「誰かこの気持ちを止めて」 デュラララ!! 静雄と臨也と新羅





ぼんやりと動かない男の身体を見下ろす。 いつも通りの池袋の日常。ノミ蟲こと折原臨也に出会ってしまった平和島静雄は、 いつも通りに臨也目掛けて、目に付いた何かを引きちぎり、振り回し、投げつけ、 逃げる獲物を追いかけ路地裏で追い詰め、振りぬいた標識に手ごたえを感じ、 吹き飛んだソレは壁にぶつかり、ずるずると落ちて動かなくなった。 そこで漸く静雄は落ち着いた。 距離はまだ離れている。 ポケットからライターと煙草を取り出し一本口にくわえ火をつけて煙を肺に深く吸い込んで吐き出す。 ゆっくりと暫く煙草を堪能して、短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた。 そして未だぴくりとも動かない男へと歩み寄った。 死んだか、特に何の感情もなく思いながら身を屈めて手を伸ばし、胸倉を掴んで引き上げた。 臨也の足は地面から浮いて、がくんと頭が後ろへと傾ぎ白い喉が静雄の目の前に露わになる。 空いている手でその首を掴めばまだ温かく、どくどくと血の流れる音。 ほんの少し力を込めるだけで、目の前の男の命を奪えることを、静雄は理解していた。 だが、そうしなかった。 興味を失ったという風に静雄は臨也の身体から手を離し、その場に投げ捨てる。 そうしてあっさり背を向けてそこから立ち去った。 立ち去り際に携帯電話を取り出して、腐れ縁の闇医者を呼び出し用件を一方的に告げて相手の返答を聞かずに通話を切った。 ふと、思ってしまっただけだ。 自分が人殺しになったら弟に迷惑をかけるな、とか。 会社にも迷惑がかかるな、とか。 頭に血が上っている状態ならばそんなことを考えもしないうちに、あの男を殺してしまえるのだろうが。 「…ちっ」 苛立たしげに舌を打ちながら静雄は歩く。 止められるものなら、誰かこの気持ちを止めろ、と。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「おーい臨也、生きてる?」 呑気な声が耳に届いて、臨也は重い瞼をゆっくりと上げた。 頭がずきずきと痛む。眉を寄せながらも視界に映った馴染みの顔―――傍で身を屈めて自分を覗き込んでいた 岸谷新羅へと口端を上げて笑って見せた。 「お陰様で、生きてるよ。」 答えて軋む身体を起こし、壁に手をつきながら立ち上がった。 「ここじゃ応急処置しか出来ないけど、その様子なら大丈夫そうだね。  全身打撲。目立った外傷は無し。ああ、頭にこぶがあったから、心配なら検査を受けた方がいいよ。」 新羅はそう言って道具を鞄に片付けて同じように立ち上がる。 「偶然通りかかった…ってわけじゃなさそうだし、もしかしてシズちゃんが呼んだ?」 既に姿形もない、臨也にとっての仇敵の仕業かと問えば、新羅はあっさり頷いて、 「とりあえずまだ死んでないから一応報告してやる、あとは好きにしろって一方的に言ってここの場所告げて、  こっちの反応も待たずに電話を切られたよ。でも少し意外だったかなあ。君に対しても人並みの気遣いをするなんてね。」 そうして軽く肩をすくめて笑う。 臨也は苦々しく口元を歪めて笑い、甘いなあと呟いた。 確かにその甘さ故に自分は命拾いしたわけだが、そこに感謝の念など一切無い。 抱くはずがない。全く化け物のくせして何時まで人間というものにしがみついているんだか。 臨也は一つ溜息を落とした後、新羅に礼を告げじゃあねと軽く手を振ってその場を立ち去った。 その背中に新羅は呆れたように声をかける。 長年二人のやりとりを間近で見てきたからこそ言える言葉を。 「君達は、万代不易だね。」 万代不易:永久に変わらない様子 1巻前かな。 自分の願望ですが、シズちゃんに人殺しにはなってほしくないなぁとか。 まあ五巻でマジに覚悟しちゃったけどね!弟が哀しむよ! うんまあ臨也は死んでも仕方ないと思うよホント。酷いよなーあいつ。 糖分100%な御題の筈なのにちっとも甘くない話でした。 この気持ち(憎しみ)を止めて、みたいな。負の感情ってしんどいよねーとか。