暁の光が窓から射し込む。 思い出すのは、あの男の熱と痛みと、快楽。 「…本当に、とんでもないものを、残してくれたな……ランサー。」 ぽつりと呟く声に、返る言葉は無い。 自分の勝手な願いで無理矢理繋ぎとめていた英霊達は、皆、還っていった。 別れは実にあっさりとしたもので。 最期、と判断を下した英霊達は後腐れの無いようにと武器をとり、戦い。 そして結局、決着はつかぬまま、だが晴れやかな表情で、この世界から退場した。 その最期の日の明け方に。 俺はランサーに、抱かれた。 犯された、と言ってもいいのかもしれないが、 実際の所、自分自身ランサーに押さえ込まれた時、抵抗出来なかったのか抵抗しなかったのか、 どちらだったのか分からないので。強姦というものとも違う気がするのだ。 何の前触れも無ければ、そんな素振りも無かった。 突然、俺の部屋に入り込んだランサーは、まだ眠りの中にいた俺をベッドから引きずり出して、 意識がはっきりしないうちに俺は窓際に押さえつけられ、背後から抱き込まれた。 その相手がランサーだということを理解し、何故と疑問を投げかける間も無く。 俺は、与えられる快楽の波に、呑み込まれていった。 ランサーの手が上着の裾から潜り込み、俺の胸を弄る。 もう片方の手は下腹部を滑り、俺の中心を掴み、ゆるゆると擦る。 首筋にランサーの唇が押し当てられる。 「は………っ、ん、」 「イイんなら、声、出せよ。」 ランサーが俺の耳朶に舌を這わせながらそう言って、胸の尖りに爪を立ててくる。 じんとした感覚が、腰に、くる。 同時に中心の熱も扱かれて、脚が震える。 「っ……ふ、ぅ」 極力声を堪えながら、俺は視線をさまよわせた。 下を向けばランサーの手を濡らす自分の中心が目に入ってしまうので、結局正面を向く。 窓のカーテンが閉まっていたのは幸運だった。 隙間から、窓の外が少し窺える。まだ、暗い。 はぁっと自分を誤魔化すように大きく息を吐く。 自分がこんなに快楽に免疫が無いとは思ってなかった。 気持ちよすぎて目眩がする。 多分、人にされているから。或いはランサーが巧いのか。 気を抜けばすぐにも吐き出してしまいそうで。 それは悔しいので必死に耐えていたら。 「堪えんなよ、坊主。」 見透かしたようなランサーの声。 「オマエが出したやつ使って、濡らすんだからな。」 続けられた言葉に息を呑む。 俺の胸を弄っていたランサーの手が、つ、と下へ向かい、 尻へ回されて窪みをなぞってきた。 ざ、と鳥肌が立つ。 「っ……、好き勝手、言いやがって……。」 思わず唸った俺にランサーは愉しそうに笑い。 「抵抗したいんなら、しろよ。逃がす気はねぇがな。」 言って、 「あ…っ!っん、ん…っ」 俺の中心を容赦なく扱き始めた。 先端を抉り、裏筋を強く擦り、かりの部分を擽る。 抗え、ない。 「っ、ぅ…あ、あっ…、ん……っ!!」 程なくして、俺は白濁を吐き出した。 それをランサーは手のひらで受け止める。 脚から力が抜けそうになる。それを、ぐ、と堪えた。 肩で息をしていると、ランサーは片手を俺の腰に回し、支えて。 もう一方の、白濁で濡れた手、指で、俺の後孔をなぞり、 そのままずぶりと、なかへ入れてきた。 「つ……ぅ」 ちりと痛みが走る。 ただそれは入口だけで、なかまで潜り込んでしまえば、異物感を感じる程度の些細な痛み。 なかを揉むように蠢くランサーの指を、押し出そうとするように、 俺のなかが収縮するのが、分かる。 ぎゅ、と目の前のカーテンを掴んで目を閉じる。 指の動きに容赦なんて無い。 くち、ぐちとそこが濡れた音を立て始めて。耳を塞ぎたい。 あ、指が、増え、た。 増やされた指に、それだけを思う。 時折ランサーの視線を感じる。 見られているのだと思うと、堪らなかった。 「っ、あ、ァ…!」 体が、跳ねた。 紛れもない快楽。 なかを蠢く指が、ある場所に触れて。 まるでスイッチが入ったみたいに、自分の体が快楽に、満たされて。 「っ、ラン、サー……っ」 特に意味なんて無い。 俺を追い詰める男の名を呼べば、ランサーは喉の奥で笑った。 首筋を舐められて、震えが走る。 頭の中が、白く染まるような快楽に、くらくらする。 だから、ランサーの指が引き抜かれて、かわりに別のものがそこにあてがわれても、 反応出来なかった。ただ、熱いと、感じて。 「……ぁ」 それが何なのか理解し、その直後。 「あ………っ、ァ……――!!」 熱に、侵された。 俺の耳元で、息を詰めるランサー。 体がぴたりと重なる。 繋がる。 首筋にあたるランサーの吐息が、熱い。 その後は、波に呑まれたとしか、言いようが無かった。 揺さぶられて、痛いのか気持ちいいのか分からなかったし、 ただただ熱くて、自分の口からは甘ったるい喘ぎ声が零れて。 突き上げる動きにあわせて縋る窓が、がたがた音を立てる。 腰を揺らしながら、ランサーは俺の中心に手を伸ばして、掴んで、また扱いてくる。 同時に与えられる快楽に、俺は一気にのぼりつめて。 「…………ぁ、っ」 俺がランサーの手に二度目の精を吐き出したすこし後に、 ランサーも俺のなか、一番奥に、その欲を吐き出してきた。 じわりと腹に熱が広がる。 ぼんやりと見た窓の外には、暁の光。 立っていられなくなって、俺はその場に崩れ落ちた。 ランサーの熱が、ずる、と抜ける。 床に落ちるはずだった俺の腰は支えられ、 俺に合わせてその場に座り込んだランサーの上におろされた。 後ろから抱き締めてくるランサー。 「…結局、何だったんだ…」 俺はそれだけを背後の男に訊く。 「ん?なに、別れの前に、坊主を抱いておきたかったんでな。」 ランサーは何でもないことのように、軽くそんなことを口にして。 別れというランサーの言葉を、多分、正確に俺は受け止めて、 ただ、そうかと俺も何でもないことのように返した。 窓から朝の光が、射し込み始める。 「…それはともかく。なんでわざわざ、こんな窓辺まできて、やったんだよ、ランサー。」 もうひとつの疑問を投げかけると。 「その方が、オマエの記憶に強く、残るだろ。」 ランサーはさらっと言って、後ろから俺の目尻に唇を押し付けてきた。 「……明け方に、いきなり男にやられたってだけでも、十分だ。」 俺は心底脱力して呟く。 ランサーはそんな俺を笑って見ていた。 だから俺は体を後ろに向けて、笑うランサーの唇を自分の唇で塞いでやった。 噛み付くみたいに。 色気のないそれを、ランサーは目を細めて受けて、 「まぁ、なかなか楽しめたぜ、士郎。」 それが、何に対する言葉かは、分からなかったが。 ランサーは俺にそう言って、お返しとばかりに深く唇を重ねてきた。 そして、その日のうちに、英霊は皆、あるべき場所へ還っていった。 ランサーが俺に残したモノ。 形なんて無い。 ただ、俺は、暁の光を、この部屋で見るたび思い出すだろう。 あの男の熱を。 きっと、姿を忘れてしまっても、熱だけは、覚えている。 言峰士郎、聖杯戦争後。 ノーマル状態で、最期の別れの前に、いきなり喰われたよという話です。 前に書いたコトシロさん槍士のその後とは対極というか。 さらっとこんな真似する兄貴も好きです。