「お願い…置いていかないで」 Fate 言峰士郎





ひんやりとした肌寒さに目が覚める。 三月に入って大分暖かくなったと思えば、ここ数日は雨が降り続きすっかり冬に逆戻りしたかのようだ。 身体を起こして服を着替える。長年身につけすっかり着慣れた神父服。 クロスを首から提げて眼鏡をかけて部屋を出る。 顔を冷水で洗って礼拝堂へ。信じてもいない神に祈りを捧げて、軽く掃除してから朝食を用意する。 一人分だけつくることにも慣れた。 手を合わせてから、食事をとる。 確かに慣れたけれど、淋しいという感情は胸に渦巻いたままだ。 一人は淋しい。一人になることで、今はもういなくなった存在がどれだけ自分にとって大きかったのかを思い知った。 人としての何かが大きく欠落した義理の父。 傲慢な人ならざる者、英雄王。 言峰士郎という人間を形作った存在の消失。 別れは必然だった。自分の我を通す為に彼らと敵対したのは自分自身だったのだから。 ふ、と自嘲気味に笑みを零して食事を終了する。 片付けて自室に戻りベッドに倒れ込んだ。目を閉じる。 今更思っても遅い。 『お願い…置いていかないで』なんてドラマに出てくるような陳腐な懇願。 そんなことを言える立場ではない。それでも全くそんな感情を抱いていない、と否定することもできない。 こうしてやりきれない想いを抱えている以上。 だが、遅かれ早かれいずれ彼らは自分を置いて逝っただろうと思う。 なら自分の手で引導を渡せたのは喜ぶべきことだ。 そう思うのも、もう何度目になるのか。 早く暖かくなってほしい。寒い朝は淋しくなる。 「綺礼……ギルガメッシュ……。」 忘れないように呟く名前。こんなに自分が女々しいとは思わなかった。 今はもう、この身に触れた手のひらの温度も遠い。 耳に届く、雨の音。 この雨が止めば、きっと春がくる。 もうすぐそこに。 言峰士郎、自分の手で二人に引導を渡したよEND。 誰も残ってません。死者は死者としてあるべき場所へと還りました。 春が訪れる前の雨ってなんか寂しいよねとか。