「案外、やりにくいな。」 「…考えるまでもないだろ。」 俺の右手とランサーの左手の手首を繋ぐ、軽い金属の感触。 所謂【手錠】というものだ、玩具の。 どこからこういったものを仕入れてくるのか、こいつは。 「ま、これはこれで…」 男が呟き、ぐいと手錠で繋がれた方の手を引いてきた。身体が傾ぐ。 そうしてランサーは俺の手首に唇を寄せて吸いついてきた。 ちゅ、と音を立てて赤い舌で舐めてくる。 「っ、ん」 息を呑んだ俺を見て、喉奥でくと笑うランサーの顔には情欲が満ちている。 心臓の鼓動は勝手に早くなる。 手首を舐めていたランサーの舌は俺の腕から肩、首筋へと辿り着いた。 走る痛み。軽く歯を立てられる。 そして付いた痕を舌で撫でられる。 獣の食事のようだと思う。 ランサーは時間をかけて俺の肌に唇を這わす。味わうように。 ただされっぱなしというのも落ち着かないので、俺もランサーの身体に口付けた。 手錠によって繋がっているせいか、いつもよりも近い。 こめかみ、頬を唇で辿る。視線が交わる。 「いつもより、積極的じゃねぇか。」 ランサーは愉しげに喉の奥で笑う。 それには答えず俺はランサーの唇を自分の唇で塞いだ。 主導権はすぐに奪われて、口内を舌で蹂躙される。 そうしてランサーの右手は兆しはじめていた俺の性器を掴み、容赦なく高めていく。 「ふ、ァっ…、ん…っ」 ぞくぞくと快感が駆け巡る。 手錠で繋がれた手は戒められたままに、俺の胸をランサーの赤い舌が這いまわる。 過敏な胸の赤い尖りを舌先で弄られて、俺は自由な方の手を縋るようにランサーの背に回した。 胸を弄った後にランサーの唇が辿り着いたのは心臓の位置にある傷跡。 軽く皮膚を吸われて背筋に痺れが走る。 性器に絡められていた指が最奥に潜り込み、後孔を撫でる。 指先だけそこに含ませて、入口付近を解すように蠢く。 じわじわと身体の奥から熱が生まれてきて、堪らない。 「どうした、坊主。」 ランサーは顔を上げて俺の目を覗き込んできた。 俺は息を呑んで唇を噛み、目を閉じる。 視界を閉ざせば、その他の感覚が強くなる。 耳に届くのは、くちくちという濡れた音と、金属が擦れる音。 こういう行為は初めてではないので、焦らすように弄られることで もう俺の後孔は受け入れる為に適度に弛んできているのが判る。 「…も、いい、から…っ、ランサー……っ!」 耐えられなくなって俺は目の前の男の名を呼んで強請った。 ランサーは笑う。 指を一度だけ根元まで潜り込ませてから引き抜かれ、かわりにランサー自身の熱があてがわれる。 何度か擦りつけた後、ぐ、と腰を入れて、俺のなかへゆっくりと沈み込ませてきた。 「ぁ、っ う……あ……ァ…!!」 圧迫感と開かれる痛みと熱に、途切れ途切れに声を上げた。 そんな俺の口を塞ぐようにランサーの唇が重なってくる。 あとはただ、濡れた音と互いの息づかいと、手錠がかちゃかちゃと立てる音が耳に届くだけ。 ありがちですが。 美味しい小道具の一つです、手錠。ロマン。