「その顔に弱いんだ」 Fate 弓士





肩を並べて歩く。 ただそれだけのことに幸せを感じる自分に、士郎は隣を歩く男には気付かれないようにそっと笑みを零す。 身長は随分伸びた。完全に届いたわけではないが、それでも肩を並べられるぐらいには。 近付いた視線。歩幅も同じくらい。 追いついていないものは、あとはもう――― (……殺した人の数だけ、か。) 技量なども勿論まだまだ追いつけないが、その点は自分の努力次第でどうにでもなる問題だ。 だから、その一点がきっと、自分と隣を歩く男、アーチャーとの決定的な差になるのだと思う。 アーチャーはそれを良しとするだろうし、士郎もそれでいいと思う。 原点は同じでも、別の存在として、士郎はアーチャーの隣にいたいと思う。 何とはなしにぼんやりとそんなことを考えながら歩いていたら、 「あ、」 「む、」 互いの指先が触れ合った。 ほんの僅かな接触。だが、その一瞬に感じた熱に、何故か士郎の心臓はどくんと跳ねた。 気持ちだけ顔を上向けて士郎はアーチャーの顔を見る。 視線がぶつかった。 アーチャーも同じように士郎を見つめていた。 暫く、長いような短いような、奇妙な時間が流れた後。 「――ふ」 「――ハ」 二人同時に小さく笑う。 笑って、士郎はアーチャーの指先に自分の指先を絡めた。 アーチャーはその指先を受け入れて、しっかりと握り返す。 腕が、肩が触れ合う。 言葉は必要ない。手の温もりが互いの全て。 泣き出したいような幸せ、というのだろうか。 士郎は目を閉じてアーチャーと歩く。 自然と口元は綻ぶ。 「……その顔に弱いんだ。」 ぽつりと呟かれた、低く落ち着いたアーチャーの声。 その声に答えるように士郎は繋いだ手に軽く力を込めた。 いい歳したでかい二人が、手を繋ぐこと一つにもだもだしてると可愛いよねって。