「……っ、あ れ……」 目覚めると見知らぬ天井、簡素なベッドの上に俺は横たわっていた。 起き上がろうとして、くらりと目眩。 それで、思い出した。 『悪いな、坊主。』 意識を失う直前に聞いた、良く知る男の声。 そして首筋への衝撃。 情けなくもそれで俺は昏倒していたらしい。 「お、目、覚めたか坊主。」 「……ランサー…」 いつもと変わらない調子で声をかけてきた男に、俺は不機嫌を隠さず相手の名を呼んだ。 ランサーはそんな俺の様子にも気にせず、にやりと笑い近付いてくる。 どうやらシャワーを浴びてきたらしい。 備え付けの浴衣を身につけ、濡れた髪を乱暴にタオルで拭きながら俺がいるベッドに腰を下ろす。 よくあるビジネスホテル…だろう。 嫌な予感がしつつも俺は、 「いったいどういうつもりだ、ランサー。」 そう男に問いかけた。 ランサーは表情を変えず口元に笑みを浮かべたまま、 「こうでもしねえと何時までたってもオマエと二人きりになれねえからな。 乱暴な手だったってのは謝るさ。だが、あの程度で落ちたオマエも油断しすぎだろ。」 こんなに簡単にいくとは思わなかったと、さらりと答えてきた。 ……ああ、確かに俺自身まだまだ未熟だよ、畜生。 はあと深く溜息を吐く。 大晦日、三箇日。忙しいのは当然だ。 その間、確かにランサーとはたいして会話を交わした覚えも無い。 だがまさかこんな強引な手でくるとは正直、思わなかった。 目的は…解ってしまった。 解りたくはないが、初めてというわけではないので、解ってしまう。 「――で、どうする坊主。シャワー浴びてぇなら待っててやるぜ。」 ランサーが欲を隠しもせずに言って、俺の頬を撫でてくる。 何の効果も無いことは承知しつつ、力の限り睨みつけてから、 俺はランサーの手を振り払いベッドを降りた。 「…入ってくるなよ。」 言い捨ててタオルと浴衣をひっつかんで浴室に向かう。 くつくつと笑う声が聞こえてきたが、知るものかと浴室に飛び込み乱暴にドアを閉めた。 シャワーを浴び終えて、覚悟を決めて俺は浴室から出た。 ランサーは大人しく待っていたので、特に何を言うことも出来ずにベッドに腰掛ける男に歩み寄る。 「っ!」 間合いに入った途端、腕を引かれてベッドに沈み、ランサーは俺の上に乗り上げてきた。 そしてそのまま噛みつかれる。 唇、首筋、鎖骨。 着ていた浴衣はあっという間に乱されて。 「がっつく、なよ 馬鹿。」 「ハ、悪かったな。オレは上品には喰えねえよ。」 俺の咎める声には舌なめずりで返されて。 本当に喰らわれそうで、ぞくりと震えが走る。 「……いいから、その口閉じとけ。直ぐに何も考えられねえようにしてやる。」 その言葉の通りに、俺は直ぐに深い快楽に堕とされて、啼くことしかできなくなった。 「…は、ぁ…まだ、するの か」 「オマエを独占できんの、今だけだからな…あと少し付き合えよ。な、士郎。」 「…っ、こんな、時にだけ 呼ぶなよ……っ」 「こんな時だから、呼ぶんじゃねえか。」 「……も、好きに しろ……」 「物分りのいい奴は好きだぜ。」 「言ってろ…」 そんな会話を間に挟んで、俺はたっぷりランサーに抱かれた。 改めて新年の挨拶をする隙も無く。 多分、必要も無く。 俺は男の熱に浚われる。 2009年1月 159c 梨雪 新年小話TOPへ戻る