リボン/槍士





「縛る他になんかリクエストあるか、坊主?」 俺を押し倒し覆い被さってきたランサーは、どこから出したのか手に赤い紐状の物を持ちつつ そんなことを問いかけてきた。いつも通りの問答無用さで。 そういう状況に慣れてきている自分に眩暈を感じながらも、俺は小さく溜息を吐くしかなかった。 赤い紐状の物、どうやらラッピングなどに使われるリボンのようだ。 それなりの幅があって長さもある。出所はランサーのバイト先である花屋だろうか。 冷静に分析している状況で無いのは解ってはいてもつい現実逃避をしてしまう。 「特に無いってんなら好きにするぜ。……ココを縛るってのもアリだよなぁ。」 黙っている俺を気にすることなく、ランサーはそう言って俺の股間を指先で撫でてくる。 拙い。実行される前に何か少しでもマシな使用法を提示しなければ、こいつはやる。 「ちょ……待て!今考えてるから!!」 咄嗟にそう叫んだ俺をランサーは愉しそうに口元を歪めて見下ろしていた。 ああ、それを使わないって希望は却下なんだろうな。 沸騰した頭でぐるぐる考えて、俺が出した結論は―――――。 「キツくねぇか、坊主。」 「……大丈夫、だ。」 目を閉じた上から包帯のように幾重にもリボンを巻かれる。 俺の視界は闇に包まれた。 所謂目隠し。手足やアレを縛られるよりは、と考えた末に俺が選んだのはこれだった。 行為の最中は目を閉じていることが多かったから、たいしたことは無いだろうと思っていた。 だが、その考えは甘かったのだと俺はすぐに後悔することになる。 「っ、……は、ぁ、あ…ッ」 しんと静まり返った部屋に俺の声はやけに響いている。 そう感じるのは俺だけなのだろうか。 あとは相手の微かな息遣いと、肌と肌が擦れる音、時折濡れた音。 視覚が閉ざされたことで、その他の感覚が酷く鋭敏になっている。 その上、相手がどんなことをしているのか視覚で確認できない以上、 触覚で想像することしかできない。次の行動も読めない。 「―――ふ、ぅ…っう…」 ランサーの、おそらく手のひらが俺の体をなぞる。 首筋、鎖骨、胸。胸の先端を暫くしつこく弄った後、ふいに手のひらの感触は足へと移る。 内腿を撫でたかと思えば臀部へ上がってきて、腰、背中。 同時に胸元に手のひらとは違う、濡れた何か。多分唇と舌。 吸われて、噛まれて、舐められて。湿った音が耳にやけに大きく届く。 「ラン、サー…っ」 何度か名前を呼んだが、相手からの言葉は無い。 姿が確認できない以上、今俺に触れているのがランサーなのか少し疑わしく思ってしまう。 俺にそう思わせることが目的で、わざと口を閉じているのだろう、 そんなランサーの意図を読めたところで一度感じてしまった不安は消えない。 自由な腕を伸ばして手探りでランサーにしがみつく。 体を寄せれば首元に息がかかり甘噛みされる。俺も同じ様に顔を寄せて首元だろうそこに唇を寄せた。 吸い付いたところで後孔に異物感。喉の奥で声を殺す。 いつものように指で丹念に解されていく。 いつもよりは性急に指が引き抜かれて、間を空けずに宛がわれる熱い怒張。 ひゅ、と息を呑み、体の力を抜く前にそれは体内に捻りこまれた。 「―――あ、あっ、――っっ!!」 衝撃に呼吸が止まる。思い出して必死に呼吸する。 何度も覚え込まされたランサーの熱の形、受け入れるように内部が蠕動する。 は、と苦しげな吐息が耳に届く。自分のものではない、それは間違いなくランサーの声だ。 そのことに知らず安堵する。強張っていた体から力が抜ける。 一番太い部分を通り過ぎた後は、ずるりと容易く内に収まって尻にランサーの足がぶつかった。 「いつもより、随分感じてたみたいじゃねーか。」 いつもの愉しそうな声が降ってくる。 「なんだ、もう、黙ってるの、やめたのか?」 そんなランサーに俺は口元を笑みの形に歪めて言ってやる。 「黙ってる方がいいってんなら、また口閉じてやるぜ。」 からかうように提案してくるランサーに、 「……あんたじゃ、ないみたいだから、いつも通りが、いい……」 俺は正直な気持ちを吐き出した。 笑い混じりに了解と耳元で呟いたランサーは、俺の足を抱えてゆっくりと腰を突き上げ始めた。 与えられる快楽に体を委ねて、いつものように声は必死に殺して。 「声、聞かせろ、士郎。」 そんな風に促されるのも、いつも通り。 その声に体が震えるのも、素直に声を出せないのも、いつも通り。 ただ、視界だけが真っ暗のまま、俺はあっという間にのぼりつめて、精を吐き出した。 遅れて体の奥深くでランサーの怒張が震える。じわりと熱が広がるような感覚に体を震わせた。 二人分の荒い息遣いが暫く部屋の中を支配する。 ふと、目元を覆ったリボンごしに何かが押し付けられる感触。 その後、目元の圧迫感が消えた。閉じていた瞼を上げると目の前にはランサーの顔。 「たまにはこういう刺激もイイもんだろ?」 そう言って犬歯を覗かせて笑うランサーに毒気を抜かれた俺は、良いとも悪いとも言えず ただつられて小さく笑うしかなかった。 いつもよりも気持ちが良かったなんて、ばれているだろうが言える筈もないのだ。 目隠しプレイ。槍士ってなんか幸せそうな気がするんだ。 ランサーがああいう人柄だからだろうなぁ。 敵対してると文句なしに怖いけど。