「手を縛れ、だと?」 俺の言葉に訝しげな視線を向けながらアーチャーが確認してくる。 頷いた俺にアーチャーは、 「…貴様にそういった嗜好があったとはな」 「違う。」 予想通りに返してきたので即座に否定する。 眉間に深く皺を刻み、続けてアーチャーが問いかけてくる。 「ならば何故だ。貴様が選んだのだろう?魔力供給の為に私に抱かれることを。」 うん、確かにそうだ。それしか方法が無いからだが。 「覚悟は出来てる。けど、絶対途中で耐えられなくなって、おまえのこと殴ると思うんだ俺。」 きっぱり告げればアーチャーは目を見開き間抜けな顔をしている。そして溜息。 仕方ないじゃないか。同性、しかもアーチャーに抱かれるとか、考えたこともなかったし。 それでもこの男を残すと決めた以上は、魔力供給はマスターである俺の義務だ。 うまくラインが繋がっていないのも俺が未熟なせいだし。 それにアーチャーだって魔力供給の為に俺を抱くなんて真似をしなければならないのだから、 精神的な苦痛はお互い様だろう。 ただ、なんでそうまでして現界する気になってくれているのかは解らないが。 しばしの沈黙の後、 「……そういうことならば、了解した。確かに最中にそんな真似をされれば興醒めだからな。」 アーチャーは俺を見据えながらそう言ってきた。 ――――――――― 後ろ手に縛られる。跡にならないように下にハンカチをあてて、わりと容赦なくきつく縛られた。 試しに力をこめてみたが、縛られた手首はびくともしない。 アーチャーは俺の背後にまわっていて、俺はアーチャーの両足の間に座らされた状態。 ふっ、と首筋に呼気が当たり、首をすくめると、さらに濡れた感触が続いた。 視界に僅かに入る、目を伏せたアーチャーの顔。 首筋の皮膚を吸われ、舐められる。 ちゅ、という音に頬が熱くなった。 「…っ」 息を詰める。 アーチャーの無骨な手のひらが上着の裾から中へ潜り込んできて、俺の素肌を撫でる。 腹を撫でた後、胸に上がってきた手は撫でる動きから揉むような動きになって。 女の子じゃないんだから、そんな場所弄られても意味が無いから止めろと口にしかけた時、 ぞくんと体に電流が走った。アーチャーの指先が胸の尖りを引っ掻いた瞬間、だ。 俺の反応は勿論アーチャーに伝わっているだろう。 「ああ…悦かったか。」 耳に直接吹き込むように告げられ、両方の尖りを強めに摘まれた。 「ぅあ…っ」 思わず声が零れる。声を出せ、と言われそのまま胸を弄られる。 言われて素直に出せるものじゃない。唇を噛み締めて、じんじんと熱をもってくるような感覚に耐える。 強情な奴だと笑う声。うるさい。そんなの自分が一番わかってる。 口を開けば妙な声が出そうだったので、文句を言いたいのも我慢した。 「…目的を見失うな。もっと体の力を抜け。」 少し呆れた風なアーチャーの声にはっとする。 目的…魔力供給。それは解っているけど―――。 「…俺の、声なんか、…聞いて、たのしいのか……?」 顔だけ振り返って恨めしげな声を背後の男にかけた。 「自分では解らんだろうが、なかなかそそる声をしている。」 アーチャーは薄く笑うと、そんなことを言ってくる。 そそる声、なのはそっちだろ――という言葉は呑み込んで、俺はまた正面を向いて小さく深呼吸した。 それが再開の合図になったのか、アーチャーは再び俺の胸を弄りはじめた。 先程と違うのは、片方の手が腹に触れてきたこと。臍を指先で擽ってくる。 何か妙な感じで、篭った息を吐き出す。唇を噛み締めるのはやめた。 だが、あからさまに声を出すのは抵抗があって、なるべく呼吸で誤魔化す。 時折声が零れてしまうと、まるで褒めるようにアーチャーが首筋に唇を押し付けて軽く吸ってくる。 濡れた音が聞こえるのが堪らない。 いつの間にか、俺のズボンをアーチャーの手が下着ごと引きずりおろしていた。 足首に絡まる衣服が鬱陶しくて、自分から足を抜く。 素肌にひんやりとした空気が触れ、小さく震える。 そこに、アーチャーの手のひらが触れてきた。太腿を何度か撫でる。熱を移すように。 そして緩く勃ちあがっていた俺の中心を、両手のひらで包み込んだ。 「あ……」 声は自然に押し出された。 直に与えられる快楽に無意識に期待する。羞恥はどこかに吹き飛んだ。 耳朶を舐められ、柔らかく噛まれて、ぞくんと震えた体に追い討ちをかけるようにアーチャーの手が、指が、動いた。 その動きは、自分でするよりもずっと容赦が無かった。 竿を強く弱く絶妙な力加減で扱かれて、剥き出しの先端をぐりぐりと弄られる。 あっという間に先走りが滲み出て、潤滑がよくなって。 「ん、ぁ…は、はっ……あ、ァ……あ、」 途切れ途切れに喘ぐ。 アーチャーの唇が目尻を吸ってきて、涙が滲んでいたことに気付いた。 縛られた腕、手を握りしめて手のひらに爪を立てて強すぎる快楽に抗う。 「堪えるな、一度、出しておけ。」 囁かれた声が引き金になった。 「――――っっ」 絶頂は声にはならず、俺はアーチャーの手のひらに吐き出していた。 何度か震えて脱力する。体の中の熱を逃すように息を吐き出す。 汚してしまったアーチャーの手をぼんやりと見ていると、その手が動く。 指を俺の精液で濡らして、もう片方の手で俺の尻を掴んで奥の部分を広げて。 その指が、そこを、撫でた。 自分ではそんな意図で触れない部分。揉み込むように動いた後、ゆっくりとその指が中に入ってきた。 ごつごつした、硬くて太い指。思わず締め付けてしまい、形がはっきり解って顔が熱くなる。 やめろと口に出してしまいそうになって、唇を噛み締める。 アーチャーは何も言わず、そっと挿し入れた指を動かしてきた。 くちゅ、と粘着いた音がする。狭いなかを広げるように、解すように。 僅かな痛みと圧迫感は次第になんとも形容しがたい感覚に変わってくる。 噛み締めた唇が自然と開き、浅い呼吸と共に喘ぎ声を零す。 指が増える。もう痛みは殆ど無い。 「アー、チャー……っ」 背後の男を呼ぶ声は、どこか縋るような響きを帯びていた。 「何だ。」 応えた男の声は熱っぽかった。 今更気付く。尻に当たる硬くて熱いもの。アーチャーも平静ではないのだと解ってほっとしたからか、 「もう、いい……から、………いれて、くれ…」 俺は先を促した。羞恥で声は小さくなったが。 アーチャーは後孔から指を引き抜き、腕を縛っていたものを解くと、俺の体を敷いてあった布団に仰向けに転がした。 「え?」 戸惑う俺に構わず、アーチャーは俺の両手を掴み、背中に回すように導く。 「つかまっていろ。」 それだけ言って、両脚の間に体を割り込ませてきて。 ひたりと先程まで散々指で弄られていた場所に、熱があてがわれた。 体が強張る。指とは比べ物にならない質量。本当に挿入るのか。 「ぁ…」 声が震える。馴染ませるように入口を何度か擦られて、もどかしい。 「アーチャー…」 「……衛宮、士郎…」 名を呼び返されて、ぞくんと体が跳ねる。 挿入れるぞ、小さく告げて、ぐ、と腰を進めてきた。 「う………ァ……っ!!」 めり、と狭いそこを広げながらアーチャーの熱の塊が突き進んでくる。 内臓が押し上げられるような苦しさに息を詰めると、呼吸しろとアーチャーに言われ、侵入する動きが一度止まる。 はぁっと息を吐き出せば、自分のなかにあるアーチャーのそれをはっきり意識してしまって堪らない。 閉じていた目を開くと、熱っぽく少し苦しげなアーチャーの顔と、浮いた自分の腰の向こう、繋がる部分が見えてしまった。 一気に頭に血が上る。咄嗟に目を閉じたが既に遅い。心臓は馬鹿みたいに鳴り響いている。羞恥で死にそうだ。 ――と思っていると、閉じた唇に濡れた感触。すぐに離れたそれを追うように目を開くと、至近距離にアーチャーの顔。 近すぎて表情は解らない。再び重なる唇。今度ははっきりとアーチャーにキスされているのだとわかった。 重なるだけだった唇が、深く舌を絡めるものに変化していく。 余計な事は考えられなくなって、その感覚だけを追っているうちに下肢に衝撃。 ずっ、とアーチャーの熱が更に俺の体のなかに埋まって、互いの肌がぶつかったことで全部おさまったのだと理解する。 「ぜんぶ、はい っ た……?」 「ああ……」 「…おま、え、…でか すぎ……っ」 「は…良かったな。お前も将来的に望みがあるということだろう?」 「こ、の……っ!」 苦しいながらも軽口を叩けば、男からも同じ様に返ってくる。 いつもとは違う状態でありながら、いつもと変わらないそのことに安心する。 動くぞ、という言葉に頷きで返すと、アーチャーはゆっくり腰を動かし始めた。 初めは辛かったが、次第に快楽を感じられるようになってくる。 腰の動きと同時にアーチャーの手が、互いの腹の間で揺れていた俺の熱を包み込んで一緒に擦る。 俺はアーチャーにしがみついて押し出されるままに声を上げた。 アーチャーの乱れた息が肌にあたるのにも、汗が流れ落ちるのにも、感じる。 全身が性感帯になったようだ。 「アーチャー…っ、も、だめ…だ…っ」 訴える俺に、アーチャーの動きが更に激しくなる。 「あっ、ア……っっ!!!」 縋りついた背中に爪を立てて、俺は達した。 アーチャーもくぐもった声を出した後、腰が震える。 俺のなかにアーチャーの精が吐き出されて、がちんと繋がったのが解った。 直後に脱力感。俺の魔力がアーチャーに流れていく。 そこで、俺はこれが魔力供給だったことを、思い出していた。 ――――――――― その後、色々な後始末はアーチャーが済ませてくれた。 俺は気だるい体を布団に横たえたまま、ぼんやりしていた。 「………疲れた。」 しみじみと呟くと、 「それはこちらの台詞ではないかね、衛宮士郎。」 口端を上げながらアーチャーが声をかけてくる。 「む……確かにやるほうが体力使うとは言うけどさ……。」 居たたまれなくて強くは言い返せず、俺は誤魔化すように布団を頭から被ってアーチャーに背を向けた。 アーチャーが小さく笑う気配を感じる。 「でも、うまくいって、良かったよ。…悪かったな、面倒かけてさ。」 顔が見えないおかげか、するりと本心を告げることが出来た。 返答はあっても無くても構わなかったから、俺は重くなってきた目蓋に抗わず、そのまま眠りに身を委ねようとした。 僅かな間をおいて、布団ごしに何かが触れてくる。 肩のあたりをぽんと叩かれて。 「この方法を提案したのはこちらだ。本気で面倒ならわざわざ告げんよ。」 アーチャーはそれだけ言うと、俺から離れていった。 部屋の戸が閉まる音。 がばりと布団を跳ね除ける。 「…それって、どういう、ことだ……?」 呟いて、両腕で顔を覆う。 やたらと顔が熱かった。 これが、俺とアーチャーの、はじめての夜。 なんか甘ったるい弓に……?士郎もちょい乙女っぽい。 弓は初めは体を張った嫌がらせの延長だったんだけど、抱いてるうちに、 なんか可愛く思えてきてしまった→何かが芽生えた?――という感じで。 士郎も終わった後のやりとりで芽生えたような。そんな生温い二人でした。