ベルベットルームの住人であるテオドアにとって、 客人と接触をとることができるのは奇跡にも等しいことだった。 客人を通して外界に、人間の住む世界に関われる。 勿論、自身の本来の役割は客人である少女の手助けとなること。 それを忘れる訳ではない。 ただ、少女の為といいながらその実は自分の為でもあることは、 誤魔化しきれない事実であり、テオドアはひっそりと自嘲する。 そう。様々な依頼は少女の成長の為であり、最終的にはテオドア自身の目的の為でもあるのだ。 『ああ、ですが探訪依頼も含めて、かなり私情が入っていますね。』 改めて少女への依頼リストに目を通すことでテオドアは苦笑を零す。 少女は積極的に依頼を達成してくれた。 人間界で気になった物を届けてもらう依頼も既に幾つか。 その中でもジャックフロストの人形はテオドアのお気に入りだ。 最近はその人形よりも身近に置きたいものができてしまったが、 ベルベットルームの住人であるかぎり、それは絶対に叶わない願いであることは理解している。 「ようこそ、ベルベットルームへ。どのようなご用件でしょう?」 少女の来訪に気付き、テオドアはいつものように声をかけた。 少女はこんにちはと挨拶したあと、テオドアに手を差し伸べる。 「今日は学園に案内するね。」 その言葉にテオドアは表情を緩ませ、それではご案内をよろしくお願いしますと、 差し出した少女の手を恭しくとり、ベルベットルームの外への扉へと足を進めた。 月光館学園。影時間にタルタロスへと変貌する場所。 普段のそこは、少女が一日の大半を過ごす場所。 逸る気持ちをおさえながらテオドアは少女に学園を案内してもらう。 これまでにポロニアンモール、巌戸台、長鳴神社と案内してもらったが、学園はその全てと違う独特の閉鎖空間だった。 色々な場所を見て回って、どの場所も興味深いものだったが、その中でも印象に残ったのは音楽室という場所だった。 テオドアがピアノに興味を示したのを見て、「弾いてあげようか?」そう少女は言い、 テオドアはその申し出をありがたく受けた。 室内に響き渡るピアノの音色に目を閉じて耳を澄ませる。 不思議と心が温かくなった。 演奏が終わった少女にそれを告げると、少女は照れたように頬を染めて笑う。 テオドアも微笑み返す。自分の為に弾いてくれた少女の気持ちが嬉しかった。 学園を一通り巡り終えて、テオドアと少女は並んで学園の門から外へと出た。 テオドアはそこで不意に気付く。 何時の間にか、外界への興味から、客人である少女への興味に変化していた自身の気持ちに。 「テオ?」 不思議そうに覗き込んできた少女に我に返り、一度自分の気持ちを心の奥へと押し込めて、テオドアは少女に手を差し出した。 「行きましょう。さ、お手を。」 そうして差し出した手に、少女は少し困ったように微笑みながらそっと手をのせてくる。 「テオって天然だよね。」 「天然……ですか。自然のまま、生まれつきという意味ですね。………? どういった意図でしょうか。」 「あー、……はは。何でもない。うん、それがテオの魅力なんだろうしね!」 「? ありがとうございます。貴女もとても、魅力的ですよ。」 「……ほら、そういうところがさ……うう…」 他愛のない会話をしながら二人でベルベットルームに向かう。 いつも名残惜しいと感じるその想いが向かう先も、何時の間にか変わっていた。 ベルベットルームに戻り、少女と別れてテオドアはそっと溜息を零す。 この胸の内に生まれた少女への気持ち。それは果たしてどういったものなのか。 自分は人ではない。人並みの感情が在るのか。 それはきっと自分には判断できないだろう。 待ち続けている答えを与えてくれるかもしれない客人。 少女自身への興味はただそれだけだった筈なのに。 ベルベットルームの扉を開き、訪れる少女をずっと待っている。 少女のペルソナ全書を開き、彼女の心の海に触れることが喜びになっている。 「…この想いは、間違いなく……」 禁忌だ、とは声にならなかった。 だが、ただの客人であり答えを与えてくれる存在、それだけの認識であれば良かったとはもう思えない。 奇跡の人。だが、罪深い人。 罪深いのは貴女か自分か。 答えは次の探訪依頼で出るだろう。最後の探訪場所はもう決まった。 不快に思うだろうか。それでもこの感情に答えを出せるのならそれでいい。 どんな結果になろうとも、 「…最後まで、貴女のお手伝いをさせていただきますよ。」 テオドアは言い聞かせるように小さく呟いて、飾ってあるジャックフロストの人形を愛おしげに撫でた。 少女と重ねて。 テオドアが恋する乙女に。このあとはエロテオ爆誕ですが。 実は撫でるブツを人体模型にしようか悩んだのは秘密だ。結構普通にやりそうじゃないか? うん、ごめん。 リクありがとうございましたー!