舞台の裏側





「…あんた、死んだよな、確か。」 「そうか、死んだのか、私は。」 「…………その、はずだ。それはともかく、なんで俺の夢に出てくるんだよ。」 「逆である可能性に見ぬ振りをするか。侵入者は衛宮士郎、お前であるかもしれん。」 現実味の無い、真っ暗な空間。 そこにぽつんと一対の1人がけのソファー。 片方に俺は座っていて、向かいのもう片方に座るのは、よりにもよって言峰綺礼だった。 俺は早々に、これは自分の見ている夢だと決めつけた。 そしてその上で首を傾げる。 思い出したくもない、存在が強烈すぎて忘れることもできない、生理的に受け付けなかった、 既に死んだ男が、俺の天敵が、今目の前にいる。 言峰は、先程言葉を交わしたきり口を閉じ、今はただ、俺を真っ直ぐに見ているだけ。 全てを見透かすように。底の見えない暗い目。 自分の中の何もかもが、暴かれるような嫌な感覚。 だが何故か、俺はこの嫌な男を無視できなかった。 もう気付いている。 俺と言峰は表裏なのだと。 アーチャー、未来の衛宮士郎であるあの男とはまた別の所で、俺は言峰とも繋がっていた。 「…あんたと、直接戦うことが出来なかったのが、少しだけ、残念だな…。」 ぽつりと、そう口にする。 遠坂から言峰の最期は聞いている。 俺は言峰と、それほど深く関わることは無かった。 並行世界の俺がもしいるのなら、或いは言峰と深く関わった俺もいるのかもしれない。 それを羨ましいと思う自分がいる。 「確かに、この手でお前に引導を渡してやれなかったのは、悔やまれるな。」 言峰はそう言うと目を伏せ、ひっそりと口元だけで笑う。 「それはこっちの台詞だ。」 負けじと言い返し、俺も笑う。 既に終わったことだ。今更やり直せるわけでもないし、その気も無い。 だから俺は笑うしかないし、多分言峰もそうなんだろうと思う。 「衛宮士郎。」 「なんだよ、言峰綺礼。」 「お前の歪みを見届けることが出来ないのは、実に残念だよ。」 「……ああ、今更この歪みを戻せるなんて、思ってない。俺はこのまま、正義の味方として生きていく。」 「く……面白いな、お前は。」 「うるさい。」 他愛のない雑談。妙な夢だ。 だがこれが自分の夢なら、俺はもう一度、言峰綺礼と話がしたかったのかもしれない。 自分の想いを、確認する為に。 どれぐらいの時間が流れたのかは解らない。 お互い語ることも尽きて――そもそも仲良く談話、などという間柄ではないが、 どちらともなく、ソファーから立ち上がった。 「ではな、衛宮士郎。残りの人生を存分に謳歌するがいい。」 「そういうあんたは大人しく成仏して、もう化けて出てくるなよ、言峰綺礼。」 互いに最後の言葉を送り、背を向けて足を踏み出す。 俺はもう振り返らなかったし、多分言峰もそうだろう。 どこか清々しい気分で、俺は暗闇をあてもなく歩み続けた。 「………あ、朝、か。」 目が醒める。 夢を見ていた気がするが、はっきりとは覚えていなかった。 誰かに夢で会っていた気がする。 誰だったのか、果たしてそれは夢だったのか。 『…まあ、いいか。』 思い出せないなら仕方がない。 きっとたいしたことでもないだろう。 俺は緩く頭を振った後、布団から抜け出し服を着替えた。 そして部屋から出れば、廊下の先に見知った人影。 「おはようございます、シロウ。」 「おはよう、セイバー。」 そしてまた、1日が始まる。                           ―――繰り返す。 そんなわけで、一応ホロウ絡みというわけで。 ホロウには出てこない2人を。UBW後の士郎と言峰。 アンリが士郎の殻を被る前夜、7日の夜、本物の士郎が見た夢。 言峰の存在は、士郎の中の記憶と『アンリマユ』がもつ記録が混ざったものというか。 なので夢だけど言峰は贋者であり本人でもある、みたいな。