ぎしぎしと軋む身体、燻る熱に眉を寄せて閉じていた瞼を無理矢理開く。 さらり、と音が耳に届く。 誰かの手が俺の髪を梳いている。 誰か、なんて一人しかいない。 先ほどまでいいように俺を侵していた男、ギルガメッシュだ。 俺の意識が戻ったことには気付いているんだろうが特に何も言わず、 何が愉しいのか俺の髪を何度も梳く。時折頭を撫でられる。 ―――もう、答えを出すべきなのかもしれない。 俺はずっとこの男に抗ってきた。 ギルガメッシュに人としての情なんてあるはずが無い。 だから俺に対しての行為に最近、情が見えるような気がするのもただの思い違いだ。 ただ、ギルガメッシュの真実がどうであれ、俺自身の感情の変化は確かなもので。 それは認めたくない感情。ずっと自分に嘘をついてきた。 …そのことに、疲れてしまった。 自分に嘘をついていた本当の理由も、もう解っている。 終わりになるのを俺は恐れていたんだと。 ギルガメッシュは足掻く俺に興味をもっているだけだ。 だから俺が堕ちれば全て終わる。 そう解っていたから俺は自分に嘘をついてまでギルガメッシュを拒んできた。 でももう終わりにしよう。 終わりを、受け止めよう。 決意して、口を静かに開いた。 「ギルガメッシュ。」 囁くように男の名を口にする。 「…何だ、雑種。」 まるで俺が口を開くことを知っていたかのようにギルガメッシュは先を促してくる。 一度だけ瞼を閉じ、開いてギルガメッシュの赤い瞳を見据えて、 「俺、おまえが、好きだ。」 迷わず言った。僅かにギルガメッシュの目が見開かれる。 視線を逸らさず俺は男を見つめた。 ゆっくりと細められていくギルガメッシュの目。 その目は、俺が予想していた蔑みの色を見せる事はなく、 どこか愉しげな色を見せていて、俺は混乱する。 「それで?お前はどうするというのだ。我が望むままに足を開いて見せるか。」 「っ!!誰がするか!!!」 からかい混じりに言われた言葉に一瞬で頭に血が上って勢いよく起き上がろうとした俺の上に ギルガメッシュが素早く覆い被さってきて、あっという間に組み伏せられた。 悔しさに見下ろしてくる男の顔を睨みつけると、そのまま顔が近付いて唇を重ねられた。 すぐに離れて、至近距離でギルガメッシュが喉の奥で笑う。 「士郎。我が愛でるのは、その愚かさだ。叶わぬと知りながらなお足掻く姿。 お前は我を厭きさせぬ、安心して我の寵愛を受けていれば良い。」 高らかに宣言されて、俺は言葉を失った。 確かに一般的な人の抱く情とは異なるのだろうが、 ギルガメッシュは確かに俺に対して、何がしかの好感を抱いているということで。 その事実は、俺の心がこの男に堕ちた今も、変わらないということで。 ―――つまり、終わらない。 俺の中の何かは変わったのだとしても。 「……なんだよ、それ。」 やっと絞り出した言葉はこれだけ。 結局俺一人が無様に足掻いていただけ。 多分そういう部分も含めて、ギルガメッシュは俺を相手に愉しんでいるんだろう。 小さく笑みが零れる。 「ようやく理解したか、雑種。」 満足気に口の端を上げてギルガメッシュは俺の身体を撫でた。 身体を震わせて、俺は目を閉じる。 直ぐにギルガメッシュの唇が首筋に触れてくる。 両腕を上げて、受け入れるように圧し掛かってくる身体を抱き締めた。 終わりだと思っていた俺の『告白』は、終わりでもなんでもなく。 どうやら始まりだったらしい。 リクエストありがとうございました! 以前書いた金士の連作『貴い愚かさ』の一つの答え的な。 士郎が折れた話でした。