「逃げられると思うなよ?」/弓士





―――魔力供給の為に、俺はアーチャーをこの身に迎え入れる。 とりあえず勃たせてしまえばいいかと、俺はアーチャーとの距離を詰めて男の下衣に手をかけた。 「待て、貴様何をするつもりだ。」 その手が阻まれる。 俺の手首を掴みアーチャーが眉を寄せ、睨んでくる。 俺も負けずに睨み返して、 「俺がやろうとしてること、お前には解ってる筈だ。これしかないんだろ、方法。」 そう言いながら自由な方の手で前をくつろげて、下着の中に手を突っ込む。 「っ、衛宮士郎…!」 「うるさい!―――逃げられると、思うなよ?」 制止しようと名を呼んできたアーチャーに俺は怒鳴り返す。 アーチャーは信じられないものを見るような目をしている。 知るかと俺はまだやわらかいアーチャーの性器を引っ張り出して、まず手のひらを使って扱いた。 自慰する時に自分が悦いと感じる部分を少し強めに擦る。 く、と息を詰める男の声が耳に届いた。 いつの間にか俺の手首を掴んでいたアーチャーの手は外されている。 かわりに俺の肩に置き、逡巡するように時折力がこもる。 俺の目的、それが魔力供給の為の行動なのだと正しく理解するが故に、 アーチャーは絶対に拒むことは出来ない。 だが、生理的に受け付けない、というのはあるんだろう。俺は男だから。 そこだけは悪いなと思いながら、俺はゆるく勃ちあがり硬くなってきたアーチャーの性器の先端を舐めて、 そのまま口内に含んだ。独特の苦味に眉を寄せながらも口を窄めて口内の粘膜でそれを愛撫する。 俺自身、この行為に対して抵抗は無かった。 自分でも不思議だ。この先はもっと凄いことになるが、 今はただ、うまくいけばいいとそれだけを考えていた。 『ん……そろそろ、いいか。』 口に収まりきらないくらいに体積を増したアーチャーの性器から顔を上げて体を起こす。 そして完全に勃ちあがったそれを片手で掴み、アーチャーの足を跨いで 浴衣の裾を割って足を開き、自分の股の間に導く。 変に手間取りたくなかったので、下着はつけなかった。 もう片方の手で、さっき散々洗って潤滑油がわりにハンドクリームを仕込んできた後孔を確認する。 「っ、正気か貴様 無」 無理だ、か、無茶だ、と言いかけたのか。 俺はアーチャーの言葉を無視して息を吐き、力を抜くと 張りつめた熱に自らの孔を擦りつけるようにしながら一気に、体を沈めた。 絶句はお互いに。 流石に雁の部分が入口を通る時は辛かったが、あとは信じられないくらいにあっさりと、 ずぶずぶと男の性器は、俺のなかを穿っていった。 根元まで含んで、はあと息を吐く。 アーチャーを見ると、未だ信じがたいというような表情で俺を見つめていた。 スムーズに事が運んだこと、後孔がきちんと解されていたことに驚いているんだろうと思う。 それはつまり自分自身で、予め準備してきたということだから。 目的が目的だから、念入りに準備してくるのは当然だと思うが。 目は口ほどにものを言うとは、よくいったものだ。 アーチャーの思考が、その表情からありありと解って、俺は少し笑った。 そして男の目を覗きこんで言ってやる。 「俺が、勝手にやり始めたことだけど。この方法を教えてくれたのは、遠坂だ。  お前の現界を望んでいるのは、俺だけじゃない。」 一度言葉を切り、 「それでもまだ、逃げ還る気か?」 そう告げた。 アーチャーは答えない。ただ俺を見ている。 俺は、何らかの答えを待った。 どれぐらいの時間が流れたのか。 いい加減、色んな意味できつくなってきて。 結局俺が動くしかないのかと、うまくできるかどうかわからないまま覚悟を決めて、 腰を動かそうと身じろいだ。 その時、背中にアーチャーの腕が回された。強く抱きこまれて、僅かに動揺した俺に、 「体位を変える。このままでは動き難い。掴まっていろ。」 アーチャーが声をかけてきた。 俺は男の首に腕を回すことで応え、アーチャーが動く。 繋がったまま、俺の体は床に押し倒された。 少し抜けた性器をまた深く押し込まれ、内部を抉る角度が変わり、喉奥で呻く。 ぬちゅ、と濡れた音が結合部から耳に届き、頬が熱くなった。 上からアーチャーに覗き込まれる。 「タイミングを合わせるぐらいは、出来るだろうな。」 「……やってみる。」 男の問い掛けに頷く。 アーチャーは静かに瞬いた後、ゆっくりと俺の体を揺さぶり始めた。 潤滑は十分すぎるほどで。 その為か、初めてだというのに痛みはほぼ無く、それどころか―― 「っ、あ あぁ…っ、ふ…ぅっ」 口から喘ぎが零れる。 多分、前立腺。そこを擦られると全身にぞくぞくと甘い痺れが走る。 それに気付いたアーチャーは、容赦なくそこを狙ってくる。 無意識に零れる声は極力そのままに。 そうすることで、ちゃんと俺が悦くなっているのだと相手に伝わる。 まぁ、声よりも分かり易く俺の性器は勃ちあがってしまっているから、その心配も無いだろうが。 アーチャーは何も言わなかった。 揶揄なども無く、ただ瞳には欲が見えたから、ほっとして縋るようにアーチャーの背に腕を回す。 普通、こんな行為は好きな者同士がすることだと思う。 だから俺は、やっぱり魔術師としては半人前。 割り切れはしない。 結局の所、俺はどんな意味にしろ、アーチャーが好きだから、 この男に、足を開くなんて真似が出来るんだ。 アーチャー自身はどうなのか解らないので、心底不本意だったとしたら申し訳無いなと思う。 俺とアーチャーは同じで違う存在だから、俺とは違い、ちゃんと割り切れているのかもしれない。 そうならいいが。 「く…っ、アーチャー、も… お、れっ」 「…あと、少し…堪えていろ…っ」 限界を告げた俺に掠れた声でアーチャーが言い、同時に達さないように俺の根元を指で締めてきた。 くぅと獣の鳴き声みたいな音が俺の喉から漏れる。ついでに涙も。 それをアーチャーが舐めとる。 優しくしないでほしい。この行為の目的を、忘れてしまう。 「く そ…  も、 む…り……っ」 アーチャーの動きが速く小刻みになる。 息も絶え絶え訴えれば、根元を締めていた男の指が外れ、促すように強く扱かれた。 「あ あ ……―――っっ!!」 「――く ぅ」 促されるままに俺は達した。 アーチャーの腹や自分の胸に白濁が飛び散る。 そしてアーチャーも呻くと、俺の奥深くで震えて。 じわりと腹が熱くなる感覚と共に―――― せき止めていた水が溢れ出すような激しさで、俺の魔力が目の前の男へと流れていった。 根こそぎ奪われると思ったが、唐突に流れが止まる。 それでも自分の魔力は、確かにアーチャーへと受け渡された。 は、と安堵の溜息が漏れる。と同時に、猛烈な睡魔。 「…待て。このまま寝るつもりか。」 アーチャーが咎めるように言ってくるが、それに答えるのも億劫だった。 後始末をしっかりしなければ、現実問題として腹を壊し大変な目に合うことは解ってはいたが。 「……も、どうでも いい。 お前に魔力、わたせた し」 なんとかそれだけ告げて、俺は意識を手放した。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 宣言し、そのままあっさり意識を手放して寝息まで立て始めた士郎の顔を 暫く呆然と見ていたアーチャーは、深く息を吐くと静かに腰を引いて埋めていた性器を抜いた。 ひく、と震えながらも士郎は目覚めることは無い。 ゆるく開いた後孔から、どろりと自らの放った精液と別の何か―おそらく潤滑がわりに仕込んできた 軟膏の類か―が零れる。ティッシュをとり、自分の性器を軽く拭ってからしまった後、 同じように士郎の下肢も拭い――風呂場に行った方が早いかと思いなおして、 背中と膝裏に手を差し入れるとそのまま抱き上げる。 途中で目を覚ましてしまうなら、それはそれで構わないという気持ちで、 アーチャーは士郎を抱いて風呂場に向かった。 余程、深い眠りに落ちているのか。 浴衣を剥ぎ、浴室の壁際に座らせた士郎は力なく体を投げ出したまま。 アーチャーも服を着たまま事に及んだ為、上着などが士郎の吐き出した精液で汚れてしまったので、 洗うついでにと服を脱ぎ、自らもシャワーを浴びることにした。 アーチャーは意識の無い士郎の足を開かせ、今は閉じている後孔に指を躊躇いなく突っ込み、 なかのものを掻きだしながらシャワーの湯で流していく。 何度も何度も繰り返しながら、思う。 どんな覚悟で、士郎は自らここを準備したのかと。 何故、犯されることを受け入れてまで、自分を引き留めようとしたのか。 我が事ながらよくわからない。 ただ、自分も。もう逃げられないのだと。 認めなければならない。 自らも、現界することを、選んだのだと。 「…まさか、私がお前に、囚われるとはな。」 自嘲気味に呟く。 体に満たされた士郎の魔力は良く馴染んで。 もうこれから、離れられないだろう。 あらかた掻きだし終えて、全身も軽く洗ってやる。 掻きだしている最中は時折辛そうな声を漏らしていたが、 体を洗う今は落ち着いたようで、士郎の表情は安らいでいた。 結局最後まで起きることは無く。 アーチャー自身は軽く体を流す程度に済ませて浴室を出た。 士郎の濡れた体を拭き、寝間着を着せる。 自分も同様に体を拭いた後、服を着て、 再び士郎の体を抱き上げて部屋に戻った。 これで自分達の間の何かが急に変わるということは、特に無いだろう。 お互いそれを望むことも、おそらく無い。 定期的に魔力供給が必要だと告げれば、士郎はどんな反応を返すだろうか。 大方、事も無げに了承するのだろうなと思い至り、アーチャーは眉を寄せ溜息を吐いた。 だが、アーチャー自身、その行為自体に不快感は無く。 自分が衛宮士郎に抱く感情の変化にこそ、戸惑いを感じていた。 そして拍手の『光射す』に続きます。 珍しく?キスシーンがありません。恋愛感情もまだっぽい。 士郎にとっては、好きな相手だから出来る行為だけど、やっぱり魔力供給の為の手段という意味が強いので。 アーチャーが士郎を積極的に抱くようになったら、あっという間に崩れそうです。 アーチャーはもう観念してる。 キスからはじまる恋 に続く(笑)