーは自分の指を咥えて舐めた。たっぷりと唾液で濡らして、 もう片方の手で器用に俺のズボンを下着ごとおろす。俺は逆らわずにズボンを脚から抜いた。 晒された下肢。中心はすっかり立ち上がっている。 アーチャーはそこには触れず、唾液で濡らした指で俺の後孔に触れた。 「あ…」 小さく声を漏らす。アーチャーはじっと俺を見ていた。欲に濡れた目で。 「…力を抜け。」 囁くように言って。ぐ、とあてがっていた指に力を込める。 「っ…ぃ、た…っ」 ぴり、と痛みが走る。だがそれは入り口の部分だけ。 奥まで入ってしまえば、慣れてしまった身体は指一本では物足りなささえ感じてしまう。 きゅうと指を締め付ける。 「力を抜けと、言っただろう」 苦笑まじりにアーチャーが言うのに、顔が熱くなる。深く呼吸をして、必死にそこを緩めようとして。 「あっ…く…っ」 それを待たずにアーチャーの指が内部を解すように動き出す。 なかを探って擦りあげて。そしてその指は一番欲しかった部分を強く抉った。 「ひぁ…っ!あ、ァっ」 前立腺を集中して責められる。俺はアーチャーにしがみついて。もう喘ぎを堪える余裕も無かった。 中心からぽたぽたと雫がおちる。そこに触れて欲しいのに、後孔へ与えられる刺激だけで 達してしまいそうだ。指はいつの間にか三本まで増やされていて、 俺の中心から零れる腺液をつかってぐちゅぐちゅと音をたてながら後孔を解す。 「アー…チャーっ、もぅ…はや、くっ」 羞恥を感じる理性を蹴飛ばして。俺はアーチャーに早く挿れろと強請った。 指だけでいかされるのは嫌だったから。早く満たされたいと、アーチャーの唇を舐めて、請う。 アーチャーは目を一瞬眇めて、一息に指を引き抜いた。 「っは」 喪失感に息を吐く。アーチャーは自分のズボンの前だけを寛げて自身を取り出す。 アーチャーのそれはすっかり高まっていた。 俺を壁におしつけたまま、片足を持ち上げる。不安定さに俺はアーチャーの首にしがみつく。 ひくつく後孔にあてがわれる凶暴な熱。数度、擦りつけられて。 俺はその間にタイミングをあわせるように息を吐く。弛緩した瞬間を狙って。 「っふ、あ、あああぁっ!」 一気にアーチャーが俺のなかに押し入ってきた。 「っく…」 アーチャーが苦しげに眉を寄せ、小さく呻く。 ぎゅうと俺が反射的に締め上げたせいだ。でも、俺だって辛いんだから、お相子だろう。 忙しなく呼吸を繰り返して力を抜こうとする。次第にアーチャーの大きさにもそこは慣れてきて。 それを見計らったように、アーチャーは俺を突き上げ始めた。 「っあ はっ…あァっ あ…んっ」 感じるままに声をあげる。貫かれた瞬間はなんとか堪えた俺の中心はもう、今度こそいきそうで。 それに気づいたアーチャーは俺の中心に手を這わせて、根元を戒めてきた。 「いっ…っ ゃだっ あー、ちゃーっ んぅ」 弱くかぶりを振った俺の唇をアーチャーが自分の唇で塞いでくる 「んっ!ぅっ…む……ん…ふ…」 喘ぎはすべてアーチャーの口内に消える。すがりつきながら、俺はアーチャーの動きにあわせて、 なかを締め付ける。アーチャーがもうこれ以上は無理だという奥まで腰をいれて、強く揺すりあげて。 唇が離れると同時に、強くなかを抉り、俺自身を戒めていた指を緩め、擦りあげて。 「ひぁっ ――あ……っっ!!」 どくん、と俺は精を吐き出した。少し遅れて、俺のなかにアーチャーも吐き出したのがわかる。 じわ、と熱が広がる。 「ふ…ぅ ン」 力を失ったアーチャーのものが引き抜かれて。俺は小さく喘ぎ、そのまま崩れ落ちそうになって、 目の前のアーチャーに抱きとめられ、そのまま腰を下ろしたアーチャーの上に座り込む形になる。 結局、服もろくに脱がないままに、してしまった。 アーチャーなんかは、ズボンの前を寛げただけなので、上着に見事に俺の放った精がこびりついている。 もちろん俺も、脱いだのはズボンだけなので、上着はアーチャーと同じように汚れて。 「…はやく、洗濯 しない、と。」 掠れた声で俺が言えば。 「余韻も何も、無いな。」 少し可笑しそうにアーチャーが言う。 「…まぁ、いいか。余裕が無かったのも、お互い様 だし…」 言いながら、俺は気だるさにうとうとしはじめて。 そういえば、せっかく抱き合ったのに、魔力供給しなかったな、などとぼんやり思って。 アーチャーが珍しく、優しく背中を撫でてくれたりもするから。 逆らわずに俺は、アーチャーによりかかり、目を閉じた。 たぶん、アーチャーがちょっと優しいのは、 うっかり殺しかけたお詫びかなと。 なんだ、殺伐としているほど反動で甘くなるとか。 余談ですが。ちゅ、と音をたてるキス、えろいよねと。 小話・雑感部屋へ戻る