お前が足りない





「…アー、チャー…、も、無理…… 明日 立てなく、なる…っ」 「ならば熱を出したとでも言って一日寝ていればいい。雑事は全て私がやろう。」 「ば、か…! なに 言って」 「いい加減黙れ。もう一度だ……足りん。」 「……!! ぁ う… っ ん」 こっちの言い分など端から聞く耳持たずで、 アーチャーは俺の内部に埋めていた熱を再度動かし始めた。 もう幾度目になるのか分からない。 何度もなかに注がれたアーチャーの精液が潤滑を良くしていて、 ひっきりなしに濡れた音を響かせている。 吐き出すだけ吐き出した俺の中心は、前立腺を刺激されることで ゆるく勃ち上がってはいるが、なかなか最後にまでは至れない。 快感は既に痛みと変わらない。 苦しい。 苦しい、のに。 「っ、は…… っ、衛宮 士郎 ……」 俺を穿ち、突き上げ、揺さぶり。 そうして確かめるように、切ない声音でアーチャーが俺の名を呼ぶから。 「ん……っ、く そ……っ」 俺は小さく毒づくことしか出来ない。 力の入らない腕を叱咤しながらアーチャーの首に回して引き寄せる。 そして息も絶え絶え唇に噛み付くように口付ける。 アーチャーは俺の腰を抱え込み、深く深くなかを抉りながら俺の口付けに応える。 舌を絡めて、唾液を啜って。 がつん、と強く腰をぶつけてきて、アーチャーの体が痙攣した。 過敏になった内部が、断続的に吐き出されるその熱い飛沫を感じ取って。 神経が灼きつくような感覚に俺は声にならない声をあげて、 堪えるように目の前の男に縋りついた。 それでも俺の体は、疲れ果ててもう達することは出来なくて。 やっと気が済んだのか、アーチャーはふ、と熱い息を一つ吐き、ゆっくりと俺のなかから出ていく。 排泄感に溜息のような声が、俺の喉から勝手に漏れる。 涙の滲んだ目でアーチャーを見ると、男の手がゆるく勃ち上がったままの俺の中心に触れた。 体を下へと移動させてアーチャーは俺の中心を、熱い口内へと導く。 「ん……っ、う…っ」 促すように強く吸われ、指先で擦られて。 時間をかけずに俺は薄くなっただろう精液を、アーチャーの口の中に吐き出した。 年末からばたばたと忙しなく、皆と過ごした三箇日。 一月三日、夜。 これがアーチャーとの今年初めの魔力供給……とは名ばかりの、ただの性行為。 いや、確かに一度目はちゃんと繋いだので、魔力供給に違いはないのだが。 すっかり日付は替わり、俺はぐったりとしつつ元凶であるアーチャーの腕の中。 時折、頭とか額とか目尻などに唇が押し当てられて、くすぐったい気分になる。 なんでこんなに求められたのか、なんて。 簡単に見当がついてしまうあたり、俺もやられてる。 ここ数日、二人だけの時間は無かった。 多分、そういうことなんだろう。 本気で行為を拒まなかった時点で自分も同罪。 体はきついけど、心は満たされていた。 それが答えだ。 「…アーチャー」 掠れた声で名を呼ぶ。 「なんだね。」 「うん。また一年、よろしくな。」 「…ああ、よろしく。」 情事の後の、二人だけの新年の挨拶。 どうしようもないなと思いながらも、こうして日々を繋ぐことができる、 その幸福に小さく笑って。 俺はアーチャーの腕の中で瞼を閉じて、意識を手放した。 2009年1月 159c 梨雪 新年小話TOPへ戻る