縁側に行くと、庭にギルガメッシュが佇んでいた。 夜中なのに、ギルガメッシュがいる周りだけ仄かに明るいような錯覚。 先程の集まりの中にはギルガメッシュは当然いなかった。 新都にでも行っていたのだろうか。 ギルガメッシュが、俺の姿を確認したのかこちらに近寄ってきた。 「…今頃来ても、もう何も残ってないぞ。」 意図が掴めなかったので、そんなことを言ってみる。 「…そのようなモノが目的で、わざわざ我が雑種の元に出向くわけがなかろう。」 相変わらずなギルガメッシュの返答。 年が明けても変わらないよなぁこいつ、などと暢気に考えていたら、 いつの間にかギルガメッシュは目前。 躊躇いもせずに土足のまま、縁側にあがってきて。 「っギルガメッシュ、靴脱げ…!?」 文句を言おうとした俺に構わず、ギルガメッシュは俺の腰を抱き寄せて。 噛み付くような口付けを、してきた。 「ん……!!」 どん、とギルガメッシュの背中を叩き、引き剥がそうとするが、びくともしない。 ぬるりとギルガメッシュの舌が俺の咥内に潜り込んできて、 身体に寒気のようなものが走る。 「っ、は…んァ」 舌に噛み付いてやろうかとも思ったが、 ギルガメッシュが俺の顎をきつく掴んでいるのでそれも不可能。 暫く、思うまま貪られて。 ようやく離された時には息が上がっていた。 「っ、はぁっ、」 肩で息をしながら目の前の男を睨みつけると、ギルガメッシュは満足気に笑い。 「貴様は我のモノだということが、まだ解らぬようだからな。 その身体に我を刻む為に、来てやったのだ。いい加減、自覚せよ。」 そんなことを、言ってきた。 「…何度も言うけどな。俺はお前のモノになった覚えは無いし、 これからもお前のモノなんかには、ならない。」 無駄だと思いつつも、俺はそう返す。 ギルガメッシュは心底、不可解だという顔をする。 新年早々コレか、と俺は溜息をひとつ落とした。 幾度となく繰り返した問答。 未だに謎だ。 いつからこんな風に言い寄る対象が、セイバーではなく俺になったんだろう。 いや、セイバーに対しても相変わらずなんだが。 俺に対しての方が、妙に遠慮が無いのはどうなんだ。 ……まぁ、セイバーに手を出すのは簡単ではないだろうが。 そうか、俺、弱いからな。 …その差か。畜生。 ―――だが、とも思う。 理由は解らないが、ギルガメッシュが俺に何かしらの感情を抱いているのは 確かなのだということだけは、解ってしまった。 俺を雑種と呼ぶのは変わらないが。 蔑んでいるのなら、こんな風に強引に俺に触れることなどしないだろう。 やり方は絶対に赦せはしないが、暴君だったということだから、 こんな方法しか知らないのだろうとも思う。 結局の所、俺はそれなりにギルガメッシュと日々を重ねてきた結果。 絆されてきているということだ。 軽く頭を振る。とりあえずは。 「…このあと、みんなで初詣に行くんだ。 用件がこれだけなら、俺もう行くぞ。準備もあるし。」 そう言ってギルガメッシュに背中を向けて立ち去ろうとしたが。 「待て雑種。『ハツモウデ』とは何だ。どこかに出向くつもりならば、 我が連れていってやろう。光栄に思え。」 ギルガメッシュは俺に、有無を言わせずそんな決定事項を告げてくる。 うん。そうなるとは思った。 初詣の意味も解らないくせに、どこに連れて行くつもりだ、と突っ込みたかったが。 こうして新年初めに、こいつと顔を合わせてしまったのだから、仕方がないだろう。 これもまた、運命だ。 俺は受け入れることにした。 もう、本気でギルガメッシュを拒絶することができない自分に、気付いているから。 俺は小さく、自嘲にも似た笑みを浮かべる。 「…みんなに、断りを入れてくる。」 俺がそう告げて歩き出すと。 「我を待たせるな。疾く戻れ、雑種。」 そう言ってギルガメッシュは俺を待つ姿勢をとる。 以前は俺のこの行動さえ赦さなかっただろうギルガメッシュの小さな変化。 それも、俺が絆された理由のひとつだった。 俺はギルガメッシュの言葉通りに急いだ。 この傲慢な王の、機嫌を損ねないように。 こうして、俺の新しい年が、始まる。 2008年1月 159c 梨雪 新年小話TOPへ戻る