※セイバー=英霊となった士郎(弓ではない) ああ、なんでこんな気持ち、抱いてしまったんだろう。 聖杯戦争という魔術師の闘争に巻き込まれた俺、衛宮士郎は、 意図せずサーヴァント・セイバーを召喚した。 マスター権を放棄することも出来たが、自らの意思で俺はこの闘争を終わらせる為に戦うことを決めた。 マスターとして選ばれたこと。サーヴァントとしてこの男が召喚されたこと。 それらが偶然だったのか、それとも運命だったのか、それはわからない。 ただ俺は、この男と数々の戦いを潜り抜けるうちに、10年前に自分自身が忘れ去っていたコトを、 とある感情を、思い出してしまった。 10年前の大火災で、俺は衛宮切嗣に救われて、衛宮士郎の名と、男としての生き方を得た。 そう。俺の性別は女で。 すっかり忘れた筈だった感情を、このセイバーというサーヴァントである男に対して、抱いてしまった。 胸が締め付けられるような、切なさ、温かさ。 その感情の名前は、きっと言うべきじゃない。 自分とどこかが似た男。性別が同じなら同一とも言えるだろう。 見せる笑顔には哀しさが混じり、振るう剣には迷い無く。 男として生きてきた俺は、男同士として接したいのに、セイバーは俺を本来の女としてみて接してきて。 何度も喧嘩した。実際には俺が一方的に怒っているだけだったが。 セイバーは困ったように笑って俺の頭を撫でる。 その姿が、切嗣と重なることもあった。 だけど、違う。 この気持ちは、切嗣に対する気持ちとは全く別のものだと気付いたのは、いつだったか。 きっと、明日の夜明けには決着がつく、そんな前夜。 決着と別れは同意だ。ならばと俺は一つ心に決めて、セイバーを自室に呼んだ。 「どうした、マスター。」 セイバーはやわらかく微笑んで俺に問いかける。 俺は深呼吸して、セイバーに告げた。 「セイバー、俺を、抱いてくれ。」 セイバーの表情は変わらない。ただ冷静に、理由は、と訊いてきた。 「明日で最後の戦いになる。俺は未熟なマスターだけど、未熟なりに最善を尽くす義務がある。 俺にできるのは、おまえに魔力を提供することだけだ。 パスが不完全でも、……性交渉による快楽の同調で、魔力を渡せる。そう、遠坂から聞いたから。」 俺は用意していた言葉を告げた。あくまでマスターとして。 自分の本心は押し殺して。 本当は、ただ、思い出が―――身体に残る思い出が欲しかっただけ、なんて、言っちゃいけない。 セイバーは暫く無言で、真っ直ぐに俺を見つめた後、目を閉じて、やわらかくわらう。 俺の両頬に手のひらをあてて、俺の顔を包み込んで、 「わかった。そういうことに、しておく。」 息がかかる距離で、そっと囁いてきた。 顔が火照る。考えるまでもない。俺の気持ちなど、もしかしなくても筒抜けなんだろう。 目尻に涙が滲みそうで、必死に我慢しながら強くセイバーを見上げて、 「………っ、ばか」 そう悪態をつくことしか出来ない俺の唇に、優しくセイバーの唇が重なった。 そうして一夜かぎりの夢は通り過ぎ―――。 最後の戦いに臨み―――俺達は、勝利した。 呪われた聖杯にかける望みなどなく、セイバーの力で聖杯は破壊され、 聖杯戦争は終わりを告げる。 朝焼けに滲む、澄んだ大気の中。 俺とセイバーは対峙する。 「…ありがとう、セイバー。おまえと出逢えて良かった。」 最後の時は笑顔で。ずっとそう決めていたから、俺は傷だらけの身体でしっかりと立ってセイバーに礼を告げる。 「……俺も、おまえと出逢えて良かったよ、マスター。………士郎。」 セイバーも傷だらけの身体で、そう言って笑う。 身体を重ねたことで、セイバーの正体をはっきりと確信した。 それでも、この気持ちを抱いたことを、後悔なんてしない。 「セイバー、俺はおまえを、愛してる。」 告げる。衛宮士郎の最初で最後の恋心。 その気持ちは間違いなんかじゃない。だから胸を張って。 セイバーは目を細めて、参ったと呟く。 「うん、知ってる。」 そんなことを言ってから、俺の目を見て、 「先に言うべきだったな。………士郎、俺もおまえを、愛しているよ。」 その言葉を最後に、セイバーの姿は光となって、永遠に失われた。 顔を上げて空を見つめる。 遥か彼方、きっと俺もそこに辿り着くから。 その日まで、俺はまた、衛宮士郎として生きていこう。 その決意は、抱いた想いへの決別でもあった。 ヲトメ心にサヨナラを。 はじめに。 いただいたリクエストは、白弓×士郎子ということでしたが、 白弓は、絵は描いても文は書かないことにしていますので、 こんな形で書かせていただきました。書かないのは自分の気持ち的な問題です。 士郎の未来の形、英霊となった士郎、白弓も私の中ではこんな感じなので大差ないですが。 あと、詳細は何も考えずに書いてます。考えるな、感じろ。そんな設定…すんません。 リクエストありがとうございました!