からからから。 小さな地球が回る。 そこに指を当てると自分から動かさなくてもくるりと一周する。 「何をしている。」 その様子をアーチャーが目に留めて問いかけてきた。 問われた士郎は、 「土蔵に置いてあったんだ。」 そう答えて指に力をこめる。 地球儀の回転はゆっくりと止まった。 少し古い地球儀。一部の国名が昔のまま。 「なあ、聞かせろよ。今までどの国に行ったんだ?」 覚えてないか?士郎は世間話のようにアーチャーに聞いた。 重い話にしかならないだろうことは承知の上で、あえて軽く。 いつか自分も、行くことになるかもしれない国。 アーチャーは口元に手をあて、暫し思案した後、どかりと士郎の横に腰をおろして地球儀と向き合った。 褐色のごつごつとした指先が地球儀を辿る。 その指が示した国々は、今でもあまり良い話は聞かないような所ばかりで。 「偏ってるな。」 士郎が言えば、 「別に遊びで行ったわけではないからな。」 アーチャーも淡々と答える。 「比較的、楽しい…と思えた気がするのは、ここ、か。」 口元を緩めてアーチャーが示した国は英国。 「厄介ごとも多かったがな。覚悟しておけ。」 そんな風に、からかうような忠告をアーチャーは士郎へと送る。 む、と士郎は口をへの字にしつつも、その忠告は素直に受け取ることにした。 その国へは近々行く予定であるからだ。 「現実逃避はそのくらいにしておけ。」 アーチャーは立ち上がりながら、士郎の頭を軽く小突いた。 わかってるさと士郎は地球儀を横に寄せて、遠坂からの宿題である魔術の勉強に再度向き直った。 いつか、一緒にいろんな国に、行けるといいな。 そう心の中で思いながら。 聖杯戦争後の弓士主従で。