また1年、楽しい日々を





俺は居間に向かう。 そこには思った通りランサーの姿があった。 空瓶があちこちに転がっている。 「…本当に、酒、強いよなアンタ。」 呆れ混じりに俺がそう言えば。 ランサーは俺を見てきて、手招きしてくる。 不思議に思いながらも俺がランサーの傍に近寄ると、 ランサーは座ったまま、立っている俺に腕をまわしてきた。 俺の脚に抱きついているような格好。 「ランサー?」 「なぁ坊主。『ヒメハジメ』っての、やらねぇか?」 「な!?どこでそんな言葉、仕入れてくるんだアンタは!この酔っ払い!!」 「痛っ」 俺は反射的にランサーの頭を手で叩く。 これが、本当に、神代の英雄か……!? ランサーはとりあえず言ってみただけだったのか、強引に事を運ぶつもりは無いようで。 俺の腕を下から引いてきて、俺に座るよう促してくる。 溜息をひとつ漏らして、俺は膝を折ってその場に座った。 そうしたら、ランサーは俺の腰に腕を巻き付けてきて。 なんというか、いつの間にか俺はランサーに膝枕をしてやっている状態になっていた。 「…アンタも物好きだな。男の膝枕なんてさ。」 「ん…坊主だからな。悪く無ぇ。」 手持ち無沙汰になって、俺はなんとなく、ランサーのその青い髪を手の指で梳いてみた。 ランサーが気持ち良さそうに目を細めるから、俺も少し嬉しくなって、 そのまま手を動かし続ける。 「…ランサー。アンタ別に、酔ってないだろ。」 俺がそう訊くと、まぁなと肯定の返事が返ってきた。 「気分はイイが、頭はハッキリしてるぜ。」 そう言いながら、俺の太腿に顔を摺り寄せてくる。 「…そうだよな。ランサーは普段から酔っ払いみたいに、俺に絡んでくるもんな。  これも、今更って感じだ。」 俺はそう言って、ランサーの髪を少し強く引っ張った。 ランサーは愉しそうに笑う。 「不思議なもんだな。聖杯戦争時は、まさか坊主との関係が、こんな形になるなんざ、  思いもしなかったしな。」 ランサーはごろりと仰向けになって頭を俺の太腿に乗せたまま、俺を見上げてきた。 視線が合う。 「俺だって、思いもしなかった。まさか女好きの英霊に口説かれることになるなんてさ。」 俺も同じ様にランサーに言い返した。 本当に、何で俺なのか。未だに疑問だ。 ランサーは目を細めて、腕をあげて、俺の唇をなぞってきた。 なんとなく、そういう気分になったので。 舌先を少し出して、ランサーの指を舐めてみる。 ランサーがもう片方の手で俺の上着の胸元を引いてきたので、 抗わずに俺はそのまま身体を倒して。 今年初めの、口付け。 ん、と俺が喉を鳴らせば、ランサーも同じ様に喉を鳴らす。 暫く、くちゅくちゅと濡れた音が響いて。 俺から唇を離す。 ランサーが自分の口端に垂れた唾液を指で拭い、舐めた。 「ランサー…」 「坊主。今年も宜しく。」 俺が口にする前に、ランサーに先に言われてしまう。 俺が少し驚いて瞬きすると。 「こういうアイサツ、するんだろ?」 ランサーはそう言って笑う。 俺も自然に笑った。 本当にどこからそういう知識を、仕入れてきたのか。 「こちらこそ。宜しく、ランサー。」 俺もそう返して。 「さて、初詣に行く用意、しないと。」 「それも、この国の行事ってヤツだったか。」 「ああ。ランサー、アンタはどうするんだ?」 「坊主が行くんなら付き合うぜ。」 よっと声を出してランサーが俺の膝から起き上がる。 俺も立ち上がろうとして、ちょっとフラついた。 ランサーの頭を乗せていたせいか、少し脚が痺れている。 「抱いていってやろうか?」 「いらない。」 からかう様に言ってくるランサーに、間髪いれずに拒否を告げて、 俺は先に歩き出した。 ランサーはゆったりとした足取りで、俺の後についてくる。 去年と変わらず、ランサーに振り回されるんだろうけど。 それでもいいかと思ってしまう、自分がいる。 今年も楽しい1年になるといいなと、 俺はそう思って、口元に笑みを浮かべた。 2008年1月 159c 梨雪 新年小話TOPへ戻る