偶然と無意識の始まり



  ラインが繋がり契約が結ばれたのは偶然と無意識。 ならば、現界維持を望むことは―――? アーチャーは消える。 それはもう、避けられない事実だ。 俺は軋む身体を投げ出して思う。 自分に別れを告げるなんて、柄じゃない。 いや、問題はそこではなくて。 俺はあいつに借りをつくった。はっきり自覚しているものは3つ。 1つ目 キャスターの罠にかかった時助けられた。 2つ目 アインツベルン城でギルガメッシュの宝具の雨から庇われた。 3つ目 つい先程、孔に引きずり込まれそうな所を救われた。 まだ、全然、借りを返せていない。 それなのに、アーチャーは消える。 …納得できない。 そうだ、俺はお前に借りを返せていないんだ、アーチャー。 なのにお前は逃げるのか……!!? 薄れかけていた姿が、再びはっきりと形をとった。 「…アーチャー?」 もうこれは別れなのだと覚悟していた遠坂凛は、アーチャーの異変に声をかけた。 アーチャーは眉を寄せ、自らの手のひらに目を落とす。 少しずつ身体を巡りはじめた魔力。これは間違いなく、あの男の…。 「…凛。知らぬうちに契約を結んでいた、などというのは、実際に起こりうることだろうか。」 アーチャーは独白のような呟きを落とす。 「…契約?誰と……」 凛は言いかけて、アーチャーの向けた視線の先に気付き、自らもその人物を見た。 そこには、力を使い果たし、身を投げ出したままの、衛宮士郎の姿が―――。 「…あ……れ…?」 目が覚めると、自分の部屋だった。 何度か瞬く。体中、ぎしぎしと悲鳴を上げているが、それでも少しは回復したのか。 ゆっくり身体を起こし、 「気付いたか、衛宮士郎。」 聞き覚えのある声。その声の持ち主を見上げて、 「なんで、アンタがここにいるんだ、アーチャー……?」 そんな問いかけをするのがやっとだった。 「それは私の方が、訊きたい。」 アーチャーは不機嫌そうに言うと、俺の正面に膝をつき、座る。 俺も同じ様に座って向き合った。 「…まだ、気付かぬなどとは言わんだろうな、衛宮士郎。」 「え?」 アーチャーに言われて何をと聞き返そうとして、ふいに、気付く。 「…なんでさ。」 思わず呟いた。俺とアーチャーの間に、蜘蛛の糸のような細い、だが確かに、ラインが出来ている。 それを通して、俺の魔力がアーチャーに注がれている。 アーチャーがここにいる理由は解った。 だが、なんで、いつ、こんな…? 俺の混乱を見て取ったのか、いや、ラインがあるせいで俺の思うことなど、だだ漏れなのか。 アーチャーは溜息を一つつき、 「落ち着け。これは凛が言っていたことだが。」 そう言って一度間を取る。遠坂が……って、 「そういえば遠坂は?」 俺が訊くと。 「凛はセイバーと共に自宅に戻っている。随分疲弊していたが、工房にこもれば問題はなかろう。」 アーチャーは簡潔に言ってきた。 「…セイバー、も、まだ現界しているのか?」 聞き逃せない名前に俺はアーチャーに問いかける。 「ああ。彼女も残っている。自ら選び、凛も望んだ結果だろう。」 「…そうか。」 アーチャーはちゃんと、答えてくれた。 俺は安堵する。セイバーが何を思い、残ったのかは解らないが、 それでもまた会えるのだと思うとやはり嬉しい。 「質問は終わりか。」 「あ、悪かった、話の腰を折って。」 アーチャーの声に、今はそれどころでは無かったことを思い出して、俺は居住まいを正した。 アーチャーは俺を真っ直ぐに見据えてくる。 自然、俺は緊張する。 「これはあくまでも仮説だが。私とお前の間で、気付かぬ内に契約の為の詠唱と同意の  何かがあった為だろうと。そもそもサーヴァントシステム自体は聖杯ありきだからな。  聖杯さえ存在しているならば、何が起こったとしてもおかしくはない、と凛が言っていた。  その点に関しては私も同感だが。」 アーチャーの話を黙って聞いていたが、気になる部分があった。 「何かがって、何だよ。」 「さて。考えてみれば、お前との接触は少なからずあった。  そのどれかがきっかけとなったのかもしれん。」 「アーチャーも解らないのか?」 「解らんな。ただ一つ言える事がある。」 「……何だよ。」 「お前は、私の現界を、望んだはずだ。  いくら聖杯の力とはいっても、マスター、サーヴァントの意思の介入は許されている。  私に現界の意志は無かった。ならば、お前とラインが繋がっているということは、  お前がそう望んだのだろう。」 「…俺、が。」 「…言え。何を望んだ、衛宮士郎。」 アーチャーに言われた事が頭の中をぐるぐる回る。 望んだ…アーチャーの現界を…? 「…………あ。」 「…覚えが、あるのだな。」 俺の呟きを聞き逃さず、アーチャーが先を促してくる。 …確かに、望んだことに、入るのだろうか、アレは。 「俺、お前に借りが、あるから。返す前に消えるな馬鹿、って思った、けど。  ………まさか。」 恐る恐る口にした俺を、拍子抜けしたような貌で見てくるアーチャー。 「…それ、だろうな。」 「ちょっと待てよ、そんなことで本当に契約なんて出来るのか!?」 いい加減すぎると、俺も自分が思ったこととはいえ呆れる。 「私に聞くな。」 アーチャーは疲れたように一つ息をつき。 「で、どうなのだ。お前は本気で私の現界を望んでいるのか?」 真剣な顔で俺にそう、静かに問いかけてきた。 「…アーチャー。」 「私を現界させるつもりならば、改善をしてもらいたいのだがね。」 「え?」 「流れ込む魔力が微量すぎる。これでは満足に活動も出来んだろう。  数日もすれば自然に消滅するが、ふむ。それが望みか?」 アーチャーのその言葉に、 「そんなわけあるか!」 反射的に俺はそう答えていた。 そんな悪趣味な真似など誰がするものか。 アーチャーは俺の反応に特に感情を揺らすことは無く頷くと。 「ならば決めろ。今ここで改めて契約を破棄するか。  私に充分な魔力を寄越し……現界を望むのか。」 選択を、求めてきた。 「…アーチャー、お前確か自分で契約、切れるんじゃ無かったっけ。」 素朴な疑問が浮かぶ。 現界が嫌ならルールブレイカーを投影して自らに突き立てれば済むことだろう。 …遠坂の時のように。 「出来るならば、そうしている。」 アーチャーは不本意そうに言ってくる。…出来ないっていうのは…。 「…投影一つ出来ないぐらい、微量ってわけなのか、俺から流れてる魔力。」 そう聞けば、返ってくるのは溜息。 …成る程。アーチャーにしてみれば生殺しのような状態なんだろう。 俺が魔力を与えることが出来たなら、アーチャー自ら契約を切る可能性もあるはずだったが。 何故か、俺がアーチャーの現界を望んだ時には、それに付き合ってくれるような気がしていた。 今のアーチャーには、聖杯戦争中、常にあった俺に対する殺意も敵意も感じられないから、 そんな風に感じたのかもしれない。 それならば、俺の回答は決まっている。 「…現界、してろよ。せっかくどんな偶然かは解らないけど、こうして契約出来てるんだからさ。  まぁ俺はこの通り魔術師としては半人前だから、本当なら遠坂の方と契約できたんなら  それが良かったんだろうけど。  さっき言ったことに嘘は無いし。俺、お前に借りは返したいからな。」 俺はそうアーチャーに告げた。 アーチャーはただ確認してくる。 「それはつまり、私に魔力を寄越すということだな。」 俺はこくりと頷いた。 そこでアーチャーは微妙な表情をする。 「…何か問題があるのか?」 「お前に、相手に魔力を渡すというような器用な芸当ができるのか?」 「……あ。」 指摘され、俺は呆然とする。 「…遠坂に手伝ってもらう、とか…。」 「どんな目に合うか、その想像もつかぬというのならば止めんが。」 「う。」 アーチャーの言う通りだ。 いや、そもそも、既にこれは俺とアーチャーの問題だから、他の奴に頼ること自体が筋違いだろう。 「アーチャー、お前は何か方法、知らないのか?」 俺がそう問いかけると、アーチャーはますます眉を寄せて。 「私は魔術師としては半人前だ。  基本的な特性はお前とそう変わらん。固有結界に関することのみに特化している。  ……私が、とれる手段は原始的な方法ぐらいだ。」 そう言ってくる。 「原始的?」 「…知識ぐらいはあるだろう。………性交渉による魔力供給だ。」 「…………あ。」 言われてアーチャーがずっと微妙な表情をしていた意味がやっと解った。 「それしか、無いのか?」 「効率が良く、私でも可能な方法はコレしかない。  あとは…血液でも代用はきくが効率は悪い。  お前自身が失血で使いものにならなくなっても構わんのならば話は別だが。」 「う………。」 アーチャーの言葉を聞けば聞くほど、逃げ道は無くなる。 そうか、性交渉……アーチャーと………。 「なぁ、その場合…やっぱり俺がやられる側になるんだよな…?」 殆ど確認のような気がしつつも問いかけると。 「繰り返すが。お前に性交渉中に魔力の受け渡しなどという真似が  出来るというのならば、考えんこともないが。」 と、答えが返ってくる。 …だよな。俺には知識も足りないし経験も無い。 アーチャーにはそれがあるのか。知識か、経験か。 ふと、1つ疑問が浮かぶ。 「アーチャー。お前、男の俺のこと、抱けるのか?」 「…何?」 「いや、お前がその気にならないなら、もうどうにもならないんだなって思って。」 アーチャーは普通の性癖の持ち主、の筈だ。 それならば、同性の、しかも、元同一人物の俺相手に、そんな真似が出来るんだろうか。 『魔術師』ならば、儀式と割り切れるものなのかもしれないが。 俺自身はそういった面でも、完全に半人前なのだろう。 要するに、無理だと、思うのだが。 ―――ただ。こんな方法しか無いと知って。それでも俺は。 「俺は、お前の現界を望んだ。なら、相応の魔力を渡すことは俺の義務だし。  自分でそれが出来なくて、アーチャーが俺から採っていくっていうなら……その方法でも構わない。」 能動的には無理だが、受動的にならば。なんとかなるんじゃないかと。 だから。 「結局そうまでして、俺に付き合う気がお前にあるのかってことなんだ。  無いなら無理にやれなんて言わない。……契約を切ってやるほど俺は親切でもないけどさ。  俺ばかり選ぶのも公平じゃないし。だから、お前が選べよアーチャー。  現界する気があるのか、無いのか。決めろ。」 俺はそこまで言いきって、口を閉じた。 我ながら、滅茶苦茶なことを言っていると思う。 与えた選択肢は、俺との性交渉か、魔力の枯渇による自然消滅(飢え死にのようなものか) 強制とある意味変わらないのかもしれない。 それでも俺は。アーチャーに決めて欲しいと思っている。 少しの沈黙の後。 「…選択肢なぞ、無いも同然だと思うが……言ってくれる。」 アーチャーは溜息を落とす。 それは諦めというよりも、受け入れのように、感じた。 アーチャーはそう呟いた後、俺の肩を掴んで引き寄せて。 近づいてくる顔。 「ってちょっと待てアーチャー、お前、何する」 「…構わんのだろう?」 「い、今すぐ?」 「貴様に解りやすく例えてやろうか。極度の空腹で私は今、機嫌が悪い。  …現界を決めた以上は今の状況を耐えるつもりも無い。さっさと魔力を寄越せ。」 「わ、解った。解ったから、シャワーくらい浴びさせろよっ!」 「私は気にせんが。」 「俺が嫌なんだ!」 このまま押し倒されそうになるのを必死に止めて俺は喚いた。 確かに俺はアーチャーを受け入れると決めたが、もう少し心の準備ぐらいさせて欲しい。 …というか、なんだ。先程の例えで思ったのだが。 結局アーチャーは空腹に耐えかねた、ということなんだろうか…。 アーチャーはこれ見よがしに溜息をつき。 「解った。行って来い。」 そう言って掴んでいた肩を離してくれた。 俺は逃げるように、風呂場に向かった。 脱衣場で服を脱ぎ捨てて浴室に入る。 蛇口をひねり、俺はまず水を浴びた。一気に頭が冷える。 身体が冷え切る前に湯に切り替えて、暫くそのまま身体を洗うこともせずに、 俺はシャワーを浴びていた。 冷静になればなるほど、勢いで答えたのだと思い知る。 現界は、して欲しい。 だが、その為の手段は正直……抵抗がある。 …まぁ、抱けって言われても困ったけど。 抱かれる…というのも、うん。困る。 ……どうしよう。 そんなことをぐるぐる考え続けて、どれぐらい時間がたったのか。 俺は背後から、その腕が伸びてくるまで、気付きもしなかった。 「え?」 背後から、抱き締められる。 「…遅い。」 耳元で囁かれる声。 「アーチャーっ、おま、えっ、何…っ、」 やっと状況を呑み込めた。 俺はシャワーを浴びていて、アーチャーは音もなく入ってきて(多分霊体化して)。 アーチャーは纏う武装そのままに、裸の俺を抱き締めている。 「ふ、服っ、なんで着たまま……濡れるだろ!?」 「…気になるのがそこか……別に構わん。」 俺の指摘を流して、アーチャーの手が動いた。 胸を滑り、腰を撫でる。 「…な、あ。お前、まさかここで……?」 「布団の上で向かい合って、いざする事も貴様には耐えられんのだろう?  いいからもう黙っていろ。」 アーチャーの舌が俺の首筋をぬるりと辿る。 「ぁ…ちょ、ま、て…っ」 「待たん。…貰うぞ。」 逃す気は無いと、低く囁くアーチャーに、俺は身体を震わせた。 もう本当に覚悟して受け入れるしか無いと。 堪らない羞恥はそのままに、それでも俺は観念して、目を閉じて身体から余計な力を抜く。 それを了承と受け取ったのか。 背後でアーチャーが薄く笑う気配を感じた。 「は……」 風呂場の壁に手をついて、俺は立ったまま落ちてくる湯もそのままに、 背後からまわされたアーチャーの手に、少しずつ追い詰められていく。 俺の胸を這い回る手。 首筋には舌の滑りと吐息。 今まで感じたことの無い感覚に脚が震える。息が零れる。 首筋にあった滑りがあがってきて、耳朶を辿られた。 ぴちゃと濡れた音が直接耳に届く。 「ぅ…」 身体の中を小さな電流が走る。 お互いに言葉は無い。 あるのは降り注ぐ湯の音と、俺の口から時折零れる、堪えきれない吐息だけ。 胸に這わされていた手のひら。硬くなった赤い尖りを指先がいきなり、きつくつまみあげてきて。 「あ…!」 妙な声が出てしまい、直ぐに唇を噛み締めた。 耳元で、アーチャーが喉奥で笑った声が聞こえて。 アーチャーは執拗に俺の赤い尖りを弄った。 充血してくるまで、擦り、揉み、爪を立て、引っ掻き。 右と左、両方を満遍なく。 吐息に混じる声が止められなくなる。 「ぅあ…っ、は…ァ…、あ…」 むず痒いような。ぞくぞくする。 男でも、ここで、こんなに感じるなんて知らなかった。 不意にアーチャーの手が俺の胸から離れた。 安堵なんて出来ない。 その手は下へ下へ、僅かに反応してしまっている俺の中心の熱に、 アーチャーの片手のひらが触れて、躊躇いなく、握り込まれた。 「っ!」 びく、と身体が跳ねる。 ゆっくりとアーチャーの手が動いて、俺の熱を煽っていく。 その動きに、与えられる快楽に、俺は抗えずあっさり堕ちた。 絶妙な力加減で扱かれて、先端を抉られて、指先が裏筋を辿る。 「ん…っ、ぁ、はぁっ…あ…」 俺が中心に与えられる快楽に囚われていると、 アーチャーのもう片方の手が、俺の尻を撫で、自分でもめったに触れることがない場所。 後孔を、指先で撫でてきた。 ぬるりとした感触。 「アー、チャー…お、まえ、なに、か…使っ、て…」 顔を後ろに向け、問い質すと。 「ただの石鹸だ。害は無い。」 そんな風にさらりと言われた。 視線を下に、アーチャーの手に向けると、その手は確かに少し泡立っていて。 その指先が、俺の後孔に触れ、沈み込む。 その様子をみて、しまった。 「っア…」 慌ててまた正面を向く。 アーチャーがそんな俺の様子を見て笑う。 小さく笑いながら、俺の中心を再び追い上げはじめ、 指を一本、完全に根元まで差し入れた。 石鹸のおかげか、痛みは入口を通った時だけ。 後は違和感だけでひっかかることなく、すんなり俺のなかへ入り込んだアーチャーの指。 その形がはっきりわかる。 指がゆっくり引き抜かれていき、抜けきる前にまた押し込まれていく。 それを何度も何度も繰り返される。中心の熱も同時に扱かれる。 息はどんどん荒くなる。 なかに潜り込む指が増えた。異物感が強くなる。 それでも滑りの助けでアーチャーの指を俺の後孔は簡単に呑み込む。 流れ落ちる湯の音のなかに、自分の身体のなかから出る濡れた音が混じるのを俺の耳が捉えて。 堪らなくなって緩く頭を振る。 「ぁ、っ、くぅ…っ、は、はぁ…あ…?」 引き、抜かれた。なかで蠢いていた指が。 中心を包んでいた手も離れる。 俺は立っていられなくなって、そのまま膝をついた。 アーチャーは俺の腰を掴み引き寄せて。四つん這いにさせられる。 後ろで身じろぐ気配。 その直後。ひくつく後孔にあてがわれた、熱。 「あ……」 それが何なのかは、解る、から。 俺の身体は無意識に強張る。 何度か入口をそれで擦られて。指とは違いすぎる質量と熱。 「…もっと、力を抜け。」 溜息混じりのアーチャーの声が耳に届く。 「わかっ、てる、けど……っ」 自分でもどうにもならない。 せめてとゆっくり深呼吸してみる。 身体を伝い落ちる湯の感触。あてがわれている熱。 感じるのは、もうそれだけで。 何度目の呼吸だったのか。 前触れも無く、アーチャーの熱が動いた。 俺のなかに、捻りこま、れ、て――――。 「っ、あ、あっ、ぐ、ぅ…っぁ、あぁ……!!!」 半ば強引に入口を広げて、一息に奥まで入り込んできたアーチャーの熱。 先端部分が入ってしまえば、あとは石鹸の滑りがそうさせるのか、簡単におさまったようで。 アーチャーの侵入が止まる。は、と短く息を吐く気配。 俺に余裕など無く、痛みと、自分のなかにある自分のものではない熱の存在に、 おかしくなりそうで。 「あ、はァ…っ、はっ、は…ふ、ぅ…」 荒い呼吸を何度も繰り返す。 身体ががたがた震える。 ああ情けないなと自嘲する。 そこでやっと、アーチャーが俺のなかに埋め込んだきり、動いていないことに気付いた。 アーチャーの手が、まるで宥めるように、俺の腰や背中、胸を撫でる。 その意味を察して。 「……ハ、」 可笑しくなって、それがそのまま音になって零れた。 あのアーチャーが俺を気遣っている。 いくら魔力供給という儀式を成功させる為なのだとしても。 「…何を笑っている。」 憮然としたアーチャーの声。 「…らしく、ない、って、おもって、さ…」 途切れ途切れに口にした俺の言葉の意味が通じたのか。アーチャーは、 「その様で、よくも言えたものだな。」 怒るでもなく、呆れたような声でそう言ってきた。 俺、そんなに情けない有り様なのかと思うと、それすらも可笑しくなった。 「…な、ぁ。早く、終わらせて、くれた方、が、たすかる、んだけど。」 そんな風に俺はアーチャーを促した。 なんとなく、俺は、俺の胸を撫でていたアーチャーの手を取って。 その指先を口に含んだ。 俺よりも太く、ごつごつした指先。 結局アーチャーは武装を解いていないんだなと、ぼんやり思いながら舌を這わせる。 俺の口のなかでアーチャーの指が戸惑うみたいに震えた。 構わず吸い付き、甘噛みする。 不思議なもので、それに集中していると、次第に下肢の痛みは紛れていった。 「ん……ぅ、っふ…」 舐る。爪先を舌で感じる。 「…っ、たわけ。」 ぽつりとアーチャーがそんな言葉を落とした。そして――。 「ぃあっ…!!」 俺に銜えられるままだったアーチャーの指が口から引き抜かれて、 両手で腰を掴まれ、強く、腰を叩きつけられた。 勢いよくぎりぎりまで引き抜いて、そこから一気に突き入れられる。 ぐちゅぐちゅと嫌な音がひっきりなしにそこから、聞こえてくる。 「あ、ひぁ…っ、あ、はっ…はぁっ、んっく…ぅ…」 まだ痛みばかり。 アーチャーは何かを探すように角度を変えて俺のなかを抉る。 何度目の突き上げだったのか。 「!?」 息を呑む。頭が真っ白になるほどの、そう、強すぎる快感。 俺の様子に気付いたアーチャーは再びそこを抉る。 「あ……!?い…ゃだっ!」 知らず叫ぶ。逃れようと前に動いた身体をアーチャーは押さえつけてきて、 「何故、こんな真似をしているのか。忘れたか、士郎。」 熱の篭った声で、俺の耳元でそう囁いてきて。 びく、と身体が震える。 …あ、そう、だ。俺はアーチャーに、魔力、を。 ぎゅ、と手を握りしめる。息を吐く。 アーチャーが再び、動き、だす。 「んっ、う…あっあ……は、ァ」 逃げ出したくなる心を抑え付ける。 アーチャーの手が俺の中心の熱に触れた。 そこは高まっていて、腺液を滲ませていた。腰の動きに合わせて扱かれる。 神経が焼きつくような感覚。 しに、そうだ。 「あっ、は、ぁ、あー、ちゃ…ァ、も、おれ…っ」 切れ切れに懇願する。もう駄目だと。 アーチャーは動きを早めてくる。 もう俺の口からはまともな声も出なくなる。 アーチャーの獣のような息づかい。 一番深くを侵されて、先端をぐりと抉られて――。 「ひ……ぃあ……!!」 「く……!」 ほぼ同時、だったと思う。 俺が熱を吐き出したのと、俺のなかにアーチャーの熱が吐き出されたのは。 そしてその瞬間、俺の魔力の大半が、アーチャーへと流れていくのを感じた。 「はっ、は……ぁ、う」 震える息を吐き出す。 アーチャーもひとつ息を吐き出し、ずるりと躊躇いなく俺のなかから自身の熱を引き抜いた。 支えを失い崩れそうになった俺の身体を、アーチャーが俺の腰に腕を回すことで支える。 そうして身体を向かい合わせにされて。 まともにアーチャーの顔を見る羽目になった。 「っう。」 「…何だ。」 思わず顔を逸らした俺にアーチャーが不可解げに問いかけてくる。 なんでそんなに平然とできるのか。 俺の方は恥ずかしくて堪らないというのに。 「…魔力、ちゃんと、採れたんだよな?」 一応そう確認してみる。 「…ああ。」 アーチャーは頷いて、俺の頬を無造作に拭ってきた。 シャワーは出しっぱなしなので意味は無いと思うが。 改めて、目の前の男を見る。 全裸の俺と違い、本当にいつものままの姿。 流石に下半身は乱れているだろうが。 なんとなく下には視線を向けられず、結局ぼんやりとアーチャーの顔を見る。 そうしたら、アーチャーの表情が、何かを堪えるような微妙なものになって。 「アー…」 名を呼ぼうとしたが、最後まで音にはならなかった。 塞がれた唇。至近距離にあるアーチャーの顔。 アーチャーに、口付けられている。 「ん、ぅ?」 ワケがわからない。 魔力供給は成功して、もう終わった筈なのに、何で? と思っていると。 俺の唇を塞ぎながら、アーチャーは俺の両脚を開き、抱えあげてき、て。 「あ、ちょっ、なに、やって……っあ!」 慌ててアーチャーの唇から逃れ、身体を押しのけようとしたが、遅かった。 俺は再びアーチャーに貫かれる。 「な、んで…っ」 一度受け入れたそこは融けて、簡単にアーチャーの熱を迎え入れる。 混乱して、俺は問いかける。 アーチャーは自分でもよく解らないというような貌をしていて。そして。 「ああ……まだ、足りないだけだ。」 そう呟くと。 容赦なく俺を揺さぶってきた。 足りないって何が、魔力が?それとも他の何か…? 問い詰めることは出来ずに。 俺はアーチャーが与えてくる快楽にすぐに呑まれていった。 最後の瞬間。 俺は意識を手放してしまったが。 魔力はもう、採られなかったように、思う。 意識が浮上する。 「気がついたか。」 アーチャーの声。 俺は身体にバスタオルを巻きつけた状態で、アーチャーに横抱きにされていた。 気がつかなければ、良かった。 下ろせと言いたかったが、ぐ、と堪える。 下半身のだるさ。 下ろされた所で、ろくに歩くことも出来ないだろう。 諦めて目を閉じて、アーチャーに体重を完全に預けた。 そもそもこんな状態にまでなったのは、明らかにアーチャーが原因なのだから。 もう知るかと開き直る。 アーチャーは特に何も言わず、俺を自室まで運んだ。 敷かれたままの布団の上に下ろされて、はぁと息を吐く。 アーチャーはタンスから俺の服を出して、投げて寄越してきた。 「…着替えも、手伝うべきか?」 「…いらない。」 からかい混じりのアーチャーの言葉に俺は憮然と呟いた。 アーチャーは、く、と喉奥で笑って。 「当面はこれで問題無い。定期的に魔力供給は必要だが。」 さらりととんでもないことを、何でもないことのように、言ってきた。 「…え?」 我ながら間の抜けた声が出る。 アーチャーはそんな俺に容赦なく告げる。 「パスを繋ぎ直したわけではないのだから、依然ラインは細いままだ。  通常での供給量は微々たるもの。ならば私が強制的にお前から魔力を吸い上げるしかない。  …たった一度きりの性交渉で、十分な現界維持が可能だとでも思っていたのかね?」 「あ、う……」 最もな言葉すぎて、言い返せない。 …というか、アーチャーは俺を抱くってことに、少しの抵抗も無いのだろうか。 「気が変わったのならば、いつでも言え。契約を切るのならば、応じよう。」 「っ誰が切るか。お前が還りたいって言ったって、還さないからな。」 アーチャーの言葉を、ほぼ反射で切り返す。 アーチャーは一瞬目を見張り、その後、表情を微かに緩めて、淡く口元だけで笑んだ。 「…ならば私は。お前が望む限り、付き合おう。」 穏やかな声。 俺はよく解らない感情が自分の中を渦巻くのを感じて、ふいと視線を外した。 「…着替えて、寝る。」 それだけ呟くと、アーチャーは待機していると言って実体化を解いて、消えた。 もそもそと服を着て、気だるい身体を横たえる。 理由は借りを返す為。 それは今も自分の中にあるけれど。 それとは別の、見過ごせない感情があることに、俺は気付いた。――が。 今はまだ深くは考えたくなくて、その感情に蓋をした。 目を閉じる。 自分の身体を暴いたアーチャーのその手を思い出す。 身体がまた、熱くなる。 「……くそ。」 それから必死に目を逸らして、俺は眠りについた。 ラインが繋がり契約が結ばれたのは偶然と無意識。 ならば、現界維持を望むことは―――? 確かな俺自身の意思。 俺はアーチャーを、ここに望む。 そしてアーチャーは、それを受け入れた。 今はただ、その事実だけで、いい。 これから先、どう変わっていくのかは、解らないけれど。 終了です。 補足説明というか。 まず繋がりが出来たのがアインツベルン城で士郎が弓の胸を貫いた時。 (この辺は、まぁ元同一存在という理由から、とか) これだけではマスターとサーヴァントの意思が無いのでまだ契約にはならず。 最後の別れの瞬間に、士郎が文中の通りのことを思って、 それが細いラインを通じて弓に届いたわけですね。で、弓も 売られた喧嘩は買うというような感じで、誰が逃げるかたわけと反射的に 思ってしまって、それで完全に契約が成ったわけです(なんて間抜け) 弓はずるいので、本当は自分も応えてしまったからということを自覚しながらも、 士郎が望んだから契約が成ったのだと吹き込むわけですが。 話が流れていくにしたがって、最終的には弓自身が決断しなければならなくなって。 今の状況が耐えられないだけだからと理由をつけて士郎を抱いたわけですが。 いざ抱いてみたら、はまってしまいました、というオチです。 2回目は完全に単なる欲で抱いてます。 士郎はまだ、そこには気付いてません。 というか、これ、弓士前だよな…。弓はすでにちょっとぐらついているけど。 士郎はまだまだ。こういうじれったい期間、大好きです。 本当は弓視点の話も書ければ良かったんだが、そこまで書けそうにないので、 説明という形で書いてみました。 ちょっとは変わった弓士主従のはじまりになっているといいな…。 小話・雑感部屋へ戻る