「坊主〜」 庭先から聞こえる声にそちらを向けば、そこには不法侵入者がいた。 「ランサー、ちゃんと玄関から入ってこいよ。」 「細けえこと気にすんなって。それより今日暇か?暇だよな?」 俺の苦言をさらりとかわして不法侵入者―ランサーは問いかけてくる。 「暇……っていうか、特に予定は入ってないけど。」 「ならちっと付き合えよ。」 答えた俺へのランサーの提案に眉を寄せる。 「昨日も付き合っただろ。ぶらぶら歩いただけだったけど。」 「いいじゃねえか。それとも嫌なのか?」 「嫌ってわけじゃ、ないけどさ。」 俺を誘う理由がよく解らなくて口を濁す。 言葉通り、別に嫌なわけじゃないが、いつもはナンパや釣りなどをして楽しんでいる ランサーがどういうつもりだろうか。 「そうだな、なんなら買出しに付き合ってもいいぜ。」 そのランサーの言葉に俺の些細な疑問は吹き飛んだ。 「荷物持ちとして期待していいのか?」 そう聞くと、ランサーは構わねえよと軽く請け負う。 断る理由なんか無い。 「じゃあ用意してくるから、玄関の方にまわっててくれ。」 「了解。」 そんなわけで、今日はランサーと買出しに出ることになった。 「しかし遠慮なく買ったもんだな。」 帰り道。ランサーが溜息混じりに呟く。 俺もランサーも大量の戦利品が入った袋を両手一杯にぶら下げている。 「助かったよ、ありがとうランサー。」 俺は上機嫌でランサーに礼を告げる。 「大半が食いもんってのが怖ろしい話だな。」 「はは…」 ランサーが指摘する通り、買い物袋の中身は食料品でほぼ占められている。 主に誰の為のものかは、言うまでもない。 「なあ、ランサー。」 「ん?」 「本当に、急にどうしたんだ?」 家までの道中、俺は聞いた。 なんでこんな風に俺と一緒に過ごそうとするのか。 「あー、なんだ、こんな状況いつまでも続くわけねえだろ? そう思ったらな、坊主とも悔いのないように今のうちに付き合っとこうと。」 そのランサーの言葉に俺の心臓が跳ねた。 解りきっていること。 説明のつかない奇跡で現界しているサーヴァント達。 明日にはみんな消えているかもしれない、そんな日々。 考えないようにしていたことを突きつけられて、俺は思わず足を止めた。 ランサーも気付いて、俺より少し先に行った所で振り返る。 「どした。」 「あ、うん………そうだよなって、思って。」 口ごもる俺をどうしたものかというような、少し困った表情でランサーが見ていた。 「…オレは知っての通り既に死んだ存在だ。厳密に言えばオレの時はもう止まっちまってる。 だが、こうして喚ばれれば、生きてる人間みたいに時が流れる。 出会いがあって別れがある。別れは惜しい気にはなるが、そういう変化があるってのは良いことだと思うぜ。 だからお前も、そうしけた顔せず楽しめ。折角一緒にいんだから、笑えって。」 ランサーはそう言って笑う。 時は止まらないからこそ、価値があるんだとランサーは言う。 考えるまでもなく、当たり前の話だ。 「…あんたが妙なこと言うからじゃないか。」 結局それだけ口にして、俺はランサーを睨む。 「寂しい、とでも思ったか?」 「悪いか。」 「悪かねえよ。むしろ付きまとった甲斐がある。」 「言ってろ。」 そうやって話しているうちに、俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。 俺は、ただ覚えていよう。 止まらない時を偲ぶのは、こいつがいなくなってからでいい。 肩を並べて歩ける今を、大事にしよう、と。 ランサーはどこまでも前を向いてるイメージなので、 やっぱり偲ぶのは士郎に。 リクエストありがとうございました!