「おーい、嬢ちゃん〜」 「………」 「嬢ちゃん」 「…………」 「なぁ、聞こえてんだろ?」 「……………」 「……わかったわかった、坊主。これでいいんだろ?」 「……さっきから何だよ、ランサー。見てわからないか、洗い物してるんだけど。」 先ほどから執拗に俺を『嬢ちゃん』呼びしていたランサーは、背後から腰に腕をまわしてきている。 拘束されているようで邪魔で仕方が無い。あとは呼び方も気に入らないので無視していたのだが、 普段通りに呼ばれたので根負けする形で俺は相槌をうった。それでも洗い物の手は休めない。 「暇なんだよ、相手しろって。」 「新都でも行ってナンパしてくればいいじゃないか。」 「ここに惚れてる女がいるのにか?」 「………ランサーの好みって、俺みたいのじゃないだろ。」 「んー、ま、確かに胸も尻もでかい方が好みだな。」 「俺は見ての通り胸も尻も男と変わらない。」 「野郎とは違うだろ?」 その言葉の直後、腰にまわされていた片方の腕がゆっくりと俺の胸を撫でた。 流石に吃驚して洗い物の手が止まる。 気持ち膨らんだ小さな胸はランサーの手のひらにすっぽりおさまってしまう。 「ちゃんと女の胸だぜ。」 耳元でそう囁かれて、かっと頬が熱くなった。 文句を言おうとした矢先、耳元にちゅっと啄む音が響く。 「ランサー……っ!」 身体を捩って振り向いた俺はそのまま顔を固定され、唇を塞がれた。 軽く啄んだ後は深く貪るように。舌で口内を愛撫されて足が震える。 舌を吸われ、甘く噛まれて、じんと身体の奥に熱が生まれる。 敵うわけがない、ランサーはこういった事に手慣れているし 俺は正直経験不足、女扱いされるのも初めてだ。 呼吸が苦しくなって濡れた手でランサーの背中にしがみつけば、漸く唇が解放された。 ランサーの顔は至近距離のまま、気にする余裕もなく俺は新鮮な空気を貪って呼吸を整えた。 そんな俺の額に、瞼に、頬に、鼻の頭に、顎に、軽く口付けられる。 「仮に野郎だったとしても、惚れてた気がするしな。体型は今となっちゃぁ関係ねぇよ。」 俺の額にランサーは自分の額を押し当てて、覗き込むようにしてそんな台詞を吐く。 そうしてまた唇に軽く唇が押し当てられる。 初めて聞いた言葉じゃない。もう何度も言われている。 手が早そうだと思ったランサーは、実際に手が早いことは早いが 最後の一線はまだ越えずに俺の答えを待っていた。 女扱いされることも、こんな風に想いを寄せられることにも戸惑っている俺を。 そう、戸惑っているだけで、嫌ではなかった。 こうして触れられることも、口付けられることも。 一度は俺の命を奪った相手であるのに、怖れすらもう感じていない。 はぁ、と深く息を吐き出して心を静めた。 それでもまだ、自分の『女』の部分を受け入れることは出来ない。 「……わかった。わかってる。でも俺はあんたのこと、」 「あーわかったわかった、そう思いつめんな。今のところはコレで満足してるしな。」 俺の言葉に被せるようにランサーはそう言って、俺の濡れた手をとって指先に口付けた。 そして口元に笑みを浮かべる。 ランサーはこんな風に目に留めた女を問答無用に落としてきたんだろう。 否応無く惹かれる、その存在の強さに。 もう俺は抵抗らしい抵抗もできずにただ、この男に翻弄されるしかなかった。 リクエストありがとうございました! といっても、自分が書く女の子士郎は通常士郎と殆ど変わらないので、 あまり意味が無いよなーと思いつつ。体型も気持ち華奢なだけで見た目は男だし。