何が哀しくて、俺はアーチャーとラブホテルに来ているのか。 「さっさと中に入れ。」 入口で部屋の内装を見て立ち尽くす俺をアーチャーは無理矢理部屋の中へと押し込んで、ドアを閉めた。 「貴様が言い出したことだろう。負けた方は一日相手に服従すると。」 「それはそうだけどな……なんでラブホテルなんだよ。」 「偶には状況を変えて行うのも良かろう。」 「変態。」 「何とでも言え。そら、そこがシャワールームだ。」 「ぐ……。」 要は、今日はここで魔力供給をすると言っているのだ、アーチャーは。 何も言い返せなくて俺は半分やけになって、示されたシャワールームへと向かった。 定期的に俺はアーチャーに手合わせしてもらっている。 自分でも大分上達したと思ったので、それを実感したいのもあって俺はアーチャーに勝負を挑んだ。 制限時間内に一本とれば俺の勝ち、という。 乗り気でないアーチャーに提示したのが、負けた方は一日相手に服従するということ。 勿論勝算はあった――――筈だった。 結果、アーチャーはぎりぎり逃げ切った。大人気ないぐらいアーチャーは本気だった。 そこに第三者がいれば、俺達は殺し合いをしているようにみえたかもしれない。 「……はあ。」 シャワーを浴びながら溜息を吐く。 仕方が無い。負けは負けだし、場所が違うだけでやることは同じだ。 俺は気持ちを切り替えようとしたが。 「…なんで風呂にこんなでかい鏡があるんだよ……。」 視界に入らないようにしていたが、やはり気になる。 ほぼ壁一面の鏡。明らかにそういう用途なのだろう。 目を落とすとシャンプーやボディソープの他に、いつもお世話になっている潤滑油のようなものや その他もろもろもあって、頭が痛い。不思議な椅子のようなものもあった。どうやって使うんだろうか。 俺は頭を振った。さっさと準備して出よう。 もしかするとアーチャーが入ってくるかもしれないし、その前に。 そう思って、潤滑油を手にとって、指を後ろに回した。 アーチャーは入ってこなかった。 少しほっとして備え付けのバスローブを羽織って部屋に戻ると、アーチャーは意味ありげな笑みを浮かべていた。 ぞわりと悪寒。 「…なんだよ。お前も入るんだろ。」 「ああ、そうだな。」 アーチャーはベッドに腰掛けていた。 正面には鏡。………鏡? その方向は、今まで俺がいた場所。 その鏡にはシャワールームが。 そこまで考えて、俺は突如理解した。 理解して、有り得ない程、顔が熱くなった。 「マジックミラー、というものを知っているか?」 「お、まえ……っ」 「これで操作できるようだ。――さて、私はシャワーを浴びてこよう。」 「っ、さっさと行け!!」 怒鳴る俺を心底愉しそうに見てから、アーチャーはシャワールームに消えた。 俺はアーチャーが持っていたリモコンを急いで操作する。 アーチャーのシャワーシーンなど誰が見たいものか。 映っていたシャワールームは消え、普通の鏡に戻る。 そこには情けない程に紅潮した自分の顔が映って。 「……っ」 何も知らずに準備する俺の姿をアーチャーはここで見ていたのだ。 俺はベッドに突っ伏すことしかできなかった。 シャワールームで浮かんだのは、これか、ざぶーんでした。 ラブホは想像です。多分アーチャーはわざととんでもないラブホ選んだんだと思うよ。 すんません、こんなんで。 リクエストありがとうございました!