俺の、『衛宮士郎』の投影は、『剣』に特化している。 英霊となった未来の自分であるアーチャーなら可能かもしれないが、 少なくとも、未熟者である俺が挑むべきモノでは無かった。 「――――ぁ、っ、」 失敗した。身体を巡る魔術回路が焼ききれたような、そんな感覚。 何故こんなことをしてしまったのか。 理由は簡単だ。他ならぬ『彼』の宝具。挑んでみたかったのだ。 自分につくりだせるかどうか。 武器だから、まだ可能だと思った。 自分の心臓を貫いた槍。身体がソレを覚えている。 身体に残った記憶を辿って、あの槍を理解しようとした。 「は……っ、げほっ」 いつもの土蔵。邸には誰もいない。 それを好都合だと思って、無茶をやった結果がこれだ。 (ちょっと……まずい、な) みんなが戻ってくるまでに少しは回復しておきたい。 こってり絞られるだろうが、それは自業自得だから仕方がない。 叱る、怒る、より先に呆れられそうだなと小さく笑った。 その時、何者かが土蔵内に入り込んでくるのを感じた。 良く知る気配、それは――――。 「な、にやってんだ、馬鹿が……っ!!!」 殺気に良く似た怒気が言葉と共にぶつけられる。 すぐに蹲っていた俺の傍に来て、身体に手を当ててくる。 あたたかいものが、全身に巡っていく。 動かなかった手が動く。 癒しの術もつかえるのか、器用だなぁ。そんなことをぼんやり思った。 「たす、かった…ランサー。」 なんとか礼を告げた俺に、ランサーは安堵の吐息をもらした後、 ごちん、と音を立てて、拳骨で俺の頭を殴ってきた。 「―――っ!!」 声にならない声を上げて頭を抱える俺を、呆れた顔でランサーが見ている。 ある程度、俺がやったことを察しているようだ。 ……まあ、周りに槍の出来損ないが散らばっているので当然ともいえるが。 「…これ、オレの槍だよな。」 「……無理だった。」 聞かれて素直に頷き肩をすくめた俺を、ランサーは眉を寄せて見ている。 「――――ま、過ぎたことだ。オレが口出すことでもなさそうだしな。」 ランサーはそう言うと、表情を弛めていつもの調子に戻る。 少しだけほっとした俺は、 「…なんか、『お父さん』に叱られたみたいだ。」 無意識にそんなことを呟いていた。 「『お父さん』ねえ……確かにオレにも『息子』はいたが。」 ランサーは苦笑している。 「親に叱られた記憶って、あまり無いからさ。」 新鮮で、嬉しかったと小声で俺は呟く。 「ったく、もうこういう無茶すんなよ。」 そう言って、今度は俺の頭を撫でてきたランサーに、 少しだけ、重なるところなんて殆どないのに、切嗣のことを思い出して、眼の奥が熱くなった。 やはりというか、なかなか難しいお題でございました。 リクエストありがとうございました!