「―――あ。」 覚醒する。見慣れた自室の天井。布団に横たわる自分の体。 全身汗ばみ、気だるい。何よりも、有り得ない箇所に違和感。下肢の疼痛。 何かを得た感覚と、何かを失った感覚が同居する。 予感はあった。 体を繋げてしまえば、最後になるだろうと。 多分、俺もあいつも知っていた。 その上で、俺もあいつも、それを望んだ。 物事には必ず終わりがある。 だからこそ、先に進める。留まってはならないのだと。 そう、頭で理解して、納得していたはずだ。 なのに、頬を伝うものがある。 それは何故なのか。 「…そんなの、決まってる。俺、あいつのこと」 好きなんだと。 声に出してみると、すとんと胸に落ちた。 俺の殻を被ることで生まれた、元々は個というものは存在しない、 俺であって俺じゃない。 この世全ての悪―アンリマユ。 サーヴァント・アヴェンジャーとして、もうひとつの聖杯戦争に身を投じた存在。 全てが終わり、その存在は消えた筈だった。 だが、自身を欠片という存在―俺の姿をしたアンリマユが、俺の夢を通して、俺の前に現れた。 夢と現。その狭間のような、奇妙な邂逅。 初めのうちは、ただ話すことが多かった。 時々、気紛れのように触れてくる。 夢で会うのは不規則。連夜であったり、何日か日が空いたり。 別れ際には、また、とはお互いに言わなかった。 アンリが未だ、こういう形で残っているのは、未練のようなものがあるからだと。 その未練というものが、俺に関わることで、未練が無くなれば、消えるのだと、 どちらも解っていたから。 「オマエとヤったら、終わるんだろうな。」 何の前触れもなく、そんなことを言って笑ったその姿を思い出す。 なんでさ、と問えば理由など無いと言う。 ただ、犯りたいという欲が、俺に対してあったことに気付いて、 それが心残りだから、今もここに残っているのだと。 内容が内容なだけに、はいどうぞと言えるものでもなく。 だが、不思議なもので、あんまり熱心に言うものだから、 別にいいかと思ってしまった。 第一、夢の中でのことだし。触れる感覚も希薄だ。 それに、俺が受け入れることで、何かが動くのなら、意味はあるんだろうと。 闇の中、互いに触れ合う。 指を絡ませて額を擦りつけて、唇を啄みあう。 足を絡め、押し付けあった下肢。その中心はどちらも張り詰めていて。 「へぇ、もう、こんなになってんじゃん。」 「っ、お互い様だろ…っ」 「そーだけどさ。」 軽口を叩き合う。雰囲気も何もない。 俺もされっぱなしなのは性に合わないから、同じ様に触れる。 時折気持ち良さそうに目を細めるから、少し嬉しい、なんて。 互いの熱を、互いに掴んで扱く。 キツいくらいにやって、なんとなく感じる程度のようで、それが焦れったい。 「感覚が鈍いのが、つまんないよなァ。痛みに歪んだ顔とか、みたいのにさ。」 「趣味、悪いぞ。」 「オマエも、だろ?オレは衛宮士郎なんだし。」 「俺は、そんなこと…」 「気持ちよさそーな顔とかは、見るの好きなんじゃねーの?」 「…それは、まあ。」 「気持ちイイのも痛いのも、おんなじもんだっていうじゃん。」 「う。」 「オレの前でイイ子ぶったって無駄だぜ。」 ヒヒと笑うアンリに何も言えず、む、と唸る。 俺の中心に触れていた手が、更に下に、奥に動いていく。 奥の窄まりを擽るように動く指。その指が、俺のなかに沈められたのが解った。 相変わらず、痛みらしい痛みは、無い。 入口を解すように、指が蠢く。 「んー、やっぱキツいな。入んのかなーこれ。」 言いながら指で弄るそこをアンリが覗き込んでくる。 「お、まえ、あんまりじろじろ見るなよ……っ!」 どうにも落ち着かなくて抗議する俺に、アンリは性質の悪い笑みを見せてきた。 「ま、濡らした方がいいんだろうな。」 言って俺の両足を掴んだと思うと、いきなり強く引いてきて。 上体が揺れて後ろに倒れる。 衝撃。 おかげで反応が遅れた。 「う、わ…!!アンリ、やめ…っ」 ぬるりと滑る感触。 下肢に埋められたアンリの顔。 後孔に潜り込むなにか、なんて、見えてしまった。 舌がなかに潜り込んでいる。 視覚情報が刺激になったのか、ぞくぞくと下肢からある種の痺れが這い上がってくる。 「っ、ん…っ、は、ぁ」 「ん、指んときより、感じてるよ、な」 「喋る、な…ァ、たのむ、から…」 「ふーん、じゃ、もっと、喋って…やるよ」 「こ、の…!ん…っ」 ぴちゃぴちゃと濡れた音。 舌だけでなく指も入ってくる。 掻き混ぜられて、腰が震える。 それも長くは続かなかった。 アンリの熱が離れていく。 かと思えば、別の熱がそこにあてがわれて。 「アン、リ……っっ!!!」 その熱は、すぐに俺のなかに、はいって、きた。 「っ、ハ…、すげぇ、気持ち、イイ…」 「く、う」 圧迫感と酷い熱。 自分の体のなか、蠢く他人の熱。 「か、は…っ、あ、あ」 「なあ、オマエも、気持ち、イイ?」 訊いてくるアンリに言葉を返そうとして、上手く言葉にならず、 溢れ出るのは意味のない喘ぎだけで。 だからしがみついて頷いた。 「ん、逆でも、楽しめたかも、なあ…」 そんなことを言いながらアンリは俺の中心の熱に指を絡めて、腰を叩きつけてくる。 痛みを全て快楽と感じているのか、可笑しいぐらいに、快感しかなかった。 「あ、あ あぅ、は、ぁ、ああ…っ」 溺れるみたいな錯覚。 目の前の、自分の姿をした、自分でないものに、すがりつく。 涙に潤んだ目に映るのは、嗜虐の笑みを浮かべたアンリ。 ――そう。アンリマユ。アヴェンジャーだ。 俺じゃ、ない。 「アンリ、マユ。」 はっきりと、その名前を呼ぶ。 俺がその声音にこめたモノに気付いたのか。 「…なんだよ、エミヤシロウ。」 アンリも俺を、俺の名前を呼ぶ。 名前は個をあらわすものだ。 俺の今の名前は衛宮士郎。こいつはアンリマユ。 違う個体で、だから、繋がっている。 俺は笑った。 まわした腕で顔を引き寄せて、アンリに口付ける。 舌を絡めれば、吸われる。 どんなに繋がっても、混じり合うことはできない。 アンリマユが俺の殻を被ったというのなら、 今ここにいるこいつは、俺が生んだと言えるのかもしれない。 唇が離れる。唾液が糸を引く。また、重ねる。 アンリの動きに合わせて自分も動く。 「ナカだけで、イけそう?」 「んっ、は、ァ、あと、少し…っ あ あっ」 前立腺を抉られる。 アンリの腕に爪を立てて縋る。 意識して強くナカの熱をしめると、気持ち良さそうに唸るアンリ。 そして、冗談のように、タイミングを合わせたわけでもないのに、 同時に俺たちは、吐き出した。 俺はアンリの腹に、アンリは俺のナカに。 荒い呼吸。 どさりと俺の上に倒れてきたアンリを抱きしめる。 アンリも俺に腕を回す。 「欠片なんだし、どうせならオマエのナカに融けちまえばイイのにな。」 肩口に顔を埋めてアンリが呟く。 「無理だろ。もう、別の存在なんだからさ。」 俺は揺るがない現実を告げる。感情を切り離して。 つれねーの、と笑い混じりにアンリ。 「あー、そろそろ、オメザメの時間みたいだな。」 そして、最後通牒。 「………。」 言葉が、出ない。 何を言っても違う気がして。 言葉のかわりに、ただアンリの体を抱きしめた。 アンリも、もう何も言わない。 意識が切り替わる瞬間まで、ただお互いを感じて。 ばちんと 電源が 落 ち た 残ったものは、体の奥にある疼痛だけ。 それも日が経てば、消え去る程度の。 でも、忘れるわけが、ない。 鏡を見れば簡単に思い出せるだろう。 あいつは、俺の一部だったんだから。 それは、自分ではなくて、そのものでもあって。 ああいう面も自分の中にあるんだっていうのは、ちょっとショックだが。 「さて、起きるか。」 言って体を起こす。 そして一日をまた、始めよう。 あの日々に幕を降ろすことを選んだ自分自身に、胸を張れるように。 アンリ難しい、よ! 前に書いた讐士の続きっぽいです。結末というか。 この二人はリバでにゃんにゃんやってるのが可愛いと思います。 でも書けないけどな! アンリの口調は槍とかぶる。 原作ではちゃんと差別化されてるんだけどなー難しい。