それは嘗て見たことのある夢だった。 聖杯戦争。衛宮切嗣の隣に立つ自分。 そんな夢を見たことが何度かあった。 イリヤから第四次聖杯戦争での切嗣の話を聞いて。 それはイリヤ自身の記憶ではなく、切嗣の妻だったアイリスフィールの記憶だったが。 自分が知る切嗣の姿とは全く違う顔を知って。 歴史を変えたいなどと思ったわけではない。 それは純粋な夢だった。憧れのようなものだった。 切嗣と共に戦ってみたいと。切嗣を、助けたいと。 紆余曲折を経て、自分は英霊になった。 その時ようやく、以前自分が巻き込まれた聖杯戦争でのアーチャーの正体を知ることになり、 同名ではあるが彼とは異なる英霊として、自分は存在している。 それは、ただの夢の筈――――だった。 可能性として考えられること。 触媒である鞘。 本来の所有者である彼女は、もう聖杯を望むことは無い。 その鞘を、数年間抱いていた者として、自分が喚ばれた。 或いは、切嗣自身が触媒であった場合、切嗣との関係が深い故に。 最後に、聖杯そのものへの望みが無くとも、聖杯に関わる闘争などへの、ある種の願いがあった場合。 少し考えてみるだけでも、思い当たる原因は確かにあった。 だが。 なんでさ、と胸中で呟くしかなかった。 目の前には男と女。 自分の恩人である男―衛宮切嗣と、イリヤとよく似た女性―きっと彼女がアイリスフィール。 二人はこちらを訝しげに見ている。 見るからに騎士らしくはないと自分でも思うのだから、仕方がない。 事実、騎士などではないのだ。 「…確認する。お前は……アーサー王か?」 切嗣の低い誰何の声に、俺は肩を軽くすくめた後、形ばかりの名乗りをあげることにした。 「サーヴァント・セイバー。召喚に応じ、参上した。……残念なことに、俺は騎士王じゃないんだ。」 そうして俺――摩耗していない方の英霊エミヤは、衛宮切嗣のサーヴァントとして、 第四次聖杯戦争に参戦することとなった。 なんちゃって。続かない。 果たしてこの二人で第四次聖杯戦争を勝ち抜けるのか!? 剣ルートを辿った士郎さんの成れの果てです。 士郎の方が召喚された理由は、摩耗していない分切嗣との繋がりが摩耗した方よりも強いから。 真名だけは告げずに(未来の英霊だという説明はする)自分の能力を洗いざらい切嗣には話します。 それなりに切嗣とは信頼関係築きつつ。極力切嗣の道具であることに徹したら、うまくいくのではないかと。 数々の戦いを経て、綺麗ごとだけではどうしようもないということを既に理解しているので。