それはきっと、運命だった。 聖杯戦争の終わり。 俺は還ろうとするアーチャーを繋ぎとめた。 理由は自分でもよく解らない。ただ、還したくなかったとしか言いようがない。 そしてアーチャーが俺の申し出を受け入れた理由も知らないし、聞いてはいない。 セイバーとの契約の不完全さが嘘のように、俺とアーチャーの契約はうまくいった。 少なくとも、普通に人に紛れて生活していく分には何の問題もなかった。 それからの生活は、常に傍にアーチャーがいた。 穂群原学園を卒業し、遠坂に誘われロンドンへと渡り、そこで数年魔術の勉強をして。 その後はアーチャーと二人で世界の紛争地域を巡って『正義の味方』の真似事のようなことをして。 なんとなく自覚したのはそう、この頃からだったのかもしれない。 知らず、アーチャーを目で追っている。 視線が合うといたたまれなくなり逸らす。 近すぎる距離に、些細な接触に、心拍数が上がる。 食事をする姿に、なんともいえない感情がこみ上げる。 『衛宮士郎』と俺を呼ぶ声に、堪らなくなる。 まさか、と思った。 それは無い、と思った。 だって俺は普通に、女の子が好きだ。 アーチャーはどこからどう見たって男だ。 体格だっていい。 背だって大分追いつくことができたが高い。 だから違う。違う、筈だ。 じゃあ、この気持ちはなんなのか。 アーチャーは俺の理想の体現者だ。 剣技は確実に俺の師匠となった。 固有結界に関してもそうだ。 だから、確かに初めは、アーチャーと契約を結んだ当初は、憧れであり、負けたくない相手だった。 それがいつの間にかこんな、説明しがたい感情を―――いや、本当は、解ってる。 認めようとしなかっただけで、答えはどう考えた所で一つだ。 何年も誤魔化してきた自分のアーチャーへの想いを、そろそろ観念して吐き出すべきなのかもしれない。 その結果、関係がどうなろうとも。 数年ぶりに日本に戻ってきた。 到着したのは夜中だったので、挨拶などは翌日にまわして。 ひさしぶりの我が家。 居間の電気をつけて、アーチャーと二人腰を下ろした。 一つ吐息を零す。 そして正面にいるアーチャーの顔を、見つめた。 「……何だね、衛宮士郎。」 いつも通りのアーチャーの声。俺を呼ぶ、声。 深呼吸する。ゆっくりと一度瞬いて、そして。 「アーチャー。俺、お前が―――好きだ。」 言った。 言ってしまえば、妙に納得した。 やっぱりそうだったのだと。 散々誤魔化してきたが、言葉にしてしまえばなんて簡単な。 そして、告げたことによって腹も括れた。 アーチャーがどんな反応をするのか、見逃すことのないように、俺は真っ直ぐに目の前の男を見据えた。 アーチャーは静かに瞼を落とした。そして小さく息をもらした。 少なくとも嫌悪の色は見られない。呆れている風にも見えない。そのことにほっとした。 閉じていた瞼を開いて、アーチャーの唇が動く。 「……では、キスの一つでもしてみるかね。」 耳に届いた言葉を俺が理解するよりも早く、アーチャーは動いていた。 距離をつめて、顔が近付く。唇に吐息が当たり――――重なる。 閉じた瞼、睫毛が目の前にある。しっとりとした温み。 それはすぐに離れていった。 俺はぱちりと瞬いた。そんな俺をアーチャーは真顔で見つめている。 俺は考えた。アーチャーのこの行動が意味するところを。 そして、本当に今更だが、『マスターとサーヴァント』である自分達の関係を認識して。 「………もしかして、とっくにバレてたの、か?」 自分の顔が赤くなっているのが解る。情けなさで。思わず口元を手のひらで覆う。 アーチャーは小さく口元だけで笑った。どこか困った風に。 「気付かないのならば、それでいいと思っていたのだがな。」 要するに、筒抜けだったということだ、俺を散々悩ませていたこの感情全てが。 アーチャーはとっくに俺の気持ちに気付いていながらも、今まで知らぬふりをしていたということで。 そこで俺は、ある事実に気付いた。 俺の告白に対するアーチャーの反応、その意味。 はっきりと告げられたわけではないが、きっと間違えてはいないだろう。 だがいつから?もしかして俺よりもずっと早く?だからアーチャーは俺と契約したのだろうか。 疑問が顔に出ていたのだろう、アーチャーは静かに口を開いた。 「何らかの好意がなければ、よりにもよって衛宮士郎と契約するわけがなかろう。 ……初めから、というわけでもないがね。伝えるつもりもなかったのだが……仕方あるまい。 わざわざ言葉にした、ということは、考え直すつもりもないのだろう、貴様は。」 アーチャーはどこか苦々しく語る。その感情は本来抱いてはならないものなのだとでも言うように。 確かに、普通では無いだろう。 それでも間違いじゃない、そう強く思う俺は、アーチャーに向かって言った。 「なあ、アーチャー。聖杯戦争の時、お前言ってたよな。俺と出会い、俺を殺せる確率は物凄く低いって。 でも俺達は出会って、戦って、今はこうして一緒にいる。それってもう、運命って言っていいんじゃないか。 宿命って言い換えてもいい。だからさ、俺がお前のこと好きになったのも―――運命でいいじゃないか。」 アーチャーは目を見開いた。ぱちぱちと何度か瞬きする。 俺は笑った。そうだ、間違いだなんて言わせない。 そんな俺に何を思ったのかなんて解らない。 解らないまま、俺は言ってやる。 「それよりさ、さっきの、よく分からなかったから、もう一回してくれよ。」 距離を詰めて、間近でアーチャーの顔を見つめる。 心なしかアーチャーの頬に赤みがさしたようにも見えたが、行動に移しやすいようにすぐ目を閉じた。 戸惑う気配が伝わってきたが、程なくして俺が望むままに唇は再び重ねられた。 この後、重ねるだけのキスに痺れを切らして士郎から舌入れてみたら、ひっとか言ってアーチャー消えたり。 そして三日間屋根の上から降りてきませんでしたとさ。 ……という乙女弓×男前士郎なネタを某Nさんと話してて盛り上がったのでした☆ いい歳してこいつらちゅうだけなんだぜ。うっかり契約がうまくいっちゃったせいで。