「想いってのは有限なんだよ」 Fate 弓士・讐





「想いってのは有限なんだよ」 そう言って、俺と同じ顔をした悪魔が笑う。 その言葉に、俺は否定も肯定も出来なかった。 だからじっとその悪魔の目を見据えた。続きを促すように。 「だってそうだろ?想いってのは生きてるニンゲンの特権だ。死んじまったらオワリ。  その先にナニかが続いていようとソレはもう生きてた頃のソイツとは別物だ。そーいうもんだ。」 悪魔は一方的に喋る。 俺はただ黙って聞いていた。 そしてふと、かの弓兵の存在が脳裏を過ぎった。 ああ確かに、あいつは俺とは別の衛宮士郎だから、あいつが人間だったころ俺と全く同じかどうかは分からないけど、 でも今のあいつはもう衛宮士郎じゃない。そういうことなんだろう。 人間だった頃の想いは、人間である時だけのもの。 死してなお存在できたとしても、その想いを全く同じ状態で維持することはできないだろう。 断片的になったり、欠落したり、摩耗したり。 勿論そんなことは実際に死んでみなければ解らないが。 悪魔は笑う。俺と同じ顔の、俺が反転した存在。 アンリマユが笑う。愉しそうに。 「だから、生きてる間に、言いたいこと言っとけよ。死んじまってからじゃ遅いんだぜ、エミヤシロウ?」 背中を押された気がして――――――目が覚めた。 夢だとは解っていたから、俺は起き上がりそっと苦笑する。 あの悪魔が本人なのか、それとも単に自分の一面なのか、本当のところはわからない。 わからないのは別に構わない。 俺の殻を被ったアンリマユは確かにいた。その事実があるだけでいい。 「言いたいこと、か。」 折角背中を押されたのだから、この際素直になってみるのもいいかもしれない。 俺のサーヴァントとして現界してくれている弓兵。 顔を合わせれば喧嘩腰にしか会話が出来ない。 どちらも折れないのだから仕方がない。 なら、俺が折れてみようか。あと、伝えてみようか。 あの男に対して抱く想い、変化したその気持ちを。 「……そうだな。有限なんだったら、あまりゆっくりはしてられないよな。」 未熟な自分がいつまであの男を留めていられるのかも、わからないんだから。 服を着替えて居間に向かう。 台所に足を踏み入れれば、既にそこには男が一人。 「おはよう、アーチャー。」 朝の挨拶をすれば、アーチャーは目を向けてきて、おはようと律儀に挨拶を返してくる。 どうやら朝食の準備は終わってしまったようで、美味しそうな匂いが漂っていた。 いつもなら朝、顔を合わせた途端に色々言い争いをしてしまうのだが、今日はそれが無い。 何故かと言われれば、俺が喧嘩腰ではないからで。 アーチャーはいつもと様子が違う俺を少し訝しむような目で見てくるのに、俺は小さく笑ってみせた。 さあ、いつ、言おうか。 アンリは士郎の中で生きているんだよ的な。 そして背中を押してくれるんだよ。蹴りつける勢いで。 弓士の二人がじれったくて。