これは全て、数多ある可能性の一つの話。 衛宮士郎は、マスターとして駆けた聖杯戦争で出逢った、 自分ではない、自分の先である男に焦がれ、追いかけて、 数年後。世界と取引をし、自らの命をかけて、その男を喚んだ。 そして、その男と共に真実、英雄として世界中にその名を馳せた。 その結果、如何なる奇跡が起きたのか。 衛宮士郎は元より、世界に自身を売り渡した訳でもなく。 訪れた死により輪廻の輪に戻り。 衛宮士郎が焦がれた男――英霊エミヤ<アーチャー>は、 本来ならば分体である以上、本体に記録だけを残し消えるだけであったが、 その本体が守護者という枠組みから解放され、正規の英霊となったことで、 衛宮士郎と共に生きた記録を持つ魂の一部が、輪廻の輪に戻ることとなった。 そうして、その二人は転生した。 衛宮切嗣とアイリスフィール、二人の実子として、同時に。 アイリスフィールに宿った命は二つに分かれ、 それぞれに、衛宮士郎であった魂と、アーチャーと呼ばれた男の魂が降りた。 生れ落ちた赤子二人を胸に抱き、アイリスフィールは困ったように微笑み。 「ねぇ切嗣。この子達、名前はどちらもシロウなの。 どうすればいいと思う?」 悪戯っぽく、最愛の夫にそう訊ねた。 それに、切嗣も少し困った風にしながらも、アイリスフィールに笑いかけて。 「それなら。先に生まれたこの子を士郎―こんな漢字でね、 そして後から生まれたこの子を、シロウと片仮名にしよう。 それならどちらも同じだけど、違う名前だよ。」 そう答えて、そっとアイリスフィールの腕に抱かれた二人の赤子を撫でた。 アイリスフィールは、常人には無い力で、二人の魂を自らに引き寄せた。 理由はわからないが、そうすることが当然だと感じたからだ。 それから一年後。 アイリスフィールは女児を生む。 予定通りに、自らの分身である、イリヤスフィールを。 第四次聖杯戦争。 何故か、アインツベルンはアイリスフィールと衛宮切嗣の投入を見送った。 それは、予定とは違う男児の双子が生まれたことも理由の一つであり、 他にも何か思惑が、あったのだろう。 より万全な状態で、聖杯戦争に望む為か。 衛宮切嗣は、生まれた子を想い、アイリスフィールを想い。 その決定に、従った。 自らの想いを諦めたわけではない。 今回の聖杯戦争を見送ることで、次回は早い周期で訪れるという アインツベルンの予見もあった為、それに頷いた。 第四次聖杯戦争は、この時間軸では起きなかった。 イリヤスフィールを聖杯の器として起きる聖杯戦争。 それはまた、別の話―――。 切嗣は日本に戻った。 アイリスフィールと三人の子を連れて。 冬木市深山町。純和風の屋敷を買い取り、 そこで、次の聖杯戦争が起こるまでの僅かな年月と理解しながらも、 温かい日々を過ごすことになる。 双子の士郎とシロウは、生まれた直後は双子らしく、瓜二つであったが、 成長するに従って明らかな違いが見られるようになった。 それでも顔のつくりは、そっくりであったが。 士郎は日本人らしい肌と琥珀色の瞳、髪は赤銅色。 シロウは肌は褐色で瞳は白銀、髪は光をあてた鋼のような白。 その色素の違いを、アイリスフィールは当然のように受け止めたし、 切嗣も自然に受け入れていた。 どのような姿であっても、愛しい我が子に変わりはないのだから。 イリヤスフィールは、アイリスフィールとそっくりだった。 上の双子と同様に、切嗣が溺愛したのは言うまでもない。 月日が経ち。 双子の士郎とシロウには、二人だけの秘密ができた。 その秘密から、普段はお互いに名を呼び合うか、弟が士郎を『兄』と呼ぶかだったが、 二人きりの時だけ、士郎はシロウをアーチャーと呼び、 シロウは『兄』に対してではなく、士郎と呼ぶ。 時にわざと『兄さん』と呼ぶこともあったが。 つまりは、二人はここに転生する前の自分自身の記憶を、持っていた。 細部まで覚えているわけではない。 ただ、お互いのことを覚えていて、お互いに抱いた想いが、 成長と共にはっきりと蘇ってきたということだ。 正直、士郎は混乱した。 焦がれた男が今は双子の弟。 血縁。男同士…は以前もそうであったからもういい。 血縁というのは洒落にならない。 記憶が鮮明になってしまえば、たとえ双子の弟であっても… そういった感情で見てしまうのだから、と。 対してアーチャーは、自覚した瞬間は多少の戸惑いはあったものの、 これはこれでと士郎よりもずっと早く、開き直った。 世界が優しくないことは思い知っている。 ならば、これは、まだ幸運だろうと。 誰よりも傍にいることができ、誰よりも繋がっている。 血縁、ということは問題ではない。 男女ならば問題もあるだろうが、男同士なのだから、 どんなことをしても血として残ることもない、と。 あとは、『兄』に甘えてみせることも、以前は考えられない感覚で新鮮だった。 二人が、双子の兄弟としての一線を越えることは、ある意味必然だった。 日課である魔術の鍛錬を、二人、土蔵で行う。 聖杯戦争に備える為か。 身を守るという意味も込めて、幼い頃から、 士郎とシロウには切嗣が、イリヤにはアイリが魔術を教えた。 魔術刻印の引継ぎは無かった。 切嗣曰く、二人にコレは必要無いと。 そして、正確に二人の異端性を見抜き、それに沿った鍛錬方法を提示した。 切嗣の示す通りに二人は鍛錬を重ね、今では投影を使いこなせるまでになった。 この調子でいけば、固有結界を起動させることも出来るようになるだろう。 「兄さん、今日はここまでにしよう。」 シロウが士郎にそう声をかけて土蔵を出る為立ち上がった。 士郎は、ああと返事をしたものの立ち上がる気配が無い。 訝しげに、兄さんともう一度呼んだシロウに。 「…二人きりなんだ。そんな風に呼ぶの、やめろよな、アーチャー。」 わざとらしいんだよと拗ねたように士郎は、シロウをかつて呼んだ音で、 アーチャーと呼んだ。 それを受けたシロウ――アーチャーは。 「そうは言うがな。おまえがオレの兄であることは事実だろう?…士郎。」 多少、からかい混じりながらも、士郎を兄としてでなく、 かつて抱いた想いを込めて名を呼んだ。 「『私』って言わないんだな。」 士郎が手を伸ばす。 「今の姿に、その一人称は似合わんだろう。」 アーチャーはその手に自らの手を重ね、士郎の傍で膝をつき、視線を合わせた。 「それを言うなら、その言葉づかいも、今の姿から考えると違和感あるぞ。」 「…む。」 そうして二人の顔は、ごく自然に近づき、唇が重ね合わされた。 唇を擦り合わせ、薄く開いた唇にお互いに舌を潜ませる。 触れ合う舌を絡ませ、甘く吸って。 どちらのものか判らなくなるぐらいに唾液を交換して、唇をはなした。 合わせ鏡のように似た、お互いの顔を見つめあう。 色と魂だけが、違った。 厳密に言えば、魂も元々は同じモノだったが、同じでありながらも違うモノであることを、 だからこそ焦がれたのだという想いを、二人は覚えている。 アーチャーが士郎の首筋に顔を埋めて、士郎はそんなアーチャーの背中に腕を回した。 「…でも、なんで双子なのさ。」 心底困った声で士郎が呟く。 「大した問題ではないだろう。」 軽くアーチャーは返し、士郎の滑らかな首筋の皮膚に唇を落とす。 「普通に問題あるだろ。双子だぞ。」 「では言うが。よりにもよって、過去の自分に対して劣情を抱き、 オレはそれを受け入れた。コレに比べれば男同士であることも、 血の繋がりも騒ぐほどのモノとは思えんな。」 「…う。」 いや、まぁ確かに。 俺だって自分の先、未来の自分に対して、憧れだけでない想いを抱えてしまった時点で、 色々なものを越えた気もするけれど。 そう思いながらも、やはり士郎はアーチャー程、割り切れるわけではなかった。 だから、まだ。 ぎりぎりの所で止まっていた。 最後の一線を越えることを躊躇う士郎に対し、アーチャーも無理強いはしない。 ――けれど。 「…そろそろ、この程度では、満足できないんだが。」 そんなことを呟きながら、アーチャーは衣服ごしに士郎の体を撫でていく。 たったそれだけで、士郎の体は簡単に熱を灯す。 胸の尖りを押し潰すように何度も撫でられれば、衣服ごしでもわかるぐらいに 硬く立ち上がってくる。服の上からアーチャーはその部分へ唇を当てた。 歯を立てようと、衣服がある分、与えられる感覚は淡い。 「っふ……ぅ」 士郎は戸惑うようにアーチャーの肩に手を置いて、ぎゅ、と握り締める。 アーチャーの右手が士郎の下肢へと伸ばされ、その中心をそろ、と撫でる。 そこは既に熱を持ち、硬く。 「ぁ……っ、…俺…っ、い、やだなんて……言って、ない…っ」 消え入りそうな声で士郎がぽつりと呟くのを、アーチャーは耳にして。 顔を上げる。 「士郎?」 「お、まえが……変に、俺に、遠慮…してるんじゃ、ない、か……!」 そう。士郎にしてみれば。 確かに躊躇いはあるが、多少強引にでもアーチャーが求めてくるなら、 受け入れるだけの覚悟はあった。 なのに、アーチャーはすぐに手を引いた。 「なん、で……」 一度口にしてしまえば、あとは疑問だけ。 結果的に誘っていると受け取られようと……もう、構わない。 士郎は腹を括った。 アーチャーはそんな士郎をしばらく呆然と見つめた後。 「…ああ、そうだな。」 腑に落ちたというように、一度目を閉じ、小さく笑う。 「…アーチャー?」 「今は、おまえはオレの『兄』だからな。 無意識に、兄の気持ちを尊重しようとしていたようだ。」 「!?……っ、なんだよ、それっ」 アーチャーの口にした理由に、士郎は呻いた。 普段はそんな素振り、みせないくせに。 こんな時にだけ、何を言い出すんだ、と。 「…絶対、おまえ、前より馬鹿だろ。」 士郎はそう言うと、アーチャーの顔を引き寄せて、その唇に噛み付いた。 「…士郎。」 「アーチャー。答えろよ。俺が、欲しいか…?」 至近距離での士郎の真っ直ぐな問いに。 「……ああ。欲しい。」 アーチャーも、真っ直ぐに、答えた。 「…なら、いい。俺だって……欲しかった。 だから、俺が何を口走っても、止めなくて、いい。」 最後まではっきりと士郎はそう口にして、アーチャーに抱きついた。 「…その言葉。忘れるなよ。」 アーチャーは自分の腕の中に自ら飛び込んできたその体を、きつく、抱き締めた。 土蔵。魔術鍛錬のこの時間は、誰もここには近寄らない。 切嗣も、アイリも、イリヤも。 だから、邪魔は、入らない。 それでも、必要最低限だけ服を乱して。 四つん這いにさせた士郎の下肢にアーチャーは顔を埋める。 唾液で、自らは濡れることのない後孔を濡らす。 「っ、は…ぁ…っ」 そこ、を。滑る舌が這い、なかに潜り込むその感覚に、士郎は小刻みに震え、 唇を噛み、息を吐き出す。 アーチャーと繋がるのは初めてじゃない、という記憶を持ちながら、 この体になってからは正真正銘、初めてで。 繋がることで得られるものを知っている。 快楽と痛み。 今はそのどちらもが、少し、怖い。 アーチャーは時間を出来るだけかけて、その狭い器官を解した。 舌で、指で。時折震える士郎の体を宥めるように撫でて。 そうしていても、きっと傷つけるだろう。 この体では初めての行為で。 本当はもっと、準備をするべきなのだろう。けれど。 アーチャーは今すぐ、士郎が欲しかった。 耐えてきた想いを、当の士郎本人が、その必要は無いと、そう煽ったのだから。 「…どちらが、いい?」 アーチャーの問いに、士郎は首を傾げる。 「このままの方が、おまえにかかる負担は少ない。」 繋がる為の体位を訊かれているのだと理解し、 士郎は荒い呼吸のまま体を起こして、アーチャーと向かい合わせになった。 「…おまえの、顔が、みたい。」 士郎は羞恥を呑みこんで、アーチャーの体に腕を回す。 双子なのに、いつからか、弟のアーチャーの方が成長が早くて。 それに悔しく思いながらも、自分よりも僅かに広い背中に縋る。 アーチャーは、士郎の足を開き、抱え上げて、後孔に自身の熱をあてがった。 何度か窪みに擦り付ける。 アーチャーの熱は、痛いほどに高まっていた。 士郎の喘ぐ声を聞き、士郎の乱れるその姿を目にしていただけで。 「……挿入れるぞ。」 低く掠れた声で囁いたアーチャーに、士郎はただ頷く。 アーチャーが、ぐ、と腰を押し付ける。 ぎち、と悲鳴をあげて、士郎の後孔が、その熱を迎え入れた。 「あ……ぐ、っ、ぅ…あ、あ……っ!!」 身を割かれるような痛みに、士郎は縋るアーチャーの背中に爪を立てる。 「っ、ぐ…ぅ」 アーチャーもきつく絞られるような士郎の内部に、歯を噛み締める。 それでもお互いに制止の言葉を吐くことは無く。 時間をかけて、アーチャーは士郎の内に全ておさめた。 僅かに錆びた鉄の匂いがする。 やはり無理があったかと、詫びる気持ちでアーチャーは繋がった士郎を抱き締め、 優しく背を撫でた。 「は、はぁっ、あ…っ、ん……っ」 少しずつ、苦しげだった士郎の呼吸が落ち着いてくる。 痛みで力を失った士郎の中心にアーチャーは指を絡めた。 丁寧に、擦り、高めてやる。 「ん…っ、あ、ぁ」 直接与えられる快楽に、士郎の貌が甘く融ける。 試すようにゆったりと、アーチャーは士郎に埋めた熱を揺らした。 士郎の反応を見ながら、徐々に、その動きを強くしていく。 「あ、あっ、は…っ、アー、チャー…っ」 目尻を紅く染めて、士郎がアーチャーを呼ぶ。 突き上げられる動きに合わせて、零れる涙。 それをアーチャーは唇を寄せて、吸う。 「士、郎…っ」 アーチャーも士郎の名を呼ぶ。 嬉しげに細められる士郎を目にして、さらに下肢に熱が集まる。 体よりも、心を、深く満たして。 二人はほぼ同時に、欲を吐き出した。 ずる、とアーチャーの背中から、士郎の手が滑り落ちる。 「っ、士郎。」 アーチャーは士郎に埋めた熱を、名残惜しく感じながらも、ゆっくり引き抜いて、 士郎の体を抱きかかえる。 「あ……」 朦朧としながらも、アーチャーに視線を合わせてきた士郎に。 「構わん。眠ってしまえ。」 アーチャーはそう言って士郎の髪を撫でた。 ん、と頷き、士郎は素直に意識を手放す。 正直、恥ずかしいし、疲れたしで、起きているのは辛かったので。 アーチャーの言葉に甘えた。 やっと、繋がることが出来た。 そのことに、幸福を覚えながら。 そうしてすぐに寝息をたてはじめた士郎を、アーチャーは優しく、ずっと見ていた。 一線を越えた夜。 土蔵に射し込む月の光は、淡く二人を包み込んでいた。 8989キリリク。弓士。 ありがたいことに、かなり細かい設定を提供していただきまして。 UBW後のあの捏造話から考えてくださったとのことでしたので、 あの話からの派生というか、パラレルにして書いてみました。 …ええ。細かい部分は突っ込まないで下さると幸いです。 苦肉の策といいますか。第四次聖杯戦争。起こってしまうと 切嗣もアイリも五体満足で生き残れないと思いますので。 すっぱり無かったことにしてみました。 なので、第五次聖杯戦争が、第四次扱いになるというか。 パラレルですから、それで。 提供していただいた設定、折角ですのでできるだけ取り込んでみましたが。 魔術云々は、さらっと流すだけになってしまいました…。 あと、えろが明らかに息切れした感じになって、申し訳ない…! こんなものになりましたが、少しでも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。 8989リクエスト、ありがとうございました!! おまけの絵チャらくがき(弓士双子)