哀しい笑顔が切なくて/弓士





傷口に口付けられる。 舌を這わされれば性的な意味などなくても感じる。 体はそれを、快楽として受け取る。 この男と肌を合わせすぎた。 ただ触れられるだけで、体は悦ぶ。 心も、満たされる。 「……いい加減、言いたくは無いのだがね。」 小さな溜息を吐きつつ。 「私を庇うのは、止せ。」 幾度も口にした言葉を、繰り返してくる。 「俺も、何度も言ったと思うけど。体が勝手に動くんだから、仕方ないだろ。」 苦笑いを浮かべながら手を伸ばすと、その手をとられて、手のひらに口付けられた。 「アーチャー。」 男の名を呼ぶ。 「…士郎。」 名前を呼び返される。 そうして体を引き寄せられて。 唇を重ねる。そのままベッドに押し倒された。 当然のように受け入れる。 それは俺自身の望みでもあるから。 いつもよりも手荒い愛撫。 そこから男の苛立ちを感じ取れる。 唇に噛みつかれて、胸の先端を爪で強く引っ掻かれる。 衣服を破るような勢いで乱していく。 自分も同じように男の衣服を乱す。 直に触れる肌が熱い。 性急に後孔を侵してくる指。滑りが足りず、痛み。 ぐ、と呻くと、なかの指の動きが少しだけ緩くなる。 アーチャーは俺の鎖骨、胸、腹に順に唇を落とし、兆している中心には触れず、 その奥に顔を埋めてきた。 後孔に濡れた感触。指は入れられたまま、なかを指で広げ、そこに舌を挿しいれて 唾液を送り込んでくる。そして掻き回す。 「っ、ん ぅ」 思わず零れた喘ぎに唇を噛み締めた。 直ぐにアーチャーは下肢から顔をあげ、指を引き抜き俺の脚を担ぎ上げて、腰を入れてきた。 あてがわれた熱に息を呑む。 ぎちりと音をたてて、それが俺のなかへと入ってくる。 「く、 あ あ、ぁ…!」 埋められていく熱に途切れ途切れの声をあげながら、俺は自身を侵す男に縋りついた。 背中に爪を立てて、受け入れやすいように自ら脚を開く。 お互い中途半端に腕や足に着ていた服やズボンを引っかけたまま。 笑えるぐらいに余裕などなく、 俺とアーチャーは、繋がった。 「は……ぁ、アー、チャー…」 「、士郎…」 名前を呼びながら互いの唇を貪りあう。 アーチャーの腰の動きに合わせるように、自分でも腰を揺らす。 揺れて、揺らされて。 掻き混ぜて、混ぜられて。 この時だけでも、混ざり合えればいいのに、なんて馬鹿なことを思えるぐらいに アーチャーとの性交に慣れた、体と心。 「っ、は…」 思わず笑みが零れた俺を、アーチャーが訝しげに覗きこんでくる。 「…幸せだなって、思っただけ、だ。」 そう、こんなに幸せでいいんだろうかと。 たとえこの先が、それほど無いのだとしても。 命の終わりが近付いているのだとしても。 それを凌駕する幸福感。 だから俺は、心底笑える。 自分の命を、このどうしようもない男の為に使うと決めた、あの日から。 アーチャーの貌が歪む。 何かに耐えるように、硬く目を閉じて、開いて。 視線が交わって。 「……全く……貴様という奴は……」 アーチャーは絞り出すように、それだけ言って。 ――――微笑った。 それは、哀しい笑顔。 俺が何を考えているか、薄々気付いているんだろうなと思う。 原因が自分にある以上、どうすることも出来ないが、 そんな貌をさせたいわけじゃないのに、うまくいかないなと内心で呟く。 どうしようもないのは、お互い様らしい。 「なあ、そろそろ辛いんだけど…、動いてくれないのか、アーチャー。」 行為を促す為に問いかけて、なかにある熱を意図的に締めた。 く、とアーチャーの喉が鳴る。 「そう、煽るな…たわけ。」 アーチャーは唸るように低く言うと、再び俺の体を強く突き上げてきた。 お互い、言葉に出来ない想いのかわりに、こうして抱き合うのかもしれない。 のぼりつめた瞬間に見えた貌。 額から流れ落ちた汗が、涙のように、見えた。 UBWトゥルーEDその後の大人士郎とアーチャー。 しんみり系。 蜜月は短いです、きっと。