一輪の華





「よぉ、坊主。」 家の玄関口。 誰かが来たことに気付いて出向いた俺に、そう軽く手を上げて挨拶してきたのはランサー。 何故か色とりどりの花束を、手に持って。 「…ランサー、それ、どうしたんだ?」 俺は疑問をそのまま、ぶつけてみた。 ランサーは、ああと頷き、少しその花束を掲げて見せて、 「バイト先で、引き取ってきた。処分するって割には、  まだキレイに咲いてるからな、棄てちまうのは不憫だろ。」 そう、答えてきた。 成る程、と俺は頷く。 「それで、俺に何か用があるのか?」 俺が訊くと、ランサーは花束を俺に差し出してきて、 「坊主にやる。」 「………俺?」 「そう。」 ……固まった。 今、ランサーは俺に花束をくれるって言ったんだよな………なんでさ。 固まった俺をランサーは面白そうに見てくる。 「…男の俺じゃなくて、誰か、女の人とかに、あげればいいじゃないか。」 やっと俺はそれだけ口にする。 「迷惑だったか?」 ランサーが問いかけてくるので、俺は首を振り、 「どう、反応返せばいいか、困っただけだ。」 そう口にした。 うん。花束なんて貰っても、困る。 花は嫌いじゃないけど。 ランサーの意図がよくわからない。 ランサーは口元を緩ませて、俺を眺めている。 やけに上機嫌だ。 「オレは、坊主に渡せりゃ満足だからな。あとは好きにすりゃあいい。  誰か他の、喜びそうなヤツにやるとかな。」 ランサーはそんな風に言ってくるけれど。 「…アンタが俺にくれたものを、他の奴にまわすのは、  受け取った以上は失礼だろ。」 ランサーは俺にと花束をくれるんだから、それを他の誰かに渡すのは、 ランサーにも、そいつにも悪いと思う。 だから俺は思ったまま答えたんだが。 何故かランサーは、肩を震わせて笑っている……。 「…なにか、おかしなこと言ったか、俺。」 憮然として言った俺に、 「あー、別に、可笑しいってワケじゃねぇよ。坊主は律儀なヤツだって思っただけだ。」 ランサーはそう返して、花束を俺に押し付けてきて。 「坊主から、嬢ちゃんの誰かにでも、やってくれ。これなら問題無ぇんだろ?」 そんな提案をしてきた。 「む。……わかった。そういうことなら貰っておく。  けど、それならランサーが直接渡せばいいんじゃないのか?」 花束を受け取りながら、俺が訊くと。 「別に、坊主以外には、やる理由が無ぇしな。」 ランサーはそう言ってくるので、やっぱりランサーは俺にくれたんじゃないか、とも 思ったけれど、これ以上頑なに拒む理由も無いので、俺は黙っていた。 「…桜なら、喜んでくれるかな?」 ぽつりと呟いた俺に、ランサーが、ああそうだなと、 俺が考えていることがわかったのか、相槌をうってくれた。 「…確かに、間桐の所の嬢ちゃんくらいだろうな。」  セイバーは花束より食べ物。  遠坂は花束より宝石。 そんなことが、すぐに頭に浮かんでしまったので。 「…と、ランサー、用件はこれだけなのか?」 「ん、まぁ一応、それだけだが。」 「時間あるなら上がっていけよ。  今みんな出払ってるけど、何か飲み物ぐらい出すぞ。」 「へぇ……じゃ、遠慮なく。」 簡単な礼の意味も込めて俺がそう誘うと、ランサーは頷き、家の中に上がってきた。 そして、徐に俺が手に持つ花束から、一本花を引き抜くと、 茎の部分を適当に切って、………俺の髪に、挿してきた。 「……ランサー?」 訝しげに名前を呼んだ俺に、ランサーは目を細めて俺の顔を覗きこんできて、 「なかなか、似合うぜ。」 そう言いながら、俺の髪を手で梳いてきた。 「っ、馬鹿、俺は男だ。花が似合うわけないだろう。だいたい嬉しくない!」 顔が熱くなる。 馬鹿にされているわけではなくて、ランサーが本気でそう言っていることが 解るだけに、性質が悪い。恥ずかしい。 咄嗟にその花を髪からとろうとした手を、ランサーに掴まれた。 「暫く、挿してろよ。」 「っ、アンタな…」 「一本ぐらい、受け取れって。オレからオマエにやる花だ。」 「う…。」 そう言われてしまうと動けなくなる。 こんなことになるなら、花束ぐらい、素直に貰っておけばよかった。 抵抗を諦めた俺に、ランサーは満足そうに笑う。 「…なんで花なんだよ。」 溜息をつきつつ訊いた俺に。 「惚れた相手に、花を贈ったりするもんなんだろ?それをやってみただけだが。」 さらりとランサーがそう答えた。 「………は?」 俺は絶句した。 「だが、まぁたまにゃいいかもしれねぇが、やっぱりオレには向いてねぇな。」 ランサーのその独白と行動は同時で。 「っん…っ!」 気付いた時には、俺はもう腰を引き寄せられてランサーに唇を奪われていた。 ばさりと花束を落とし、引き剥がそうとランサーの腕を掴むが、びくともしない。 「ん、んっ、ぅ…」 閉じていた唇をこじ開けられて、舌をランサーの舌で絡めとられて、甘く吸われる。 身体の芯が痺れるみたいな感覚。 唇を擦り合わされて、お互いの唾液で濡れる。 やばい、と思った時には、がくんと脚の力が抜けて。 ランサーは俺をそのまま座らせて、なおも俺の唇を貪った。 「は……ァ」 やっと唇を離されて、俺は深く息を吐き出し、吸い込んだ。 ろくな呼吸ができなかったので、頭がくらくらする。 そんな俺の唇と、生理的な涙で滲んだ目尻に、ランサーが唇を落としてくる。 「こっちの方が、オレ好みだ。」 そう言ってランサーは笑みを見せてきた。 「こっちの、方がって…」 「この方が、伝わりやすいだろ?」 「…馬鹿。」 悪びれもせずに言ってくるランサーに俺はそれだけしか言えなくて。 ランサーのこういう所に、俺は弱かったりする。 惚れた方が負けとはよく言うけれど、さて、それはどちらが、だろうか。 ランサーがふいに俺の腕を掴んで立ち上がらせてくる。 「何か飲ませてくれるんだろ。」 そう言って何も無かったみたいに、落ちた花束も拾い上げて。 「初めてでもねぇのに、いい加減これ位、慣れろよな。」 からかうように笑って、花束でぱさりと俺の頭を軽く叩くランサー。 「っ慣れるか!」 俺は口元を拭ってランサーを睨みつけてみるが、効果など無いのは解っている。 嫌なわけじゃない。ただ、照れくさいだけだ。 ランサーはそんな俺のことなど解りきっているんだろう。 その余裕が、悔しい。 気持ちを切り替えるように、頭を一度振って、俺は居間に向かった。 ランサーも後からついてくる。 さて、何を出してやろうか。 真昼間から酒を出すのはアレだし、やはり紅茶だろうか。 一応茶葉は置いてある。まだまだ紅茶を淹れるのは修行中だが。 「何か、飲みたいモノあるか、ランサー。」 振り返って、一応そう訊いてみたら。 「オマエが、オレの為に淹れてくれんなら、何でも良いぜ。」 ランサーは、そんなことを、言ってきて。  本当に、この男は……! 赤くなっただろう顔を隠すように、俺は歩みを速めた 後ろから、愉しげな笑い声が、聞こえてきた。 5050キリリク。槍士で甘々で、とのことでした。 甘々というか、微糖、というか。 士郎さんが、ツンデレのようですみません…! というか、どこの少女マンガ、みたいなノリに…。 甘々は、書くとなると不得手なので、まだまだ要修行ですね。 こんなものになりましたが、少しでも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。 5050リクエスト、ありがとうございました!!