闇の光と光の闇





受け入れてしまえば、あとはただ堕ちるだけ。 堕ちた先が、光でも、闇でも。 自分にあてがわれた部屋で、特にすることもないので、 黙々と教会にはありがちな書物だとかを俺は読みふけっていた。 教会は本当に娯楽が無い。 いや、仮にも神父の息子という立場の者の言うことでは無いが、 仕方がないだろう。俺はここにくるまでは普通の子供だったのだし。 なにより綺礼の神父らしからぬ側面を知ってしまうと、自分だけが 戒律などに縛られるのが実に馬鹿馬鹿しく思えてきた為だ。 信仰だけは疑いようが無いので、そこは少しだけ意外だったが。 あとは、神父のくせに魔術師でもあることとか。 まぁそんなわけで、俺も綺礼の息子らしく、立派な似非神父(予定)ということだ。 ああ、この教会に来て、結構散々な目にあったな、などと他人事のように思い返す。 綺礼は他人の不幸に至福を感じるらしく、俺の苦悩には手を差し伸べて突き落とす。 今はだいぶ流せるようになったが、幼い頃はよくこの教会で生きてこられたなと思う。 だが、綺礼など問題にならないぐらいの、俺にとっての災厄の塊。 それがギルガメッシュという、この教会に住むもう一人の男。 厳密にいえば、人ではなく英霊というもの。 その正体は、人類最古の英雄王だとか。 子供向けの本などにも見られるあのギルガメッシュなのだと知った時は 色んな意味で驚いた。 そのギルガメッシュがこの世界で存在する為に必要だという、 所謂人間にとっての食事にあたる行為、魔力供給。 その対象となっているのが俺、というわけだ。 この男のせいで、俺の身体は普通の人間から魔術師という生き物に作り替えられ、 なおかつこの男にとっての食物、という立場になっている。 昔はまだ良かった。血液中に含まれる魔力を採る、という方法だったので。 まさか男に犯されるはめになるとは思いもしなかった。 魔力供給の方法としては一般的だと笑って言った綺礼を、俺は忘れない。 あの似非神父。 そんなことを、本を読みながら考えていたら、誰かが室内に入ってきた。 この気配はギルガメッシュ。 気付いたが、俺は振り向かず、本に目を落とす。 ギルガメッシュは時と場合にもよるが、話しかけると怒る。 先に許しがいるのだ、面倒なことに。流石、王様。 何か用があるならギルガメッシュから声をかけてくるだろうと、 俺はそれを待つことにする。 ギルガメッシュがおそらくベッドに腰掛ける。ぎし、という軋み。 俺は側にある小さな机の椅子に座っている。 そうして、静寂。 互いの呼吸だけが聞こえる。 ぱら、と本のページを捲る音。 …見られている。 わかるほどの強い視線。 まるで空気が俺の身体を撫でているような、そんな錯覚。 俺の身体の隅々を、愛撫でもしているかのように。 俺はそれ以上耐えられず、振り向きギルガメッシュを見た。 当然ギルガメッシュと目が合う。 赤い瞳が俺を舐めるように見ていた。 知らず身体の芯が痺れる。 こいつの視線は、甘い毒のようだ。 俺が振り向いても、ギルガメッシュはただ俺を見るだけ。 ベッドに腰掛け、脚を組み、悠然と、口元は薄く笑みの形。 「…ギルガメッシュ。何か用があるのか?」 結局俺は、そう問いかけていた。 ギルガメッシュは目を細めて。 「解らぬか?見ておるのだ。」 そう愉しげに言う。 「見られてるのは解る。…何がしたいんだ。見て面白いものでもないだろう。」 俺が重ねて問えば、あろうことかギルガメッシュは。 「見て、愛でているのだ。光栄に思えよ、雑種。」 そんなことを、言いやがった。 ぐらりと視界が揺れた。 こいつは最近、妙なことを言う。 性行為の最中に言う言葉はすべて流せる。 だが、それ以外の時に言われると、わからない。 こいつにとってはただの餌でしかない俺に、 まるで■しているとでも囁いているような―― 違う。これはただの戯れだ。俺の思い違いだ。 だが確かに、以前よりも執着じみたものが視線に含まれていることに俺は気付いている。 だが気付くなと無意識に思考を止めている。 こんな、災厄の塊に、惹かれるなどあってはならない、と。 「どうした雑種。…ああ、見てやるだけでは足りぬのか。」 ギルガメッシュの視線に欲が混じる。 「…っ、何、言ってやがる。」 反論した声はみっともなく掠れていた。 ギルガメッシュは右手を俺へ向けて差し出し、 「来い、士郎。」 俺の名を、呼んだ。 たったそれだけのことで、俺は抗えなくなる。 口内に知らず溜まった唾液をごくりと飲み込む。 喉はからからに渇いていた。 ひとつ息を吐き出して。 ギルガメッシュに逆らうことなど出来ず、俺は椅子から立ち上がり、ふらふらと ギルガメッシュの前に立ち、その手をとった。 ベッドの端に腰掛けたギルガメッシュの脚の上に導かれる。 自分の脚を開いてギルガメッシュを跨ぐような形で膝立ちになる。 そうして与えられる口付け。 俺の唇を割り、口内を犯すギルガメッシュの舌。 俺の舌はそれに絡めとられ、吸われ、翻弄される。 「っ…ん、ん…ぁ…」 ギルガメッシュの手が、俺の下肢に触れる。 下着ごとズボンが引きずりおろされて、すでに反応しだしている中心が露になる。 「よく、濡らせ。」 唇を離したギルガメッシュは、そう言って指を二本、俺の口に咥え込ませた。 意図は嫌というほどわかっている。 おとなしく俺はギルガメッシュの指に舌を這わせた。 ギルガメッシュは俺の上着も剥ぎ取り、素肌をさらした胸に顔を寄せ、 赤い尖りを唇で挟み込み、きつく吸い上げる。 「あっ」 思わず高い声が上がってしまい赤面した俺を、喉の奥で笑い、 ギルガメッシュは軽く歯をたてながら舐る。 あいているもう片方の手は俺の中心をなぞる。 指先で焦らすように形をたどり、先端を擽る。 僅かに滲んでくる腺液をすくいとり、根元をたどり、それよりも奥にある後孔に擦り付ける。 それを何度も繰り返す。中心には強い刺激は与えられない。 それが少しずつ辛くなってくる。 「ぅ…っ、ん、く…っ」 眉をよせ、目を閉じ、俺はギルガメッシュの指をただ舐めた。 ギルガメッシュが俺をいいように弄るのはいつものことで、 慣れることは無いが、なんとか耐えることはできる。 指が口から引き抜かれる。 はぁと熱い息を吐いて、俺はギルガメッシュを見た。 ずっと俺を見ていただろうギルガメッシュは、相変わらず愉しげで。 俺の唾液で濡れそぼった指を下ろし、先ほどまで俺の腺液をつかい、 擦り付けていた後孔にあてがった。 無言で促され、俺は息を吐いて力を抜く。 ずぶりと埋め込まれる中指。 それは数回抜き差しした後、すぐに人差し指も添えられ二本になる。 初めは痛みに、次第に快感に震え、力が入らなくなってくる脚。 「良い。我に掴まっておれ。」 ギルガメッシュが自らに触れるのを赦す。 昔は、この行為はただ一方的に奪われるだけだった。 俺がギルガメッシュに触れることなど赦されず。 それが少しずつ変化していった。 その事が、何を意味しているのか。 考えることを、やめる。 俺は言われた通りにギルガメッシュにしがみついた。 ギルガメッシュの頭を抱きこむ形になる。 ギルガメッシュは俺の胸に歯をたて、吸い付き、紅い痕を残す。 後孔を解す指は先ほど俺が濡らした二本に加え、もう片方の手の指もつかい、 今、何本、のみこんでいるのか。 「っあ、はぁっ、っん、ふ、ぅ…」 堪えきれず零れる自分の甘い喘ぎ声に耳をふさぎたい。 自分だけが乱されているような気がして、たまらない。――だから。 「…あ」 指が引き抜かれ、ギルガメッシュが自らのものを取り出し、俺の後孔にあてがう。 腰を掴み、引き寄せ、 「欲しいか。」 熱のこもった声で、俺の答えを強要してくるギルガメッシュ。 この瞬間は、わりと、好きだった。 熱いのは、欲を感じているのは、自分だけではないのだと、思えて。 けれど、そのまま欲しいと答えることは抵抗があって。 俺は自ら少し腰を落とし、ギルガメッシュの熱に自分の後孔を擦り付けた。 冷静になって考えれば、この行動の方が恥ずかしいのだが、 今はそんなこともわからない。 ギルガメッシュはそんな俺を見て、薄く笑うと。 腰を強く掴み、ぐ、と強引に、俺の後孔にその熱をねじ込んできた。 「ぐ…ぅ、あ、あぁ…あ、はっ…っ」 自身を貫く灼熱に、悲鳴混じりに喘ぐ。 容赦なく一息に全てを含まされて、腹が熱で満たされた。 「あ、っ、は、はぁっ、は…は」 息を吐いて熱を逃がそうとする俺に構うことなく。 「あっ、あ、ぅあ…あ」 すぐに突き上げてくるギルガメッシュ。 俺は目の前の身体にすがりつく。 ギルガメッシュが笑う。 俺はギルガメッシュの上着を掴んで、そこから少し覗いた肌を見て、 目を、見張った。 ギルガメッシュが服を最低限しか乱さないのはいつものこと。 ギルガメッシュの肌は、いつも服に隠されている。 だから、気付いたのは初めてだった。 思えばいつもは深夜、暗闇の中ですることが多かったので、 それも今まで気付かなかった原因かもしれない。 今はまだ、日は落ちていない。 こんな時間から、何をしているのかと、一瞬よぎったが。 それよりも、気になった。 ギルガメッシュの上着の隙間から、僅かに覗く肌。 赤く光る、刺青のような線が、見えた。 「ギルガ、メッシュ、っ、お、まえ…肌、に、何か…っ、ひか…って…」 突き上げられながら、途切れ途切れになりながらもギルガメッシュに問うと、 ギルガメッシュは動きを止めてくれた。 俺はじっとギルガメッシュの僅かに覗いた肌をみる。 「…気になるか?コレは、昂揚すると浮かび上がるモノだが。」 俺が何を気にしているのか気付いたギルガメッシュが、そう聞いてくる。 俺は素直に頷いた。 「みたい。…みせて、くれ。」 強請る。直後、自分でも驚くぐらい、無意識に言っていた。 そんな俺をどう思ったのか。 ギルガメッシュは鷹揚に頷き、俺を促す。 …俺が、服を脱がせても良い、ということだろうか。 おずおずと俺は手を動かして、ギルガメッシュの上着に手をかけた。 下のシャツをはだける。 そこに現れたものを見て、俺は息を呑んだ。 筋肉が程よくついた、均整のとれた白い肌に、赤く浮き上がる、刺青のような線。 誤魔化すことなど、できない。 見とれた。 綺麗だと、自然に思った。 ああ、駄目だ。俺、こいつに、やっぱり惹かれずにはいられない。 自分自身に、うんざりする。 ギルガメッシュはおそらく、自分だけでなく、他の人間にとっても災厄の塊だろう。 そして、生者では無い。 死者に惹かれるなど、あってはならないのに。 自分の気持ちに気付いてしまった以上、きっと、何があっても俺はこいつを手放せない。 こんな思考を俺が持っていると知れば、ギルガメッシュは思い上がるなと怒るだろうが。 仕方ないだろう。俺は物言わぬ食物では、無いのだから。 正直に言ってしまえば。 自分を見るギルガメッシュの視線に、少しずつ違うものが混じってくるのを、 俺は嬉しく感じていた。 それは俺をモノではなく、ヒトとして見てくれていると感じたから。 俺の思い込みなら別にそれでもかまわない。 俺がそう思ってしまった事実は消せない。 ギルガメッシュが俺に向ける視線の意味を、今はまだ、知らなくてもかまわない。 今は、認めてしまおう。自分が感じてしまった想いを。 単純に人を好きになる、という感情とは、また違う気もするが。 自分の歪さを、受け入れる。 「…そんなに、嬉しいか?士郎。」 ギルガメッシュが、目を細めて俺の頬を機嫌よさげに撫でてくる。 いつの間にか俺は、笑みを浮かべていたらしい。 「…ああ。うれしい。」 こうして、そっとギルガメッシュの肌に触れても。 赤い線を辿るように撫でても。 そんな俺の行動を、赦してくれることが、嬉しい。 今更のように、つながったままだったことを思い出して。 俺は赦されるままにギルガメッシュに腕をまわして抱きついた。 強請るようにギルガメッシュの耳元で熱く息を吐けば、ギルガメッシュが笑う気配。 「強請るのが、随分と巧くなったものだ。」 嘲るような色が混じるその言葉に、俺は羞恥に顔が熱くなったが、 かまうものかと、さらに強く抱きつけば。 ギルガメッシュはようやく、欲しかったものを、与えてくれた。 明るい室内。 俺は今まで目を背けていた、自身の心の歪さと正面から向き合い、 そして、受け入れた。 2222キリリク。金士でどのようなものでも良いとのことでした。 …お言葉に甘えすぎました。やりすぎました。 言峰士郎で金士。ホロウのあの半裸ギルの赤い刺青捏造ネタ。 そして、やはりえろ無しでは考えられず…。 せめてと、がんばって甘めにしてみました…! こんなものになりましたが、少しでも気に入って頂ければ嬉しいです。 カズキ様にかぎり、フリーです。 2222リクエスト、ありがとうございました!!