抱き寄せられるとすっぽりと俺はアーチャーの腕の中におさまる。 同じ男としては悔しいし羨ましいしでかなり複雑だ。 俺も同じ様にこんなに伸びるのだろうか、20cmも。 嫌がれば嫌がる程アーチャーは面白がってきつく抱き締めてくるので 抱き寄せられた時はおとなしくすることを俺は覚えた。 そうするとアーチャーは俺の背に手を添えるだけ。 そして髪に口付けられる。 いつからこんなに甘ったるいことをするようになったのだろう。 いつから俺はそれを受け入れるようになったのだろう。 生温い関係なんていらないと思っていたのに。 アーチャーの胸に顔を埋める。 厚い胸板。鼓動が聞こえる。 それに合わせるように自分の心臓も音を刻む。 「…もう、いいだろ。」 自分の中にあるモノをまだ認めたくなくて、俺は離れるようにアーチャーの胸を腕で押した。 あっさりと体は離れる。ほっとしながらもどこか名残惜しいような自分の中の矛盾に眉を寄せる。 「強情なものだ。いい加減認めてしまえばいいものを。」 く、とアーチャーが俺の耳元で小さく笑いながら低く呟く。 「なんだよ、それ。」 「ふん、此方はとっくに腹を括っているのだがね。」 その言葉に顔を上げればアーチャーは目を細め真っ直ぐに俺を見ていた。 だって、それは違うだろう? 俺はそう思っているのに、なんでおまえは違うんだ。 そう問いかけて―――、 「む、時間切れだ。」 アーチャーの声と玄関から話し声が聞こえてきたのは同時。 「士郎〜お土産持ってきたわよ〜!ってあれ、いない。」 「中庭の方でしょうか。」 「アーチャーも一緒かしらね?」 「夕食の準備は済んでいるようですが。」 おそらく居間に入ったのだろう、藤ねえと桜、遠坂、セイバーの声が順に届いた。 「先に行け。」 促されて、俺は言いたいことがあるはずだがうまく言葉が見つからないので 結局言われるままに先に居間へと向かった。 背中にアーチャーの視線を感じながら。 俺が降参するのは、まだもう少し先の話になる。 ■■■ 初めて抱き寄せたのはいつのことだったか。 その時は特に何の意図もなかった筈だ。 だが、容易く自分の腕の中におさまる士郎の姿を見たときに、何かが自分の内に生まれた。 それは過去の自分の姿であり、やはり別人で。 目にするだけで湧き上がった殺意は既に過去のもの。 今はその姿を、行き着く先を見届けたいと思う。 手を差し伸べられて、その手を取った理由はそれだけだった。 だと言うのに今は――――。 「……全く、私などを残すからだ。」 口元を歪めて静かに吐き出す。 自覚したのはいつだ。 確実に自分は、過去の自分である衛宮士郎に劣情を抱いている。 触れて、触れてしまえばもっと、と。 全て暴いて喰らい尽くしたい。 こんなに生々しい感情、生前でさえ抱いた憶えはない。 この感情が自分だけのモノならば隠し通しただろうが、そうではないと確信している。 自分とは違い、必死に抗っているようだが時間の問題だろう。 別の存在とはいえ所詮は衛宮士郎。 一度認めてしまえば向き合わずにはいられない。逃げることはない。 答えを出すまで待つつもりだ。 それでも、抱き寄せることをやめるつもりはないが。 これぐらいは劣情抜きでギリギリ許容範囲だろう。 初めこそ随分暴れたものだが今ではすっかりおとなしい。 「自業自得だ。」 早くここまで堕ちてこい、とは口には出さず内に留めて。 先に向かった士郎の後を追うように居間へと足を向けた。 出来上がる前の二人で。 すぐに認めちゃうのもいいけど、散々足掻くのもいいなーと思いつつ。 リクエストありがとうございました!