嫌なんだ。 自分は女なんだって思い知らされるから。 だから優しくなんて、するなよ。 いつだって、俺はおまえと対等でいたいのに。 俺の胸を這う手。 男とさほど変わらない大きさのそれに、こいつは熱心に触れてくる。 強すぎず、弱すぎず。 優しすぎる愛撫は、俺にとっては腹立たしいものでしかない。 こいつは、アーチャーは、こうして体を重ねる時にだけ、俺を女と見なす。 普段は男として生きてきた俺を、男として扱う。 そこには俺に対する遠慮も、容赦も無い。 俺はそんな関係が、好きだった。 変わったのは、自分が未熟なせいだが、アーチャーを現界させる為に体をはった、 つまり、アーチャーと寝た時から。 アーチャーは優しかった。初めの時から、それは変わらない。 俺の体に、あまり負担がかからないように。 ああ、確かにそれは、儀式めいていた。 俺の体と心を高めて、体を繋いで、アーチャーは俺から魔力を必要な分だけ摂っていく。 アーチャーが気づかうおかげか、体への負担はそれほど無かった。 だが、それが悔しい。 この男に気づかわれているなんて、本当に頭にくる。 この男の余裕じみた顔を、歪ませたいと。 それが自分の首を絞めることだと、わかっていたけれど。 「っ、アー、チャー…、も、そこ、ばっ、か…さわる、な…」 俺の胸に顔を埋めて、手で撫でながら唇を這わせている男の白髪をくしゃりとかき混ぜる。 そうしたら、アーチャーは俺の胸の先端を口に含み、きつく吸ってきて。 「っあ」 「感じるのだろう」 言って、アーチャーは俺の足の間、奥に指を滑らせて下着の上からそこを、押さえてきた。 否が応でもそれで、そこが既に濡れていることに気付かされて、俺は唇を噛んだ。 アーチャーの指はそのまま、ぐ、とそこに浅く沈んだ。 下着越しの、その感覚。 入口付近だけをかき混ぜるように動く指。 「っ、ん…ぅ、っ」 奥からどろりと溢れてくる。 陰核を同時に擦られて、たまらず腰が跳ねた。 「は、はぁっ、あ…く!」 無意識に縋るようにアーチャーに手を伸ばして抱きつく。 アーチャーも俺を抱き返してくる。 こんな真似、平時なら絶対にしないし、こいつだって許しはしない。 その温度差に、自分も含めて嫌になる。 アーチャーの指は下着をかいくぐって、直に内に潜り込んできた。 容易くアーチャーの指をそこは呑み込んで、まるで悦ぶようにその指を締め付ける。 自分の意思とは無関係に。 ゆっくり抜き差しされて、内で、く、と指を折り曲げられて、かき混ぜられて。 そのたび俺の喉から甘えたような声が溢れる。 そうやって俺のそこを慣らしながら、アーチャーは空いている手で俺の胸を撫でながら 首筋に唇を這わせてきて。 「ふ……ぅ、っ」 時間をかけて、指は増やされていく。 その指が三本になり、ぐちゅぐちゅとあからさまにそこが濡れた音を立て始めたころに、 アーチャーは指を、引き抜いた。 「あ、…っ、は…」 喪失感に体が震える。 は、は、と熱い息を吐き出す俺をちらと見て、アーチャーは俺の脚を掴んだ。 開き、間に体を入れて、腰を抱え、濡れそぼっている俺のそこに、アーチャーは自身の熱をあてがって。 「っ」 何度やっても、入れられる瞬間は緊張する。 気持ちを落ち着かせる為に、ゆっくり呼吸する。 そんな俺にタイミングを合わせて―――。 「あ、あっ…っ!い、っ、あ……っ」 入口を目一杯広げられる感覚に、体が怯えるみたいに震える。 びり、と走る痛み。 だが、そこを越えた後の快楽を、俺の体は既に知っているから。 アーチャーも止めたりはしない。そのまま全てを沈めてくる。 「っ、」 「…あ、あぁ…っ!」 アーチャーの動きが止まって、ぴたりと体が重なる。 自分の内で脈打つアーチャーの熱。 締め付ければ、さらに体積が増す。 「あ、はぁっ、あ、…んっ、ふ……ぅ、」 荒い呼吸を繰り返す。 アーチャーは、俺が落ち着くのを待っていた。 それはいつものことで、俺が促すまで、こいつは動かない。 ただ、俺の腰を宥めるように撫でたり、胸を撫でたり。 「ふ、ぅ…っ」 その気づかいが、優しさが、堪らない。 「…動け、よ……もう、平気、だ」 声をかける。 アーチャーは俺と一度だけ目を合わせて、ぐ、と小さく突き上げてきた。 「っ!」 びくんと体が跳ねる。 突き上げは次第に強くなってきて。 胎内を熱で掻き回される。 ひっきりなしに下肢からは濡れた音。 自分の喘ぐ声。 この男の荒くなっていく呼吸。 抜き差しの間隔が、次第に小刻みになっていく。 もうすぐだと理解して、俺は腕をアーチャーの首に回して、きつく引き寄せ、 男の腰を足で挟み込み、胎内の熱をぎゅ、と締め付けた。 促す為に、逃がさない為に。 「っ、何、を」 アーチャーの少し焦る声。 アーチャーはいつも、俺の内では吐き出さない。 理由は知らない。別に知りたくもない。 ただ、腹が立っていた。ずっと。だから―――。 「どうせ、孕むことなんて、ないんだから…、いいから中で出せ……っ!」 吐き捨てた。 アーチャーの驚愕に見開かれた目を真っ直ぐに見て、そのままアーチャーの唇に噛み付く。 そしてもう一度、下肢に力を込めてアーチャーの熱を締めた。 「っ、たわけ……っ」 アーチャーが低く唸り、だが、俺の体を振り払う事は無く、 もう無理だというぐらいに奥まで腰を入れて。 男が息をつめる音を聞くと同時に、奥深くで、熱が、弾けた。 「あ、あぁ、っ!!―――ふ、ん…!」 全身に快楽が駆け巡る。 内部に断続的に注がれるアーチャーの、精。魔力。 俺の体も絶頂を迎えて。 アーチャーは繋ぎ、俺から魔力も摂っていく。 結局、これもこの男の優しさだ。 本気で望まないなら、跳ね除けることぐらい容易いはずなのに。 俺の言葉を受け入れた結果がこれだ。 望んだのは俺なのに。 俺はどうしたいんだろう。イライラする。 荒い息を吐きながら、涙目のままアーチャーを見上げる。 アーチャーは、は、と息を一つ吐いた後、身じろいだ。 体を離し俺から熱を引き抜こうとする。 それを、俺は、引きとめた。渾身の力で抱きつく。 「…衛宮士郎」 アーチャーが訝しげに俺を呼ぶ。 俺は溢れる想いのまま、それを音にした。 「なんで、そんなに、手加減するんだ…気づかうなよ!俺は女だけど、衛宮士郎だ。 それは変わらないのに、なんで、この時だけ、俺を女扱いするんだ……。 嫌がらせだって言うなら、成功してるけどな……っ」 「……士郎」 「もっと、おまえの好きにすれば、いいだろ。 ただの儀式だっていうなら、もっと突き放せ!中途半端に、優しくするな……!」 「っ……」 アーチャーが息を呑む気配。 今、この男がどんな顔をしているのかはわからない。 抱きついてこの男の肩に顔を埋めているから。 情けない話だが、顔を見るのが少し、怖かった。 時間にしてみれば僅かな間の後。 「…っ」 ち、と舌打ちが聞こえ、無造作に俺の体からアーチャーの熱が引き抜かれた。 あ、と思う間もなく俺は体をうつぶせにされて、腰を掴まれてひきよせられると同時に。 「あ、あああぁっ!!!」 今までで、一番手荒く、貫かれた。 内は自分のものと、アーチャーの放ったもので、どろどろに濡れていて、 すんなりその熱を受け入れて。 アーチャーはすぐに動き出す。俺の内を抉り、かき混ぜて。 「あっ、ぃ…、あ、うぁっ、あ…や、ゃ、あ…ん……!」 与えられる、強すぎる快楽が苦しくて、逃げようとする俺をアーチャーは許さず、 俺の腰を強く掴んで固定して、そのまま何度も叩きつけてくる。 ぐちゅぐちゅと嫌な音がひっきりなしに耳に届く。 背後からアーチャーが体を倒して俺の項に歯を立ててきた。 噛まれるその痛みの感覚でさえ、今の俺の体は感じてしまう。くるしい。 抵抗なんて全てねじ伏せられた。 これが自分とアーチャーの本来の力関係なのだと思い知る。 多分、俺が本当に男だったとしても、この男にはきっと敵わない。 今まで相当、手加減されていたのだとわかる。 敵わないことは悔しい。でも、手加減されるよりは、この方がいい、 なんて思ってしまう俺は、おかしいんだろうか。 何かが切れたかのように、アーチャーはそれからしばらくの間、好き放題、俺を抱いた。 おかげで、指一本動かすのも億劫な有様で俺は横たわっている。 下肢はどろどろ、声は掠れて。 ただ気持ちだけはどこかすっきりしていて不思議だ。 視線を感じて、閉じていた目を開けて、視線の先を辿ると、 何か言いたげなアーチャーの顔があって。 「謝るなよ。」 先手を取ってそう言えば、アーチャーはぐ、と開きかけた口を閉じた。 俺は苦笑して、体を起こそうとして、奥からまたどろりと溢れたものが内股を伝う感触に、 う、と眉を寄せた。なんというか、極端な男だと思う。 「…ならば、満足かね、衛宮士郎。」 アーチャーがそんな風に問い掛けてくる。 「満足…ってわけじゃないけど。気は、少しは晴れた、かな。」 俺の返答に。 「まさか、おまえがそのような趣味嗜好を持ち合わせていたとはな。」 溜息をつきつつ、アーチャーが零す。 さすがにその言い様には、かっときて。 「元々は、やるときだけ、おまえが変に俺を女扱いするからじゃないか。」 先ほども口にしたことを再度言えば、アーチャーは眉間に深く皺を刻んで、 「おまえは、女には優しくしろと言われたことは無かったか。」 そんなことを言ってきた。 俺は、え?と間の抜けた声を口から零した後、ああ、と思い出した。 昔、切嗣に男として生きるなら、女の子には優しくしなきゃだめだよ、などと 確かに言われた覚えがある。 もしかして、それが原因なのかとアーチャーの顔を見て先を促すと。 「平時は気にならんがな。体を直に見てしまえば、女と認識せざるをえん。 たとえ、衛宮士郎であっても、だ。」 至極真面目にアーチャーはそう、はっきりと答えた。 「…胸とか、男と変わらないだろ。」 俺の口から出たのはそんな言葉で。 「男のそれとは違うだろう。」 アーチャーはそう返してきて。 いや、うん。まいった。 変なところで律儀なやつだと思う。 女性には優しく。 そんなものが原因だったなんて。 俺は一気に脱力した。 「…でも、そんなこと思ってたわりに、さっきはやりたい放題やってくれたよな。」 体のだるさに俺は恨みがましく言ってやった。 そうしたら。 「あれだけ煽られれば、どうにでもなれという気分にもなる。」 アーチャーはそう言って。 なんだよそれ、と問い返すと。 「衛宮士郎に欲を覚えたから抱いた。それだけの話だが。」 実にさらりとアーチャーは言った。 何か今、凄いことを言われたような、気が 俺は呆然とアーチャーを見た。 「…何を、呆けている。」 「あ、え?だってさ。おまえがそういうこと言うの、意外だし。」 「…そうだな。まさか性別が違うとはいえ、衛宮士郎に劣情を抱くことになるとは私も思わなかったな。」 「劣情……っておまえな。趣味悪いぞ。俺、中途半端な体だし。」 女としては硬く、男としては柔い。 そんな、どっちつかずの体。 ただその事実のみを口にした俺に、アーチャーは目を眇めて、手を伸ばしてきて。 「っ」 「…十分、おまえは、女だと思うがね。」 指先で、つ、と俺の胸を上から下へとなぞって、言った。 それに、ぞくりと全身総毛立った。 なんだ、これ、と思う。 目の前の男が発した言葉が、心臓を跳ねさせた。 あれ、俺、もしかして、こいつのこと………? 次の瞬間。 「…何をする。」 俺は近くにあった枕を手に取り、それをアーチャーの顔に咄嗟に押し付けた。 そうして距離をとる。 駄目だ。自覚したら、顔をあわせられ、ない。 頬が、熱い。 そのまま掛け布団を引き寄せて頭から被り、アーチャーに背を向けた。 「…士郎?」 「おまえのおかげで疲れたから、寝る。」 それだけ言って、押し黙った。 眠いのは嘘じゃない。だから、目を閉じる。 そうしたら、掛け布団の上から頭を一度だけ撫でられて、 そのままアーチャーの気配は静かに遠ざかっていった。 心臓の音がうるさい。 いっそ止まれと思う。 以前、遠坂が言っていたっけ。 アーチャーは気障で誑しだって。 その通りだ。 そんな奴に、なんで、こんな。 「……馬鹿やろう。」 呟きは、誰にも聞かれることはなく、闇に融けた。 ただ、対等でありたかっただけ、だったのに。 初にょしろが、えろ。正直だな自分…。 冒頭は、以前続かないとかいいながら吐き出したやつです。 うちのサイトでにょを望んでる方なんてたいしていないでしょうが。 色々漲ったので書いてみた。 『どうせ、孕むことなんて〜』の台詞が浮かんで、書きたくなったのでした。 にょしろ、乙女心、芽生える。そんな話に。 おっかしいなー、にょしろでは酷いネタしか浮かばなかったから書くことはないだろう とか思っていたのに。チャの影響力って凄いなー。 楽しかったです。 題名のサイゴまで、ってのは、まぁ、なかだしのことで一つ。 サーヴァントだからやったネタですよ。普通だったら孕んじゃうから駄目ですよ!