いい人だと思っていた自分の馬鹿さ加減に、吐き気がする。 竜ヶ峰帝人は他人のベッドの上で気だるい身体を横たえたまま、荒い呼吸を鎮めていた。 簡潔に言えば、いい人だと信じきっていた折原臨也に騙され薬を盛られて強姦された。 それだけ。 時間をかけて準備されて、突っ込まれて散々喘がされた。 そう、確かに自分は、その行為に酷く感じていた。 その事実が物凄く気持ちが悪い。 『いやだやめて臨也さんやだいやだいやだいやだ』 そんなことしか言えなくなった帝人に、臨也は愉しげに笑って、 『でも、凄く気持ちよさそうだよ、帝人君。ああ、君に使った薬に媚薬成分なんてものは 欠片も入っていないからね、だから俺に犯されて喘いでいるのはちゃんと君自身なんだよ』 そう言って。 絶望の色に染まった帝人の顔を満足そうに眺めながら、臨也は何度も帝人の内部を突き上げた。 縛られていた両手はもう解放されている。 帝人は赤くなった手首をぼんやりと見つめた。 絶望したのは、臨也の行為に女の子みたいに啼いて喘いだ自分の身体に、だ。 臨也に裏切られたとは思わない。臨也は出会った当初からきっと何も変わっていない。 ならば信頼関係なんてものがそもそも無かったのにも関わらず、その方が自分にとって都合が良かったから、 折原臨也がいい人だと思い込んだ自分に責任はある。 友人である紀田正臣の言葉がふいに脳裏に浮かんだ。 臨也と出会ってしまった時から正臣は、帝人に忠告してくれていた。関わるなと。 そのことを今になって思い出すなんて。 はあと溜息を零す。喉が痛い。からからに渇いている。 身体がべたべたして気持ちが悪い。気持ち悪いきもちわるいきもちわるい――――― 「気分はどう?」 聞きたくない声が帝人の耳に届く。 無視してもよかったが、声の主が伸ばした指が帝人の髪を撫でて、仕方なく視線を上げると、 ベッドに腰掛けた臨也の姿が目に映った。 「……さいあく、です。」 「そう。」 「きもちわるいです。」 「うん。」 「不快です。」 「それから?」 問いかけに対する答えをありのままに零す帝人に、臨也は楽しげに頷き、先を促す。 帝人の目には何の感情も込められてはいなかった。 あえて言うならそれは、路傍の石を見るような目。 あの日出会って今こんなことになっているのはきっと―――― 「それもこれも全て決まっていた事 ……なんですね。」 誰にともなく呟いた帝人の声。 それには答えず、ただ、臨也は笑う。 愉しくて、可笑しくて、笑う。 『ああ、俺の可愛いトリックスター…!』 帝人の見せた絶望が自分に対してのものではないことを、臨也は理解していた。 底知れぬ何かを内包する竜ヶ峰帝人という人間は、まだこれからも臨也を楽しませてくれるだろうという確信。 もっと脆く崩れるものと思っていた。だからこそ臨也は歓喜する。 そうでなくては面白くない。 「帝人君、俺が憎いかい?」 「どうでもいいです。」 「俺は君のことが、とても好きだよ。」 「どうでもいいです。」 淡々と、本当にどうでもよくて自動人形のように返事をする帝人の旋毛に、臨也は口付けをひとつ落とした。 小説の続きが出る前に妄想を吐き出す。 この後も特に帝人は変わらず。情報屋としての臨也は必要なので。 そのうち痛い目に合うんじゃないかな臨也。