priere 祈り、願い





槍兵のサーヴァント、ランサー。 真名はクー・フーリン。 聖杯に望んだものは、死力を尽くした闘い。 粗野で野蛮で人懐っこく、敵であろうと気に入った相手には好意を隠さない。 その反面、気に入った相手であろうとも敵であれば容赦なくその槍を向ける。 この男に関して俺が知っていることはこの程度だ。 当然だろう。あくまでも俺とランサーの関係は、紛れもない敵同士であったのだから。 それが何故か、本当に理由が判らないのだが、俺はこの男に口説かれてしまった。 いや、口説かれる前に押し倒されたような 記憶 が。 そして俺は俺でそれを本気で拒まなかった記憶 が。 その後色々あったような気はするが、まあ、うん。 結局俺も、ランサーという男を受け入れてしまっていた。 受け入れてしまえば、相手のことが気になるのは当然のことだろう。 今のランサーがどんな性格だとか、そういったことは解る気はする。 知りたいことと言えば、そう。生きている頃のランサーのこと、だ。 元々逸話など詳しいわけではないので、名前はどこかで聞いたことがあるような気がするが、 俺は『クー・フーリン』の事をよく知らない。 本人に直接聞くのが早いというのは解っていたが、なんとなく聞き辛かった。 こんな関係になる前なら気にせず聞けたのかもしれないが、今となっては照れくさいというか。 そんなわけで、逸話なら何か本が出ているだろう、そう思って俺は駅前にある書店に行った。 そこで目当ての本を見つけてざっと目を通して。 所詮逸話だ。事実と違う部分もあるだろう、それは解っていたが。 一つ、どうしても本人に確かめたいと思ってしまう部分があった。 なんとなくランサーには、そこに書いてあった事が当てはまらないような気がしたからだ。 「っ、ぅ………は、ぁ……っ」 ずるりと内部からランサーの熱の塊が引き抜かれて、俺は排泄感にぶるりと震えながら息を吐いた。 そうして布団に突っ伏す。ランサーとの性行為、気持ちがいいことは認めざるを得ないが、心底疲れるのも確かで。 ぐったり体を投げ出して呼吸を整えていると、ランサーは俺の隣に寝そべってきてその腕の中に抱き込まれた。 まるで抱き枕にでもなったかのようだ、と思う。 「もうちっと体力つけろや、坊主。」 笑いを滲ませてランサーが俺の背を撫でる。 反論する気力もなく、俺は恨めしげな視線を投げるだけにした。 どうやら今日はこれで終わってくれるらしい。 このまま眠ってしまいたい誘惑に一瞬負けそうになったが、ふと、ランサーに聞きたいことがあったのを思い出した。 思い出してしまうと妙に気になって、俺は聞いてみることにした。 「なあ、ランサー。」 「ん?何だ。」 「ランサーは輪廻転生って信じてたりするのか?」 「輪廻転生……?いきなり何の話だ。」 「う。」 深くつっこまれて思わず口ごもる。だが誤魔化すのも変な気がして、俺は正直に話した。 「本に書いてあったんだよ。ランサーの時代の人間は輪廻転生を信じていて、だから戦いで命を落とすことも恐れなかったって。」 それを聞いてランサーはへぇと呟き俺の真意を探るように目を眇める。 やっぱり聞くんじゃなかったか、そう思い始めた頃、漸くランサーは口を開いた。 「そういう奴らが多かったのは確かだな。だがオレは別にそんな考えなんざ持ってた覚えはねぇが。」 その言葉は、俺が思った通りのものだった。だから俺は納得して、そうかと軽く相槌を打つ。 ランサーは小さく笑うと続けて言った。 「ま、オレはこの通り英霊になっちまったし、生まれ変わるっつう輪廻転生とやらとも、もう縁がねぇってことだな。」 ふと、俺は考える。 英霊、それは時間軸から外れた座に魂が囚われるということ。 つまり、こうしてランサーと共にいるという今は、とんでもない奇跡の上に成り立っている、ということかもしれない。 ランサーは輪廻転生から切り離されている。つまり、同じ時代に俺とランサーが生きる可能性はゼロってことだ。 だが、元々俺はそんなものを望んでいるわけじゃない、と思う。 俺の生まれ変わりなんて、きっと俺とは違う。それは相手にも言えることで。 だから厳密に言えば、こうして俺に惚れたなんてことを言うランサーも、ここにいるランサーだけで、座に存在する本体とは別物のはずだ。 それでも、ランサーが還った後、この男と再び会いたいと願うなら、この男と同じ果てに俺も――― 「止めとけ。」 「……え?」 ふいにそう声をかけられ、俺は顔を上げてランサーと視線を合わせる。 ランサーの表情は真剣そのものだった。 「何を考えてんのかは知らねぇが、止めとけ。」 「………なんだよ、それ。」 「さあな。一つ言えるのは、オレは今ここにいる坊主に惚れてるってことだけだ。」 「―――っ」 「もともとオレは既に死んだ存在だ。それがこうして言葉を交わして、惚れた坊主を抱くことだって出来る。  ……それで十分だって言ってんだよ。もし、坊主が死んだ先にオレと出会うことがあったとしても、  それは今とはまた違う関係だろうさ。」 「ラン、サー………?」 もしかして見えているのだろうか、俺が目指すものを。わからない。 そもそも願ったところでそうそう叶う筈も無いことだろうが、この男と同じ果てなど。 俺がはっきりわかったことは、ランサーは『今』を大事にしている、ということだろうか。 確かに『今』は大事だと思う。だが、『先』を思うことだって必要な筈だ。 だから俺は願う。それは祈りとも似ているのかもしれない。 『今』だけではなくこの先―――遥か果てでも再び会いたいと、この男に並びたいと。 「……ったく、言っても無駄って奴か。ま、いいさ。未練が残る生き方だけはすんなよ。」 それがまぁオレの願いだ、そう、少し呆れた風に、だが笑ってランサーは俺に告げて唇を重ねてきた。 目を閉じて素直にそれを受ける。口を開き舌を迎え入れて、絡める。 口説かれた時には考えもしなかった。こんなにランサーのことを想うようになるなんて。 『先』などない関係。男同士という以前の問題で、相手は英霊――人間じゃ、ない。 それでも、俺は応えてしまった。ランサーの真っ直ぐすぎる感情に惹かれて。 輪廻転生、そんなものを望んでいるわけじゃない、そう思っていたけど。 似たようなものなのかもしれない。 遥か果てで、英霊であるランサーと、どんな形であれ、どんな関係であれ、もう一度出会うことを望むということは。 スイッチが入ってしまったのか、いつの間にか俺はランサーに組み敷かれていた。 まだ濡れて柔らかい後孔を熱で貫かれる。 息を詰めて、すぐにゆっくり吐き出してそれを受け入れて。 『先』を思うことをやめて、『今』を思うことにする。 俺はランサーの背中に腕を回して縋りついた。 リクエストありがとうございました! なんか微妙に難産でした。うーん、書きたいことが迷走したような……? 結局一度還ってしまえば次にどんな形であれ、出会うランサーはまた別人というか、 士郎も果てに辿り着いてしまえばきっと、今の士郎とは別人かもしれないし。 ランサーとしては真っ当に生きて真っ当に死んでほしい、みたいな。人間として。 ……難しかったです。 輪廻転生のくだりは、とある資料にそういうことが書いてあって、ランサーにはあんまり 当てはまらなさそうだなーと思ったので。