――――/エミヤ





ここは、<座> 英霊と呼ばれるようになったモノが辿り着く、 死後、輪廻の輪から外されし魂の牢獄。 魂に実体など無い。 ならば、今こうして、俺が見ている<座>の風景は、 生前、俺が思い描いたイメージに他ならないのだと思う。 幾多の本が乱雑に置かれた部屋。 この部屋の外側は何も無い。 否。 赤茶けた大地。 無数に乱立する鋼。 そして、遥か空の彼方。 遠く軋む歯車。 それは、エミヤシロウの固有結界。 俺は、<座>という場所を、こんな風にイメージしていたらしい。 部屋には椅子が二つ。 その片側に俺、衛宮士郎が座し。 そして向かいには。 俺が惹かれた、俺の先。 英霊エミヤ―――アーチャーが、いた。 アーチャーに見える<座>の風景は、俺とはまた違うのかもしれない。 俺とアーチャー、互いの共通点は、自分以外の存在の認識という一点のみか。 結局。 俺はアーチャーを守護者から引きずりおろすことは出来なかった。 アーチャーを喚び。 数年、アーチャーと共に生きて。 アーチャーの傍で、俺は死を迎えた。 そうして、俺自身も今では英霊エミヤと呼ばれる存在で。 同じエミヤシロウだから、こうして同じ<座>に押し込められたのか。 だが、俺達は全てが同じではないから、ひとつに交われず。 エミヤという英霊は、二人になった。 それだけの話。 初めてこの場に俺が現れた時。 アーチャーは、ただ不可解な顔をした。 俺はアーチャーと別れた直後で。 けれどアーチャーにとっては、俺と在った数年など、 ただの記録として本体に書き込まれているだけなのだから。 そのことは承知していたので、俺は彼に、記録を探るよう促した。 俺は、おまえの為に生きた、衛宮士郎なのだと。 ―――        今まで、自分以外の存在を赦さなかった世界に、異物が紛れ込んでいた。    否、異物というには、この世界に馴染みすぎている存在。    ソレが何なのか。ヒトの形をしていた。自身と同じモノなのだという認識もできた。    だが、何故。    こちらの疑問を察したのか。ソレが語りかけてくる。    自身の記録を探れと。そして。ソレが、口にした言葉。    『俺は、おまえの為に生きた、衛宮士郎だ。』    エミヤシロウ。    えみや、しろう。    衛宮士郎。    ―――――――士、郎?    記録を捲る。自己に沈む。    ――符合する、記録を、見つけた。    ああ、それは、確かに………。    視界がクリアになる。    仮初の眼に映った姿は。    自身と似ていながらも、全く別の。    オレの為に生きるなどと言い、それをオレも認め、受け入れ、惹かれた。    ただひとりの、衛宮士郎―――。 ――― そして、記録を検索し終えたのか、アーチャーは俺を正面から見据えて一言。 「確かにおまえのような、たわけが相手では、オレも殺す気が失せる筈だ。」 そう、呆れた風に言って。 淡い笑みを、見せた。 俺は。 こいつを守護者から引きずりおろすことよりも。 ただ、こいつと共に、在りたい。 そんな自分勝手な願いを取っただけだったんだと。 アーチャーの笑顔を見た瞬間、思い知った。 <座>に、時の概念は、無いようなもの。 微睡むような感覚が殆どのような気さえする。 本体である俺達は、ただ、<座>に在るだけ。 そうして、あらゆる時代に、本体の分身が喚び出される。 基本的に俺達は別々に喚ばれる。 俺も既に何度か、守護者として動かされた。 意思は無い。 力のみを振るい、記録という形で本体に還る。 凄惨な記録。 アーチャーが、俺を、衛宮士郎を呪った理由も解る。 こんなものを、何度も何度も繰り返して。 終わりなど無く。 だが、俺がこうして守護者になった意味はあった。 単純に守護者が一人増えたことで、アーチャーにまわされる分が僅かだが減っている。 少しでもアーチャーの魂にかかる負担を減らせているなら。 俺はそれだけで救われる。 耐えて、いける。 稀に俺達二人が、同じ時代、同じ場に喚び出されることもあった。 そんな記録も、あった。 部屋に積み重なる本―記録は、俺のものも随分増えた。 どれぐらいの時が流れたのか。 俺達は時折、言葉を交わす。 他愛の無い話をする。 触れ合うことは無い。 いや、いつも触れ合っているようなものか。 俺達は表裏一体。 俺は英霊エミヤの一部だから。 ―喚ばれた感覚に、意識を向ける。 「あ。」 「喚ばれたな。」 「聖杯戦争……か?俺も喚ばれた。  英霊二人を実体化させるだけの魔力を持っているのか、すごいな。  ……遠坂、かな。」 「さて。それは記録が戻らない限りはなんとも言えん。」 「もし遠坂だったとして、俺は気付けるんだろうか……。」 「召喚が不完全なものでなければ、おまえならば、オレよりも先に分かるだろう。  オレとは違い、記憶の磨耗がおまえには無いのだからな。」 「召喚が不完全って、今までの記録に何か、あったのか?」 「記録には、彼女に召喚を受けた当初はいつも記憶が曖昧だったとされている。」 「……なんか…遠坂らしいというか。  そうか。俺達には記録って形でしか伝わらないけど。  久しぶりに自我を持った状態で、現界するんだな。  久しぶりって言い方も、可笑しいか。」 「…そうだな。」 そうして、俺達は、目を閉じる。 いずれ、記録として書き足されるだろう、二人のエミヤの聖杯戦争。 その結末に、救いがあるようにと、祈りながら。

2月1日/アーチャー





聖杯の力と、召喚者の魔力。 それらを受けて、この身は実体化し―――――――落ちた。 派手な破壊音を撒き散らす。 実体化に伴い、落下による衝撃で痛みを感じる。 ――何が、起きた? エミヤ 「……早く、退け。」 「……悪い。まだ馴染んでいないせいか、身体がうまく動かない。」 「………む。」 「なんだ、おまえだって同じ状態なんじゃないか。」 「…この現状を説明できる者が現れる前に、どうにかしたいものだな。」 「ここにはいない、みたいだな。――あ、足音。」 「…手遅れ、か。」 an outbreak of a war....... 20080201 二人のアーチャー召喚。 UBWトゥルーEDその後(弓士)のさらにその後。 という、一つのパラレルワールドってことで。 ありえないのは自分がよくわかってる! でも妄想ですから。 聖杯戦争中は、二人同時に実体化はさすがに凛でもキツいので、 基本的には実体化するのは片方ずつ。 二人の間だけでの意思伝達が出来たり。内緒話。 なんとなく、辿るのはFルートかなーと。 バーサーカー戦で生き残る、という方向で。 イリヤとも仲良くなればいいなとか。 しかしどこで退場させるかまでは逆に考えづらく…。 あと凛がアーチャーの正体に気付いてしまうだろうな、長く現界すればするほど。 セイバーVSアーチャー戦が起こる可能性も。 …そんな聖杯戦争ネタでした。