prendre son temps ゆっくり時間をかける Fate 弓士





遠い異国の地。 こうしてアーチャーと世界を巡りはじめて早数年。 やっている事といえば相変わらずの正義の味方。 人の手に負えなくなったような出来事の後始末とも言えるが、基本的な目的は出来得る限りの人を救うこと。 救うことが出来なかった人々もそれなりにいたが、自分だけだったなら、その倍以上は犠牲が出ていただろう。 すべては俺の隣にいてくれるアーチャーのおかげだ。 そんな日々の中に時折ある、中休みとでもいえるようなある晴れた日。 辿り着いた国で自分達に出来ることは全て終わって、俺とアーチャーは二人、 目的地もなくゆっくりと辺りを散策していた。 人気の無い静かな森。時折鳥の囀りが聞こえる。 こんな風にゆったりとした時間は貴重だ。沈黙の中、肩を並べて歩く。 その肩の位置は、既に殆ど同じ高さ。視線も俺が首を上向けずとも合う。 遅い成長期、アーチャーの言っていた通り、無茶な鍛練が成長を妨げていたらしい。 鍛練の内容を変えた時を境に、ゆっくりと俺の背は伸びていった。 「何を笑っている。」 ふいにアーチャーが怪訝そうに問いかけてきて、俺は自分の頬が弛んでいることに気づいた。 「いや、いつの間にか歩幅も、変わらなくなったなあって思ってさ。」 俺が答えるとアーチャーはふむと頷き、俺の姿を観察するように眺めてくる。 「……不思議なものだな。」 「何がだ?」 「成長したお前とこうして向き合っていても、自分と似ているとは全く感じないのでな。」 アーチャーは目を細めてそんな事を言う。 「俺も、似てるとは思わないよ。だからほっとしてる。」 「何故だ。」 「だって俺はアーチャーだから好きになって、こうして引き留めているんだからさ。」 俺はアーチャーに自分の気持ちを素直に告げて、傍にある手のひらに自分の手のひらを重ねた。 アーチャーは一瞬だけ目を瞠った後、諦めたように苦く笑みを浮かべる。 自分の気持ちを素直に言えるようになったのは、ここ最近だ。 ゆっくり時間をかけて、俺は自分のアーチャーに対する気持ちに答えを出した。 アーチャーもそんな俺の気持ちと同じぐらいの強さで返してくれて、今がある。 引き寄せられるように自然に唇を重ねて笑う。 正義の味方への道程はまだまだ遠いけれど、急がずにゆっくり歩んでいこう。 その果てで、自分だけではなくアーチャーも、少しでも何かを感じることが出来ればいい。 座にある本体には、分体であるアーチャーの『記録』だけしか届かないのだとしても、 その『記録』が少しでも良いものであるように、俺は願わずにはいられないのだから。 士郎にとってのアーチャーは鏡のようなもので、士郎がデレ期に入ればアーチャーもデレ期に入るよ、みたいな。 なのでツンな時にはツンで返すよ☆士郎が育つとアーチャー受けくさくなるなぁ…。 リクエストありがとうございました!