ホ―本当に愛していた、と Fate 言士





柳洞寺地下。 地響きは酷く、直に崩壊するであろう、そんな空間で、 一つの戦いが終わった。 「――――は、 あ、……っ、ァ……」 苦しげな吐息が男の耳に届く。 体内を剣に侵された少年の身体に、男の硬い拳がめり込んでいた。 その拳は少年―衛宮士郎の身体から生える剣を砕き、心臓を、破壊した。 「――ぁ、こと みね…」 呆然と、何が起こったのか判らない、というような、そんな声で士郎は男の名を呟く。 呼ばれた男―言峰綺礼は、その瞬間、自身の内に確かな想いが広がっていくのを感じた。 仇敵である衛宮切嗣の息子。 切嗣の後を継ぐことは無く、自分にとって意味をなさなくなった筈の少年。 そうなって初めて気付いた、自分と衛宮士郎は、同じであることを。 その少年の命を、自らの手で摘み取った。 「…どうやら、私の勝ちのようだな、衛宮士郎……」 綺礼は笑う。 既に脈打つ心臓は無く、それでも胸は高鳴った。 本当に愛していた、と。 謳うように囁く。 途切れてはならない意識が薄れていく中、士郎は歓喜に包まれた男を目に焼き付けて、 「……はは…」 もうどうにもならない結末に、ただ小さく笑った。 仕方がないなと、思ってしまった。 自分の身体は保たなかった。 何よりも―――少女のことだけを考えなくてはならなかったのに、よりにもよって目の前の男を、 言峰綺礼のことを、好きだと思ってしまった、きっとその結果なのだ、これは。 だからこの結末は、自分が望んだもの。 最後の力を振り絞って、士郎は自分の胸を貫く綺礼の手に触れる。 綺礼は身をよせて、士郎の後頭部を掴み顔を上向かせて、その唇を自らのもので塞いだ。 それが、士郎が認識できた最期。 力を失った少年の身体を貫いたまま、綺礼は大聖杯から生まれようとするモノ――アンリ・マユを見つめた。 まるで、自分と少年との間に生まれ出る子のようだと。 心からの祝福を。 綺礼は士郎を抱き寄せ、自らも命の終わりを悟りながら、誕生する子供を見届けるまではとその刻を待つ。 生まれて初めて、言峰綺礼は穏やかな気持ちで微笑んだ。 HF言士両思いEND(酷い)