聖杯戦争の最中、この腕は俺を助けもしたし、殺そうともした。 今はただ、後ろから優しく腹に回されている。 魔力供給の為の性交渉後、決して広くは無い風呂に 俺はアーチャーと二人で入っていた。 膝を立てて体育座りになった俺の背後に、 同じ様に座ったアーチャーがいる。 背中にはアーチャーの厚い胸板。 腹には逞しい腕がゆったりと回されて。 だが、何よりも気になるのは、 首筋に感じるアーチャーの吐息だ。 時折、ちゅ、という音と共に唇の感触。 髪の生え際だとか、耳朶だとか、 強すぎず弱すぎない愛撫。 そう、これは愛撫と呼んで間違いのないものだろう。 そう感じる程にその感触はただ優しい。 聖杯戦争の間、俺に向けられていた殺意がまるで嘘のようだ。 「――っ、」 零れそうになる声を唇を噛んで堪える。 この程度のことで、じん、と下腹部が熱くなるなんて信じられない。 自分はこんなに快楽に弱い人間だったのか、と泣きたくなる。 引き返せなくなる前に、と俺は意を決して。 「アーチャー、もうよせ…っ」 根負けしたように振り向いてアーチャーの行為を中断させた。 む、と何やら不満げなアーチャーの顔が至近距離にある。 濡れた前髪は僅かに降りていて、いつもと違う男に見える。 「減るものでもなし、別に構わんだろう」 「減る。見えない何かが確実に減ってるからやめろ」 文句を言ってくるアーチャーに負けじとこちらも不満を隠さず突っぱねた。 アーチャーは大げさに溜息を吐いてみせる。 溜息を吐きたいのはこちらだと睨めば、ふ、と細められる瞳。 「……何だよ」 「いや、気にするな」 やわらかく笑ってアーチャーは俺の腹に回した腕に力を込めた。 自然、互いの身体は密着する。 いつまでも振り向いたままでは首が痛いので、顔を正面に戻すと ソレを待っていたかのように、また首筋に吐息。 はぁ、と深く息を吐いて、 「わかった。嫌がらせだな」 地を這うような声で言ってやった。 嫌がらせのつもりは無いのだが、と俺の首筋に唇を押し当てたまま アーチャーが答えてくるので、じゃあなんなんだと聞けば、 「容易く急所を私に晒すおまえが、愛おしくなったのだ」 なんでもないことのように、そんな台詞を吐きやがった。 ………なんというか。 これが女の子に対しての言葉なら解らないでもないが、 男である自分に対して告げられた、というのが信じられない。 ああ、やっぱり嫌がらせなんだなと思えたらどんなに良かっただろう。 だがアーチャーの告げた言葉はどこまでも真実なのだと理解してしまった。 そんな響きを帯びていた。 顔を見られずにすんで良かった。 きっと自分の顔は真っ赤だ。 のぼせたのだ、と言えば誤魔化せる状況で助かった。 そんな風にぐるぐるしていたら、ふと、腹に回されたアーチャーの腕が 動いていることに気付いた。その腕はゆっくりと下へ――― 「っ!!アーチャー……っあ…!!」 止める間も無くアーチャーの手のひらは俺の中心を包み込む。 耳元でくつくつと笑う男の声。 「安心しろ、これは嫌がらせだ」 「――――っ、お、まえ…っっ」 「その気は無かったのだが、おまえもこのままでは辛いだろう?」 「ふ、……っぅ」 湯に浸かったまま、ゆるゆると扱かれる。 身体は背後から抱きすくめられていて逃げられない。 俺に出来ることと言えば、 「た、のむ……っ、外、で…っ」 息も絶え絶えに、せめて風呂から出ることを懇願するぐらいしかなくて。 「了解した、マスター」 そんなアーチャーの声が、首筋を伝う滑った感触と共に俺の耳に届いた。 首筋ってえろいよね! ちょっとはムラッときたかもしれないが、 アーチャーの言葉に嘘は無いよ! 再契約後、それほど時間は経ってないんじゃないかな。